9月8日に始まったニューヨーク・コレクションを皮切りに、いわゆるコレクション・サーキットがスタートした。
NYコレクションでちょっとした話題になったのが「グリ」のファッションショー。知る人ぞ知るブランドだ。
デザイナーはグリナラ・カリモワ(1972年7月8日生まれの39歳、バツイチ。なんとウズベキスタン共和国のイスラム・カリモフ大統領の長女である。
なぜ話題になったのかと言えば、主催者のIMGによってNYファッション・ウィークへの参加を取り消されたカリモワ嬢は、NYの高級レストラン「チプリアーニ」でショーを敢行。
しかしレストラン周辺では、最近メディアで取り上げられたウズベキスタンの綿花収穫期の児童不法労働問題を批判する人々が抗議行動。
実際にこの児童不法労働に対しては、その数週間前にギャップやH&Mなど数十の小売企業が「ウズベキスタン産の綿花を使用した衣料品は販売しない」と宣言。
ウクライナと並ぶ綿花の原産地であるウズベキスタンにとっては大打撃になっていた。
もちろん綿花価格大暴騰の昨今、安価な(児童不法労働のためばかりではない)ウズベキスタン綿花が使えないのは、特にファストファッション企業にも打撃なはずだ。
ちなみにショーに使われた素材は「綿は一切なく、シルクのみ」と関係者。
毎年好事家が発表している「世界最悪独裁者ランキング」でも毎年カリモフ大統領はベストテンをはずしたことのない大物だが、その長女がファッション業界進出の野望をもっているのを知る者は少ない。
ラクロワ社が数年前に破綻して新たなスポンサーを探していたときも、グリナラ嬢は手を上げていたが、残念ながら叶わなかった。
ウズベキスタンは綿花と並んで天然ガスやレアメタルの宝庫でもあり、かなりの富裕層が存在し、首都タシケントには少なからぬラグジュアリー・ブランドのブティックがある。
そうした中でグリナラ嬢は文化問題担当外務次官の肩書き(不思議な肩書きだ)をもつ政治家にして長身の美人デザイナー、まさにウズベキスタン社交界の華なのだ。
「おまえ、なんか見てきたように書いているけど」と言われそうだが、実は2008年の10月に「第1回スタイル・ウズ(ウズベキスタン・ファッション・ウィーク)」に招待されてタシケントを訪れたことがある。
トルコなんだかロシアなんだかモンゴルなんだかわからない不思議な国である。
その「スタイル・ウズ」開催のために、高田賢三やフリオ・イグレシアスがゲストとして招かれ、世界遺産のサマルカンドではロッド・スチュアートがコンサートで熱唱した。グリナラ嬢とはその期間中に何回も会った。
彼女のブランド「グリ」のファッションショーに加えて、ジュエリーブランド「グリ」のデビューもあって、さながら彼女のための「スタイル・ウズ」といった感じが横溢していた。
洋服の出来?ノーコメントにしておく。その時はパリコレデビューを彼女は匂わせていたのだが、今回ニューヨークに登場した。どんな戦略変更があったのだろうか?
エジプトのムバラク、リビアのカダフィと独裁政権の崩壊は世界のトレンドだが、ウズベキスタンはどうなっていくのだろうか。他人事には思えないのである。
またグリナラ嬢が国の威信を賭けて、ファッションの世界でどうのし上がっていくのかも注目である。
(2011.9.28「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)
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