前略 川久保玲様
あの日は、夕方から表参道界隈でパーティが3件もありました。最近パーティやイベントがやたらに多いように思います。
あの日3件目のパーティは、「マーク ジェイコブス」青山店の2周年を祝うもので、2周年というのも中途半端ですが、「2」に因んで、双子を集めた風変わりで賑やかな会でした。
そう言えば、マークは「ルイ・ヴィトン」の今回のパリコレでも、双子にダミエ柄を着せたショーをしていましたね。
自分のブランドも契約しているブランドもゴチャ混ぜになっているような印象ですが、今の時代、それはそれで仕方ないのでしょうか。
「マーク ジェイコブス」のパーティを出て、表参道の交差点の方へほろ酔い加減で歩いて行って、あなたの店の前を通りかかると、なにやら店の模様替えをしているようでした。
10時近かったでしょうか。店の中には、見覚えのある小柄で黒ずくめの女性がまめまめしく動き回っているのがガラス越しに見えました。あなたでした。
私は思わず携帯電話のカメラのシャッターを押していました。その姿があまりにも神々しく見えたからです。
すると「撮影はダメです。カメラを没収しますよ」と言いながらそばに寄ってくる男性がいました。あなたの夫君のエイドリアン氏でした。
顔は笑顔でしたが、語調は真剣でした。私は慌てて携帯電話を胸のポケットにしまいました。
次の日からこの店で始まる故岡本太郎とのコラボ商品の販売のための模様替えだったのですね。
そうこうするうちに、店の中からあなたも出てきて「岡本太郎知っているでしょ?」。
「『芸術は爆発だ』の人ですね。あなたは『ファッションは爆発』の人だからピッタリですね」とかつまらないことを言ったのを覚えています。
その後、地下鉄に乗ってあなたを撮った写真を見て、驚きました。
コラボ商品の陳列をしているその姿はまるで遊びに夢中になっている少女のようです。
論語に「子いわく、これを知る者はこれを好む者に如かず、これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」とありますが、この写真は艱難辛苦するクリエイターの姿ではなく、仕事を楽しむ少女です。
そしてもうひとつ、夢中ではあるが、その「夢中」の加減が半端でないということです。
何かに憑かれているような、鬼気迫る妖気が漂っているのです。何気なく押したシャッターが、とんでもない瞬間を捉えていたことに私は気付きました。
大袈裟に言えば、あなたの創作の秘密を垣間見たような気持ちになりました。
写真嫌いのあなたのことですから、ブログとはいえ、この写真の掲載には眉を顰められるかも知れません。
しかし、あなたのクリエイションの素晴らしさを書いた何万字以上に、この写真はその本質を衝いていると私は思います。間違っているでしょうか?
草々
(2012.12.19「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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