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アパレル業界には、作業着(または作業服、ワーキングウエア)という分野がある。分かりやすく言えば現場作業着である。

 参考までに書くと、作業員着とは別にユニフォーム(制服)という分野がある。

 この両分野はファッションとは最も縁遠い分野と言えるかもしれない。しかし、東京オリンピック・パラリンピックの開催が1年後に迫り、その両分野のうち作業着業界はいまウケに入っている。

 各大手作業着メーカーは、それぞれ業績を伸ばしているのだが、特に業界のトップ企業であるワークマン(本社群馬県伊勢崎市)が異様な業績の伸びを見せている。

 いわゆる作業着も伸びているのだが、ワークマンが昨年9月にショッピングセンターのららぽーと立川立飛で始めた「ワークマンプラス」という新業態が大伸長しているのだ。

 この「ワークマンプラス」という業態は、「ワークマン」の中でもカジュアルウエアとして着られそうなアイテムを集めて、カジュアルショップ化したものである。これが、ヤング層を中心に口コミで広がったらしい。

 ワークマン社では、第2号店として昨年11月に川崎市多摩区中野島に路面店をオープン。これもオープン当初は行列ができて、1年経とうという今でも店内は混雑が絶えない。

 客のほとんどは20代、30代の男女。一体、何が人気なのかと言うと、やはり圧倒的な安さである。

 昨年11月の時点では、「暖(だん)パン」と呼ばれる裏地がボアのストレッチパンツ2900円、防水・防風のブルゾン3900円などが飛ぶように売れていた。

 安さに加えて、そもそも作業着であるから、とにかく機能性が重視されている。生死に直接かかわるアイテムもあり、生半可な機能性のものは問題外なのだ。

 作業着は定番商品がほとんどで販売期間も長く、バーゲンもほとんどないから、こうした信じられない低価格が実現できるのだ。

 確かに、ファッションの世界では、カーゴパンツやツナギを始めとして、ワークウエアという分野がカジュアルゾーンで根強い人気を続けているが、まさかズバリ作業着が注目されるとは、コロンブスの卵である。

 立川、中野島での成功に気をよくしたワークマンは、「ワークマンプラス」を立て続けに出店し現在全国に22店(8月末時点)を数える。

 加えて、「ワークマン」の店を「ワークマンプラス」の店に替えたり、従来の「ワークマン」の店の中に、「ワークマンプラス」のコーナーを設ける予定だという。

 こういう販売拠点もカウントすると関東エリアだけでこの9月は26店舗の大量オープンになった。

 2020年3月決算では「ワークマンプラス」」は全国167拠点に及ぶ予定だ。

 同時点でワークマン社は約900店体制で年商1000億円に達する見込みだが、そのうち「ワークマンプラス」は20%以上の売り上げになりそうだ。

「ワークマンプラス」はもちろんいわゆるガテン系(現場作業員)も買うが、現場作業員ではないが、気質的にはそうした人たちと共通点のある、たぶんマイルドヤンキー(気質はヤンキーでも犯罪性や暴力性のないヤンキー)の非正規雇用者が主要顧客なのではないかという気がする。

「ユニクロ」や「無印良品」の無色透明なシンプルウエアではなく、もっと主張があるカジュアルウエアを探している若い層にドンピシャリだったような気がするのだ。

 たとえば「ワークマンプラス」のキャッチコピーは、「機能と価格に新基準/ 風に負けない。動きを追求。雨に強い。」である。しかし私には、「世の中の不条理に負けない。幸福を追い求める。打たれ強い。」と読める。

 こういう気持ちで3900円の「ワークマンプラス」のブルゾンを着ているのではないか。そう考えなければ、この大不況のアパレル市場で1年半にも満たない期間で200億円以上も売り上げた「ワークマンプラス」の飛ぶような売れ行きを理解することができないのだ。

 日本の全労働者5650万人のうち、非正規社員は40%になろうとしている。そして驚くべきは、その4分の3は、年収200万円以下だという。

 これが小泉純一郎&竹中平蔵内閣の構造改革とその継承者安倍晋三第2次内閣のアベノミクスの恐るべき「成果」である。

「ワークマンプラス」人気には、そうした「悪政」への抗議が込められている感じる。

                

(2019.10.3「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

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