渋谷駅も東急、JR、東京メトロによる再開発が予定されている。
(※再開発計画図:右の背景画像⇒)
現代の消費を考える上で、重要な2つのポイントがあると思う。"Saving Money" と "Saving Time" だ。
長きにわたって経済が縮小を続け、収入が全く増えない日本においては、前者の傾向はますます強まっている。
アパレル市場の覇権を握った感のある「ユニクロ」ブランドの成長や2008年9月13日に日本初上陸した「H&M」を始めとするファストファッション・ブームに明らかだが、可処分所得の減少した消費者がこうした低価格衣料を購入するのは、「賢明な消費」というよりも「生活防衛」の帰結でもあった。
一方 "Saving Time" も公私ともども多忙をきわめる現代人にとっては、その購買行動を決定する重要な要因だ。
消費者が買い物にさく時間は年々減少しているのは明らかであろう。"Saving Time" の最も端的な例は、ネットショッピング(eコマース)の急拡大だ。
昨2011年に、日本のネットショッピング市場は6兆7,000億円を記録して、百貨店市場の約6兆円を抜き去った。
その隆盛は、リアル店舗に要するコストを大幅に削減できるなど、商品供給側のメリットから語られる場合が多い。
が、店舗への往復の時間、混雑する売り場などを考えて外出を控え、ネットショッピングに勤む現代人が増加中なのは "Saving Time" が購買行動の根底にあるからだという見方もできる。
もちろん"Saving Time" と "Saving Time"の2大要因によって購買行動が決定されてしまうわけではない。
パソコンの前に座ってファストファッションを購買する図というのは生存に必要な要素を食事ではなくビタミン剤やサプリメントで補充するロボット人間のようで無味乾燥の極みだ。
一方、特に若い女性に余暇の過ごし方を尋ねるアンケートをすると、相変わらずネットも含めたショッピングが上位のランクインしている。
ショッピングはやはり女性たちにとっては楽しい時間でもあるのだ。ただし、購買の場所が変化している。
「WWDジャパン」今号の特集である「ファッションを売る最強立地 駅の力」も、やはり、この"Saving Time"という視点から捉えても良いかもしれない。
特に毎日数百万単位の乗降客があるターミナル駅の販売力が近年特に注目されている。
乗り換えの合い間にショッピングができる駅ビルは忙しくて時間がない現代女性にとっては、うってつけのバイイング・スペースであるのだ。
実際にルミネを筆頭にしたJR系小売業のここ10年ばかりの大躍進はその証左であろう。
その年商は3兆円に迫り、百貨店業界トップの三越伊勢丹の年商1兆2399億円を軽く凌駕している。
例えば、名古屋ではジェイアール名古屋高島屋、京都ではジェイアール京都伊勢丹、札幌では合弁事業ではないがテナントとして大丸がJR物件に入居しているが、いずれの地区でもマーケットの重心を変化させるほどの成功を収め、ターミナル百貨店の優位性を実証している。
もちろんJRだけではない。最近特に注目を集めているのが、小田急百貨店新宿店だ。
1階にある特選フロアに、昨年12月悲願の「ルイ・ヴィトン」を導入。同スペースの前年比で7倍の売り上げをマークして気を吐いている。
売り上げが7倍になっただけでなく、特選フロア全体の集客にも同ブランドは多大な貢献を果たしている。同店ではさらに今年3月に「ティファニー」を導入。好調な推移を見せている。
ラグジュアリー・ブランドでは横綱級の2ブランド導入で意気上がる同店だが、ラグジュアー・ブランドでも、今やトラフィック(交通量)を最重要視する時代になっていることを痛感させる出来事だった。
また新宿エリアでは、ルミネが伊勢丹と協業して「イセタン ミラー」を3月にオープンし、化粧品のラグジュアリー・ブランドの導入を開始した。これも駅ビルのトラフィックに注目した結果と言えるだろう。
ルミネでは、LVMHグループのブランドでは「マーク バイ マーク ジェイコブス」のテナントを擁しているだけだが、将来的には、他の本格的ラグジュアリー・ブランドの導入も現実味を帯びて来ている。
日本におけるラグジュアリー・ブランドは、その拡大期をリーマン・ショック(2008年9月15日)の3、4年前に終えており、より効率の高い売り場へのシフトが課題になっているが、そのポイントは何よりもトラフィック。
10月に予定されている大丸東京店の改装オープンは「ルイ・ヴィトン」を筆頭にラグジュアリー・ブランドが導入されているのが目玉。東京駅に隣接する同店のトラフィックを重視した結果である。
当面は「駅の力」にポイントをおいた売り場再編が進みそうだ。
(2012.9.20「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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