昨年12月5日にオープンした代官山の蔦谷書店が話題になっている。
「TSUTAYA」ではなくて、アナログに蔦谷書店なのである。
(※右の背景画像⇒)
正式には4,000坪の敷地に誕生したDAIKANYAMA T-SITEと言い蔦谷書店はその中心的存在で1号館~3号館からなり、すべて2階建ての低層建築である。詳細は、ググって欲しい。
特に注目したいのは、2号館2階のラウンジAnjinで「平凡パンチ」「太陽」などの懐かしの雑誌や「VOGUE」などの海外雑誌とセレクトされた書籍やアートに囲まれた座席数120席の空間。
珈琲やアルコール、食事を楽しみながら過ごせる空間である。クリエーターが応接間替わりに使っているのが目立つ。
とにかく低層の建築群とアナログな店づくりが心地良い。実際老若男女が平日・休日を問わず連日この蔦谷書店を目指して群がっている。
この旧山手通りに面する蔦谷書店は今東京で最もホットな場所と言っていいだろう。
代官山が注目されたこともあって、従来から旧山手通りの中心的存在であるヒルサイドテラスのオーナーである朝倉不動産の朝倉健吾・専務にインタビューした。
同氏は、槇文彦氏に設計を依頼した際、ヒルサイドテラスの基本コンセプトは「ヒューマンスケール、スローライフ」だったと話している。
今回、蔦谷書店プロジェクトを推進して来た増田宗昭=カルチュア・コンビニエンスクラブ社長も、朝倉氏に相談に来て、「そのコンセプトを生かした場所にしたい」と話していたというが、たしかにヒルサイドテラスと蔦谷書店を貫く精神には同じものがある。
代官山は旧山手通りと八幡通りの2エリアに分かれているのだが、閑静な佇まいを残す旧山手通りと異なり、八幡通りはアドレス、ラ・フェンテといった商業施設がいずれも2000年に誕生しているが、うまく行っているとは言い難い。
或る意味で商業主義が先行しすぎてしまって、代官山という街の本質を生かしきれなかったと言えるかもしれない。
代官山の蔦谷書店周辺を歩いていると、3月8日に逝去した森ビルの森稔・会長のことを思い出した。
森氏の真骨頂は「バーティカル・ガーデンシティ」と呼ばれるもの。経済効率を求めた超高層化によって、余った土地を緑地化しようとする構想で、六本木ヒルズがその代表的な存在だ。
「ヒューマンスケール、スローライフ」のヒルサイドテラスや蔦谷書店とはまさに真逆の発想だが、どちらが正しいわけでもないだろう。
ただし、これから低成長というか、成長が難しくなることがほぼ確実な日本では、「ヒューマンスケール、スローライフ」のコンセプトが相応しいように思えるのだ。
最近、あまり登場しなくなってしまい、その健康が安じられる橋本治氏の著作に「日本が行く道」(集英社新書)があるが、これはかなり破天荒な問題エッセイだ。
「日本はとりあえず高層ビルを全部壊してしまうべきだろう。それから何かを始めるべきだろう。そうしたらきっと中国もいずれ何が起こっているかわからないが、日本のサルマネをして高層ビルを壊し始めるのではないか。すべてはそこから始まるのではないか」。
意見というよりもかなりアナクロな「思い」に近いものではないかと思うが、なにか当たっているような気がしないでもないのである。
(2012.5.27「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)
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