年末年始、ファッション業界に嵐が吹き荒れた。
ひとつは映画界の大プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタイン(65)に端を発したセクハラ追及が遂にファッションにも及び、まずはカメラマン、もとい写真家のテリー・リチャードソン(52)がヴォーグなどを発行するコンデナスト社から追放処分。
ついで巨匠写真家のブルース・ウエーバー(71)、現在最も売れっ子の写真家マリオ・テスティーノ(63)が槍玉に上がっている。
重度な被害者もいるらしいので、軽率な発言は慎みたいが、映画プロデューサーのワインスタインや式守伊之助と違って、ファッション写真家というのは、名が売れれば売れるほどセックス、センセーショナリズム、反社会、反常識というテーマに傾斜するわけで、その流れでハメをはずす輩が多いことは想像に難くない。「だから何なんだ」と言われればそれまでだが。
ウエーバーの「カルバン クライン」のメンズ・アンダーウエアの広告写真や「アバクロ」のメンズウエアのカタログなどは、写真としても見事だし、当然のことながらホモセクシュアルの人々から絶大な支持を集め、ブランドの認知度アップに絶大な貢献をした。
(※ブルース・ウェーバーのカルバンクライン広告写真:右背景)⇒
「だから何なんだ。それと男子モデルへのセクハラ行為は別問題だろう」と言われればそれまでだが、そういう輩でないと撮れない写真というのもあるのである。
ウエーバーはセクハラ行為は否認しているが、ウエーバーとテスティーノは当面コンデナストへは出禁になった。
なにやら、共産主義者・社会主義者をアメリカ社会から締め出した1950~60年代の「赤狩り」を思い出させるような現象だが、この「ME TOO」(わたしも被害者よ)運動はしばらく続きそうである。
調子に乗った日本のキュレーションメディアがファッション界のホモセクシュアル・デザイナー一覧なんていうのをやっていたが、言うまでもなく男性デザイナーのほぼ90%はそうなのだから、一覧を作るなら、ストレート・デザイナーの方だろう。
もう一つはスエーデンのファストファッション企業のH&Mをめぐる嵐だ。
同社が自社の「H&M」ブランドのオンラインストアで「ジャングルで一番カッコイイ猿」とプリントされたパーカ(どうでもいいことだが今回もパーカーという表記が多かったがカタカナ表記するならパーカです)を黒人の少年に着せたことで、これは人種差別だとSNSなどで抗議が殺到し、H&Mは謝罪し問題の写真を削除した。
しかし、南アフリカでは抗議が過熱化し、1月13日には「H&M」のいくつかのストア内で器物破損や盗みなどの被害が出た。
最近トランプ米国大統領がアフリカなどの開発途上国を「便所のような国」と差別発言したことも火に油を注ぐことになったようだ。
H&MやZARAなどのファストファッションはその大半の商品の生産を労賃が激安のまさに開発途上国で行っている。その縫製工場の多くは、「スウェット・ショップ」と呼ばれ、劣悪な労働環境と未就学児童などの違法労働者によっていると言われている。
そうしたことで安価な価格を実現しているわけだが、今回の過激な抗議行動にもそうした背景が反映されていると言っていいのではないだろうか。
ついでに書くと、H&Mは全世界レベルでも売り上げの伸びが今一つで、WWDによるファッション・ビューティ・小売企業主要60社における2017年(1~12月)株価の騰落率ランキングでは、ワースト6位で-38.98%と低迷している。
著名写真家のセクハラ、人種差別をきっかけに噴出する過激な抗議行動。
世界の、人類の亀裂が露わになったような嵐が年末から年始にかけてファッション業界を襲っている。2018年はなかなか波乱含みの年である。
(2018.3.10「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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