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短編小説の名手として、有名なのはアメリカのオー・ヘンリー(1862.9.11-1910.6.5)、イギリスのサキ(1870.12.18-1916.11.14)、フランスのモーパッサン(1850.8.5-1893.7.6)、ロシアのチェーホフ(1860.1.29-1904.7.15)だろう。

 日本なら、芥川龍之介(1892.3.1-1927.7.24)、太宰治(1909.6.19-1948.6.13)ということになるのだろうか。

 日本の2人は自殺だが、いずれも短命なのも共通している。因果関係でもあるのだろうか。小説も短く、人生も短く、ということなのか。

 最近、モーパッサンの短編小説を再読した(ラジオの朗読番組TBS「文学の扉」で偶然聞いたのを機に新潮文庫を買った)。

ギ・ド・モーパッサン

ギ・ド・モーパッサン

 余談だが、短編小説の名手モーパッサンのフルネームは、アンリ・ルネ・アルベール・ギ・ド・モーパッサンという長ったらしいものである。

 1889年に完成したエッフェル塔が大嫌いで、見るのも嫌なのでエッフェル塔のレストランで食事をし続けたエピソードは有名だ。変わり者である。

 梅毒に罹り、晩年は自殺未遂を引き起こすほど悲惨だった。

 新潮文庫の翻訳者である青柳瑞穂も書いているが、師事した学究肌のフローベールと違って、直感に従って人間の赤裸々な真実を奔放に書き飛ばしたモーパッサンの短編は今でも全く古びていない。

 さて、再読したのは彼の「宝石」という短編である(ラジオの朗読番組TBS「文学の扉」で偶然聞いたのを機に新潮文庫を買った)。

モーパッサン短編集Ⅱ

モーパッサン短編集Ⅱ

←「宝石」を収録。

 美しい妻が死んで、残された貧乏官吏の夫は、妻が残した宝石を鑑定に出す。するとそれらが高価なものばかりであることが判明する。

 男は、美しい妻に言い寄った男たちの贈り物だったことを知り、それらを売って大金持ちになるが・・・・・・。

(※葉羽:注 右の背景画像:モーパッサンが「花崗岩の宝石」と絶賛したモン・サン・ミッシェル修道院)⇒

 同じような内容でもっと有名な「首飾り」もついでに再読した。やはり貧乏官吏と美しい妻が主人公。

 2人は憧れの上流階級の舞踏会に出かけることになって、妻は知り合いの夫人(貴族)から高額の首飾りを借りる。が、舞踏会で妻はその首飾りを紛失。

 2人は、似たような高額の首飾り(といってもイミテーション)を借金して買って返す。

 それから、2人は借金返済のために爪に火を灯すような倹約生活を10年続け、借金を完済するのだが・・・・・・。

 2編ともオチがあるので、結末は省略したが、是非読んでみてほしい。人生の皮肉というのがぎっしり詰まっている結末だ。

モーパッサン短編集Ⅰ

モーパッサン短編集Ⅰ

←同シリーズは「Ⅲ」まで出ている。

 特に注目したいのは、宝石という貴族財が、この時代(19世紀後半)のパリでは、いわゆる庶民階級に降り始めているのがわかる点。

 ちなみにラグジュアリー・ビジネスの世界では、エッフェル塔の完成を待って開かれた1889年のパリ万博で金賞を受賞した「ルイ・ヴィトン」が世界的注目を集めている。

 この万博の日本館で見た日本の家紋からインスピレーションを得て、二代目のジョルジュ・ヴィトンはかのモノグラムを創出したのは有名なエピソードだ。いわゆるベル・エポックの時代である。

 そうした社会学的・経済学的な時代の捉え方が知ってか知らずか、見事になされているのに感心する。モーパッサンという作家のただならぬ炯眼に恐れ入る。

パリ万博の様子

パリ万博の様子

(Wikipediaより)

 特に「首飾り」の主人公のマチルダが、10年間の節約生活で自慢の容色をすっかり失うのだが、代わりに贅沢を夢見る虚栄を捨て人生に対して圧倒的な自信を獲得するあたりが実に見事に描かれている。

 相変わらずラグジュアリー・ブランドのバッグや靴やジュエリーを安直に欲しがる現代女性にこそ一読をお勧めしたい2編である。

                

(2012.10.30「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

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