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週刊新潮9月6日号をパラパラめくっていたら、P.33に「マドンナ御用達ドルチェ&ガッバーナ 3億円事件で日本社長のクビが飛んだ」という記事を見つけた。

ドルチェ&ガッバーナ

 「マドンナ御用達」で90年代にこのブランドがブレークしたのはたしかだがこのタイトルのコピーはちょっと古めかしい。

 週刊誌の記事だから話半分だろうと読んでいたが、裁判資料や日本法人広報部のコメントが文中に出てきて、かなり信ぴょう性がありそうなのである。

(C)週刊新潮

 簡単にまとめると:

 ドルチェ&ガッバーナ(以下ドルガバ)の日本法人社長に、昨年11月2日、ミラノ本社経理部長名で中国株を買うので中国の銀行の指定口座に送金せよとのメールが届く。

 この日本人社長は指示に従い送金。しかし、これがオレオレ詐欺で、2件送金したうちの1件280万ドル(約3億1000万円)が回収不能。

 ドルガバ本社は、日本法人の社長と担当者を解雇。280万ドルの損害賠償を求めて2人を提訴し2人の自宅は仮押さえされているという。

 今後、2人からの精神的苦痛に対する慰謝料請求などの反訴もありそうだ。

    

 最近も日本航空が同様の手口で3億8000万円を搾取されたばかりだが、生き馬の目を抜くファッション業界に生きる海千山千のビジネスマンが、簡単にひっかかるものなのかとも思うが、ミッションインポッシブルばりの騙しのテクニックがあるのだろう。

 いずれにしても解雇された日本法人社長と担当者には同情を禁じ得ない。

 海外ブランドの日本法人社長なんていうポストで高い年俸(2000万円は下らないはず)をもらっているのは、こういうリスク込みだという厳しい意見もあろうが。

(C)週刊新潮

 この「ドルガバ」だが、2011年にはセカンドラインの「D&G」を廃止してメインブランドの「ドルガバ」一本で勝負していくという大決断をした。

 「あまりコピーや偽物が出回っているため」とか「『D&G』は卸ビジネスをやっているため営業体制を構築するのに大人数が必要になり非効率」とかいろいろと理由が推測されていた。

 私が思うには、最近、セカンドブランド「マーク バイ マーク ジェイコブス」が廃止されて「マーク ジェイコブス」に統一されたのと同様に、いわゆるラグジュアリー・ブランドへの完全転換の一環だとみるのがよさそうだ。

マーク・ジェイコブス

 しかし、多くのファンを嘆かせたばかりか、セカンドブランドの廃止は、なかなか良い結果を生まないようである。「ドルガバ」しかり、「マーク ジェイコブス」しかりである。

 ドメニコ・ドルチェとステファノ・ガッパーナの2人組デザイナー(2人は2005年にパートナー関係を解消。ビジネス・パートナー関係は継続)による「ドルガバ」は1985年ミラノ・コレクションでデビューしてすぐに人気化したが、1990年代から2000年代前半に大きく成長したのは、簡単に言って「ヴェルサーチ」のマーケット・シエアを食ったためだろうと思う。

 創業デザイナーのジャンニ・ヴェルサーチ(1946~1997)が1997年7月15日に変質者の凶弾に倒れて(享年50)ヴェルサーチ帝国が揺らいだのと同時に、ドルガバ帝国が急拡大する。

ジャンニ・ヴェルサーチ

 カラブリア州レッジョ(イタリア半島のつま先でシチリア島とは目と鼻)生まれのジャンニ・ヴェルサーチとシチリア島パレルモ生まれのドメニコ・ドルチェ(1958年生まれ。「ドルガバ」の実質的なコンセプター)にはメンタリティで共通するものが多い(風貌は正反対だが)。

 この2人が創るセクシーでホットな女性像は、基本的に「南の女」、ラティーナ(ラテンの女)である。

 ミラノに程近い北イタリア・ピアツェンツァ生まれのジョルジオ・アルマーニが描く女性像=辛口の「北の女」の対極だと言えば分かってもらえると思う。

 特に最近の「ドルガバ」のミラノ・コレクションは、シチリア・ルーツのラグジュアリー・ブランドであることを、これでもかという具合に強調している。

 周知のように、パリ一極集中のフランスと異なり、イタリアは地方分権で各地を代表する・ラグジュアリー・ブランドがある。例えば、「プラダ」(ミラノ)、「グッチ」「フェラガモ」(フィレンツェ)、「フェンディ」「ブルガリ」(ローマ)といった具合である。

ドメニコ・ ドルチェとステファノ・ガッバーナ

 シチリアにラグジュアリー・ブランドがあるとすれば、それは「ドルガバ」だというわけなのである。

 シチリアとレッジョ・カラブリアと言えば、マフィアの本場である。このため、「ドルガバ」にも、その手のバカ話が絶えない。

 あたかもシチリア島民やレッジョの人々は全員マフィアみたいな勢いで創作された話で笑ってしまう。

 傑作なのには、ドメニコの実家はシチリアで縫製工場を経営しているが、「マフィアに脅されて『D&G』の偽物を大量に縫製して、パレルモから船で輸出していた」なんていうのがある。

 今回のドルガバ・ジャパンをめぐるオレオレ詐欺事件でも、またぞろマフィアが絡んだ資金洗浄なんていう馬鹿話が出てくるのだろうか。

 日本における販売元は、まず1989年に契約を結んだオンワード樫山が行っていたが、1996年にインポーターの三崎商事に代わり、2002年からは2001年に100%ミラノ本社出資で設立されたドルガバ・ジャパンが行っている。

ドルガバ・ジャパン

 最近驚いたのは、日本の旗艦店のような存在として親しまれて来た表参道ヒルズの1、2階の店舗を出て、2017年に南青山に路面店(旧「ミュウミュウ」)をオープンした件。

 表参道ヒルズ店は、表参道ヒルズオープンの2006年から10年契約で入居していたもので、契約更新しなかったわけだ。

 10年前に比べて、表参道ヒルズからの提示家賃は2倍近くになっていたと思われるが、「ドルガバ」サイドは、当然「ノー」。

 交渉はシビアだったらしい。そして、ラチがあかないと分かれば、さっさと出て行ってしまう。日本での販売元も簡単に変更されているし、ドライなのである。

ドルガバ青山旗艦店

 シシリアン・ビジネス・スタイルというやつなのだろうが、今回のオレオレ詐欺事件での日本法人社長と担当者への厳しい対応など、我々ウエットな日本人にはちょっと理解に苦しむところではある。

                

(2018.10.31「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

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