原発事故ですっかり有名になった福島から東京に出てきて40年近くになる。大学入学のための上京だったが、なによりゴダールを始めとしたヌーヴェルバーグの映画が観られるのが嬉しかった。
「カトル・ド・シネマ」とかいう名画鑑賞クラブに早速入会して、千駄ヶ谷の日本青年館とか中野公会堂とかで映画を観まくっていたものだ。
何せ福島では「戦艦ポチョムキン」を民青主催の上映会で観ただけで補導対象になったぐらいだから名画に飢えていたのだろう。
ネットサービスで世界中いつでもどこでも昔の名画が観られる今から見れば愚かな上京の理由である。
ファッションの流行も今では、東京と地方ではほぼ同時と言われているし(異論はありそう)。東京の優位性っていうのは、なんなのだろうか。
ライブ?有名教師や有名人と実際に会える?寿司(コレばっかりは譲れないか)を始めとしたグルメ?でもそんなことは日帰りでなんとかなるだろう。
ん~ん、優位性って何なのかしらん。
最近銀座で取材したあと、ラーメン同好の友人から教えられた新橋の「銀笹」(ぎんざさ)というラーメン屋に寄った。
場所は新橋と汐留の中間。昭和通りの昭和シェル石油のスタンドの真裏の細い通りにある。古風なシモタ屋風の店構えで見るからに美味そうな店だ。
昼どきなので店前に5人ほど近くのOLやらサラリーマンが並んでいる。
こんな路地でひっそり隠れるようにラーメン屋をやっているというのもいかにも東京的なのだが、人が行列しているいるというのもまた東京的である。
10分ほど待って店内へ招き入れられる。定番の銀笹ラーメンは塩と白醤油の2種類があってなんと800円。
いかに東京といえども800円はいくらなんでもと思いつつ塩を注文。ついでに名物という鯛めし300円も。
いやあさすがに1杯800円もとるだけあって実に見事なスープだ。
あっさりしているのに複雑なメランジェ。麺、チャーシュー、シナチク、青菜、鯛つくねすべてにこだわっている。
丼は片口になっていて余ったスープは鯛めしにかけて召し上がれということらしい。この鯛めしがまた手を抜いていなくてイイ。
昼からちょっとした贅沢気分である。これはたしかに評判になる。
ラーメン1杯で800円もとるのだから当然だろうと言われるかもしれないが、逆に言えば、800円とってもそれに値するものが提供できる店は滅多にない。
味だけではない。この店いわゆる物好きがやっているという酔狂な感じがたまらないのである。単に金儲けでやっているのではないことがひしひしと伝わってくるのである。
たしかにこんな店、東京にしか存在しないとふと思った。
言ってみれば、こういう「酔狂」こそが東京という不思議な街の他に誇るべき優位性と言えるのかも知れないとぼんやり考えた。
今の世の中、金儲けがしたい奴は東京に出てくるしかないのだが、「酔狂」な世界で生きてみたいという輩もやはり東京に棲息するしかないのではないか。
久方ぶりに長く続いて欲しい店だと思った。
(2011.12.22「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)
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