新年明けましておめでとうございます。この歳になると、正月三ヶ日は新しい年への期待に胸膨らませるというより、なんとかやり過ごした旧年を振り返る休息の時という感じ。
先月末極私的回想をベスト・ツーショット編、ベスト・ラーメン編、ベストTV映画編と書いてみたが、まだ大事なことは回想しきれていない。
ノンジャンル編としていくつか取り上げて、新年を生きる極私的ヒントを探りたい。
1.逝った人々
仕事柄では、ユベール・ド・ジヴァンシィ、ケイト・スペード、芦田淳という3人のデザイナーの死が印象に残る。
最初の2人は、ブランドを大資本に売ってしまって、寂しい後半生を送った。特にケイトは鬱病になって55歳で首吊り自殺。
個人的には、毎週TVで観ていた「西部邁ゼミナール」の西部邁(写真)が1月、常々予告していたように多摩川で入水自殺したのがショックだった。
勃興するポピュリズム、つまり大衆の反逆に絶望していたように思える。
11月にはアル中だったジャーナリストの勝谷誠彦(57歳)が肝不全で逝った。
2.ホモ・デウス
ベストセラーになっているユヴァル・ノア・ハラリ(写真)著「ホモ・デウス」や新実在論のマルクス・ガブリエル著「世界はなぜ存在しないのか?」など、新しい歴史哲学や哲学が生まれている。
「A I(人工知能)の驚異的な進化で人間は神になる」というハラリの予言はとりたてて新しくもないが、少数の支配階級が支配する古代王制に歴史は逆進するということだが、その前に何かは起きないのだろうか。
3.ナオユキ
落語に凝った10年だったが、さすがに飽きた。よほどのことがない限り、見なくなった。コントも漫才は元々興味ない。
そんな時、なんとなくつけたTVで見て、ビックリしたのが、このボヤキ漫談のナオユキ(52歳)だ。このジャンルで今年最大の収穫だ。
スタンダップコメディアンと言ったほうがしっくりくる洒落たセンスもある。
しかも綾小路きみまろとか故牧伸二などにはないブラックでさらにホームレスティックな虚無感まである。
考えてみれば、こういう芸人が少なすぎる。
4.ジンジャー・コスタ=ジャクソン
2018年も新国立劇場でオペラを全演目(10公演)観たが、最高のパフォーマンスは細川俊夫作曲のオペラ「松風」(2月)だった。
ダンスと一体化した新タイプのオペラで度肝を抜かれた。
定番演目ではジンジャー・コスタ=ジャクソンがカルメンを演じた「カルメン」(11月)。
(※右の背景画像)⇒
とにかくこれだけ役に没入している歌手も珍しい。
完全にイッチャッテました。
5.イザベル・ファウスト
オペラを除くコンサートでは、11月に来日公演をしたパリ管弦楽団(ダニエル・ハーディング指揮)が演奏したベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲がベスト。
独奏者のファウスト、最近のCDや演奏会の評判が素晴らしく、かなり以前にCD聞いたときはそれほどではなかったので、大枚をはたいて聞きに行った(サントリーホール)。
評判通りでその成長に驚くと同時に、技巧、精神力ともに世界最高峰のヴァイオリ二ストの一人だと確信した。
6.W杯 「 ロストフの14秒 」/日本vsベルギー
2018年の6、7月には、ワールドカップ ロシア大会があった。
下馬評を覆して日本は決勝トーナメントに勝ち上がり、初戦はベルギー戦。2点を先取して日本中が歓喜に沸いたが、ベルギーに追いつかれ、ロスタイムに速攻でベルギーに3点目を許し大逆転負け。
そのベルギーの3点目(写真)を詳細に分析した「ロストフの14秒」は「江夏の21球」に匹敵するスポーツドキュメンタリーと話題になり、再放送では「ロストフの死闘」とタイトルが代わり時間も倍の2時間になった。
しかし、ハリルホジッチ監督の不可解な更迭に始まり、コロンビア(快勝)、セネガル(追いついて引き分け)、ポーランド(談合的敗戦)と大いに楽しませてくれたW杯だった。
7.ジャパンカップ2018/アーモンドアイ号
スポーツでは、テニスの大坂なおみの全米オープン制覇というのが2018年の金字塔だ。
極私的には、それに匹敵するのが、競馬のアーモンドアイ。
3才牝馬で3才牝馬三冠レースを制覇して臨んだジャパンカップで2分20秒6という信じられない世界新記録で快勝した。
しかし、個人的には、秋には日本では走らせずに、負担重量が楽な凱旋門賞に挑んで欲しかった。おそらく勝っていたと思う。
余談だが、アーモンドアイというファッション企業があって、デザイナーの白浜利司子(りつこ)さんとは親しいが、我がことのように、アーモンドアイ号の活躍を喜んでいる。
8. 21年ぶりに無冠で羽生時代が終焉
ファンクラブに入っているわけではないが、タイトル獲得通算99期の羽生善治・竜王(48歳)には今回タイトルを防衛して、前人未到の100期獲得を達成して欲しかった。
が、挑戦者の広瀬章人・八段(31歳)との七番勝負に、3勝4敗で敗れ失冠。
ここ3年ほど勝率も5割台で衰えは明らか。今後何かのタイトルを獲得する可能性はおそらくないだろう。
私の将棋への関心も急速に薄らぎそうだ。
9. 焼肉チャンピオン ザブすき御膳3800円
恵比寿に本店のある焼肉チャンピオンは名店だが、夜行くと調子に乗って大変なことになる。
このランチタイムの、ザブすき御膳3800円を1回食べてみたいと思っていたが、やっとありつけた。
ザブトンとかハネシタと呼ばれる希少部位だが、これをさっと焼いて、愛知・三河産の鶏卵・黄身を付けて、ご飯を巻いて食す。
不味いわけはないが、食べ終わると、この舐めきった値段に文句も言えなくなっていた。
10. 尾畠春夫さん(79歳)
こういう人が実際生きているということが山口県の行方不明2歳児救出で一般にも知れ渡ることになった。
偉いとか、素晴らしいとか形容するのも憚られる。ただ、ただ頭が下がるだけ。
なんとなく嬉しくなってくる。この世もまんざら捨てたもんじゃない。
◆番外名言 :2018年に一番刺さった言葉
思い出せないが、どこかで誰かが書いていた。
「たしか五木寛之がどこかでこう書いていた。
人間は泣きながら生まれて来て、泣きながら死んで行く。」
だいたいの人間は泣きながら死んで行くらしい。
なるほど不思議な生き物だ。
(2019.1.8「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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