六本木のイタリアン・レストランで、来日中のイタリアの名門メンズウエア企業のオーナー主催のディナーがあった。
三々五々招待客が、隠れ家風のこのレストランに集まって来る。入り口のバーでは、ウエルカムドリンクとしてスプマンテが出された。
最近「フェラーリ」と並んで、イタリアを代表するスパークリング・ワインとしてめきめき名を上げている「フランチャコルタ」である。
悪くはないが、どうも今ひとつ。
店のギャルソンは「よく冷やしてお出しするように申しつかっています」ともう1杯私のグラスに注ぎながら話しかけてくる。でもこの「今ひとつ感」は何だろうかな。
私は、かつて有名なイタリアのファッションブランドのファミリーの一人と都内のイタリアン・レストランでランチのテーブルを囲んだときのことを思い出した。
卓上にフランスのシャンパンが並んでいるのを見て、彼は弁解がましく「フランスなんて我が国の植民地みたいなもんだが、シャンパンだけはあいつらの方が旨い」と悔しそうに話していたものだ。
どうやらわたしも彼と同意見のようである。
WWDジャパンに関わるようになって30年になるが、この間シャンパンを口にしなかった週は数えるほどしかなかったと思う。自慢しているわけではない。そういう業界なのである。
そして、さらに述べれば、その80%は「モエ エ シャンドン」(そのトップブランドは「ドン ペリニオン」)「ヴーヴ クリコ」(そのトップブランドは「グラン ダーメ」)を始めとしたLVMH(モエ ヘネシー ・ルイヴィトン)が傘下に保有するシャンパンだったと思う。
イタリアのスプマンテとフランスのシャンパンを比較する以前に、私の舌は完全にLVMH化していたようである。
それだけ「ルイ・ヴィトン」「ディオール」を筆頭にLVMHのイベントやパーティが多かったということでもある。
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LVMH
(Moet Hennessy Louis Vuitton)
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LVMHは、シャンパーニュの有力ブランドは大半買収しているが、スティルワイン(いわゆるシャンパン以外のワイン)のシャトーにはあまり関心がなく、所有している有名ワインは「イケム」くらいではないか。
スティルワインはシャンパンに比べ気候要因で出来不出来が大きく左右されるし、利益率がシャンパンに比較して劣るためだと言われている。
ちなみに私が一番好きなLVMH傘下のシャンパンは「クリュッグ」である。
本来、シャンパンは好きというわけではなく、最初の2、3杯で次に赤のスティルワインに移るのだが、「クリュッグ」は飲み続けても平気である。
記憶に間違いがなければ、かつて「ブルガリ」の日本でのパーティでは、LVMH傘下のシャンパンが供されることはなかった。
が、昨年LVMHに買収されてからは、そのパーティでは、LVMHのシャンパンが出るようになった。当然のことである。
また現在「エルメス」は、LVMHにその株式の22.3%を買われており敵対関係にあるが、それ以前から「エルメス」のパーティでは、LVMHのシャンパンは決して供されることはなく、「ルイ ロデレール」が振舞われてきた。
そのトップブランドの「クリスタル」は「ドン ペリニオン」に匹敵するシャンパンの世界の両横綱である。
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Louis Roederer CRISTAL
“黄金のシャンパン”
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シャンパンの酔いは、スティルワインの酔いとは違って、なんというのかそこはかとなく淡い。
立ち上る泡がすぐ消えてしまうような、一夜限りの享楽の切なさを感じるところがフランス的である。
ファッションの世界には、まさにぴったりの酒なのである。
(2012.11.23「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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