「windblue」 by MIDIBOX


昨年のWWDジャパンにラグジュアリー・ブランドの規模に関する注目すべき記事が載っていた。

 上場会社でも、ブランド個別の数字が明らかになるのは非常に珍しく、研究者も含めて実に貴重な記事である。新年の最初にちょっと振り返ってみよう。

 まず、6月18日号のP.4のグッチ社のマルコ・ビッザーリCEOのインタビューによると、「グッチ」ブランドは2017年12月決算で62億1120万ユーロ(約8012億円、以下の邦貨換算レートは1ユーロ=129円)でこれは、前年に比べて41.8%増。

(※右の背景画像「マルコ・ビッザーリCEO」)⇒

 達成期限は明らかにしていないが、次の目標は100億ユーロ(1兆2900億円)だという。今の勢いなら、今年の12月期は無理にしても来年12月期には達成しそうである。

 ちなみに2017年12月決算時の営業利益率は34%で、年商100億ユーロ達成時には40%が目標だという。粗利益率ではないので念のため。

 この記事には、「グッチ」のライバル・ブランドである「ルイ・ヴィトン」の売り上げ(年商)に関するあるアナリストの推定も載っている。

 その金額は90億ユーロ(約1兆1610億円)以上だという。いやはや、「簡単には手に入らない憧れの存在としての希少性」がLUXURY(ラグジュアリー)の本質であったはずだが、もはや年商1兆円という巨大規模になっているのである。

 またWWDジャパン昨年7月2日号P.7には、「シャネルが1910年の創業以来初の報告書を発表」のタイトルで、シャネル社の2017年12月期の決算の概要を発表。売り上げは96億ドル(約1兆464億円:邦貨換算レート1ドル=109円)、営業利益は26億9200万ドル(約2934億円)だという。

 「シャネル」の場合は化粧品ビジネスが半分以上を占める(推計ではあるが51億5000万ユーロという数字がある)のではないかと思われるし、世界ナンバーワンの猟銃メーカーのホランド&ホランドや水着のブランドを保有していたと思うが、それらがその後どうなっているのかなどは報告書には書かれていないようだ。

 いずれにしても「シャネル」ブランドは化粧品込みではあるがやはり、1兆円ブランドと言える。

 自分の不勉強を恥じねばならないが、ラグジュアリー・ブランドがすでに、1兆円時代に突入していたのには驚いた。最大手「ルイ・ヴィトン」でもせいぜい8000億円レベルではないかと思っていた。

 日本市場を見ている限り、とてもピークの1500億円(2000年あたり)をこえているようには思えないし、欧米がとりわけ好調ということもないだろうから、やはり中国マーケットがこの10年間で恐るべき伸長を見せたということだろう。

 「グッチ」「シャネル」についても事情は似たようなものだろう。

グッチ

 とっくの昔に、各ブランドとも日本市場を中国市場が追い抜いているということだろう。中国もあと10年程度はいけるだろうから各社とも強気なのだろう。

 ラグジュアリー・ブランドは、「イメージが摩耗するから売れすぎ注意」なんていうマーケティングの基本中の基本が全く通用しなくなっている。

 本当に、どうなっちゃっているのだろうか。

 「ファッションの世界は、ダイバーシティ(多様化)がその本質」なんて言いながら、巨大ブランドの寡占化が日々進行中なのだから、もう言葉を失う。

 例えば、日本一の小売り企業は、セブンイレブンとイトーヨーカドーを要するセブン&アイホールディングスだが、2018年2月期の連結決算では、売上高6兆378億円で営業利益3916億円。

セブン&アイホールディングス

 年商1兆円のラグジュアリー・ブランドの営業利益は営業利益率35%で3500億円だから、簡単に言って年商1億円のラグジュアリー・ブランドは、利益的には年商6兆円のセブン&アイホールディングスに大体匹敵する存在だと言ってもいいわけである。

 どちらがエクセレントな企業かは言うまでもないだろう。

 一体、いつごろからこんなモンスター状態になってしまったのであろうか。そして進撃の巨人状態はいつまで続いていくのだろうか?

                

(2019.1.22「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

PAGE TOP


banner Copyright(C) Miura Akira&Habane. All Rights Reserved.