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「今、儲かっている日本のアパレルメーカーはどこですか?」とよく尋ねられる。

 この質問には「そんな企業あるんですか?」という意地悪なニュアンスがある。

 今更、「ユニクロ」をやっているファーストリテイリングと答えるのも芸がないし、ファーストリテイリングの売り上げはすでに日本以外の方が多いのだから、日本のアパレルメーカーといえるのかどうか。

 最近、このコラムでもご紹介した作業着最大手ワークマンという答えもあるが、基本は作業着であるからファッション性が今一つである。

 服が売れなくて本当に困っている日本のアパレルメーカーという範疇ではなく、スポーツメーカーということなら、ゴールドウインという企業が絶好調だ。

 まあカジュアルウエアもスポーツウエアも最近は大差ない時代ではある。

ゴールドウイン

 来年の東京オリンピック・パラリンピックを控えて、総じて日本のスポーツメーカーの業績は悪くないのだが、その中でも飛びぬけて好調なのが、ゴールドウインである。

 同社は富山県小矢部市津沢のニット工場として1951年に創業した。

 1964年の東京オリンピックを前にした1963年に社名を津沢メリヤス製造所から現在のゴールドウインに変更した。「当社のウエアを着たら金メダルが獲れる」というベタな社名である。

 実際、東京オリンピックでは、体操、バレーボール、レスリングなど金メダリスト16人中の12人がゴールドウインのユニフォームを着ていた。

 これで後発のスポーツウエアメーカーだったゴールドウインは一気に知名度をアップしたのだった。

 オリンピックをジャンピングボードにして成長してきたゴールドウインだが、予想外の大成功に終わった今回のラグビーワールドカップ日本大会も同社に大きな恩恵をもたらした。

 大健闘した日本チームが着ていた「カンタベリー」の赤いボーダーと桜のマークのジャージは同ブランドの日本でのサプライヤーである同社が製作したものだったのだ。

(※右の背景画像:「カンタベリー」による日本代表ジャージを着たマイケル・リーチ主将(ロシア戦))⇒

 そのレプリカの売り上げは実に20万枚。その売り上げもバカにならないが、日本チームの好成績の裏にゴールドウインありの伝説がまたまた生まれた。

 ちなみにこのカンタベリー社製のジャージを着ていたのは本大会出場20チーム中7チームでダントツのブランドだった。

 このニュージーランドに本社を置くカンタベリーオブニュージーランド社はラグビーの世界では圧倒的な存在なのだ。

カンタベリーオブニュージーランド

 さてゴールドウインの最近の好調を支える要因は2つある。ひとつは、いまだに勢いが衰えない「THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)」ブランドの爆発的人気だ。

 同社の年間売り上げ849億円(2019年3月期)の実に60%を売り上げていると推測される。

 ゴールドウインは1978年に同ブランドの輸入販売を始めたが、1994年には米国本社から日本での永久商標権を買い取って、日本独自の商品企画を打ち出しているのが好調の原因だ。

 街を歩けば、「THE NORTH FACE」ブランドのリュック、ウエア、キャップなどに出会わない日はない。

 実はこの2年間でゴールドウインの株は4倍になっているのだが、「THE NORTH FACE」と「カンタベリー」の好調だけではこんなに株は上がらない。

 その将来に向けてゴールドウインが出資しているスパイバー(スパイダーとファイバーの造語)社が大変な注目を集めているのだ。

 同社が開発している「QUMONOS」のという蜘蛛の糸から作る繊維が画期的なのだ。石油からではなく、微生物のたんぱく質からこの繊維はまさに夢の線維。

「ザ・ノース・フェイス」とコラボした
「QUMONOS」を使ったムーン・パーカ

 ナイロン、ポリエステルなどの石油から作られる合成繊維は環境への負荷が大きいし、第一石油自体が50~100年先には枯渇すると言われている。微生物のたんぱく質を合成した繊維は再生可能なサステナブルな繊維だ。

 NASA、米軍、デュポンなどが開発を進めていたが、実現には至らなかった。それが、日本のスパイバーによる開発が成功したのだから凄い。

 これにいち早く共鳴して投資してきたのがゴールドウインだ。

 そのQUMONOSを表地と刺繍部分に使い「THE NORTH FACE」とコラボしたムーン・パーカが今年8月にお披露目された。

MOON PARKA

 ムーン・パーカのネーミングはアポロ11号の月面着陸から50年の今年を記念したものだ。価格は15万円(税別)で販売されたのは50枚。応募者を対象に抽選販売された。

 2015年にプロトタイプが発表された、水に対する収縮性の改善などに時間がかかって、今回のムーン・パーカまで実に4年。透湿、防水、保温機能が飛躍的に改善されたという。今後の課題は量産化である。

 QUMONOSは50年に一度誕生するかどうかのレベルの新素材といわれているが、今後が楽しみである。

                

(2019.11.29「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

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