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ジャンヌ・モローが7月31日にパリの自宅で亡くなった。享年89歳。いろいろな情報を総合すると、その日の朝、アパルトマンにやって来た家政婦が倒れている彼女を発見したらしい。

 死因は老衰。看取る者もいない、言わゆる孤独死。ジャンヌらしい最期だ。そんな女優だった。

ジャンヌ・モロー

 亡くなってみてwikiを見てみると、ジャンヌの母はイギリス人のキャバレーダンサー、父はフランス人のレストラン経営者とある。なるほど、顔の作りがフランス人らしくなかったが、それは母親のせいだったのか。

 若い頃からの彼女のポートレートを眺めてみたが、もちろん100人並みの美人ではあるが、例えばカトリーヌ・ドヌーヴ(1943.10.22~)に代表されるようなフランス人形のような所謂フランス美人とはやはりちょっと違う。

 甘さがないのである。辛口の女といってもいい。階級も決して上流ということはなくて、下流に澱んでいて上流にのし上がろうともがいている女である。実はここが彼女のセールスポイントだったような気がする。

カトリーヌ・ドヌーブ

 分かりやすく言えば、例えば、スペインの巨匠ルイス・ブニュエルが2人を起用しても、ドヌーヴには医師の妻と娼婦の二重生活を送る女(「昼顔」1967年)を割り当て、ジャンヌには小間使い(「小間使いの日記」1963年)を用意するというような具合なのだ。

 ちなみに第2次世界大戦後のフランスを代表する女優は誰か?という投票があるとすれば、ジャンヌとドヌーヴが票を分けると思うが、ジャンヌはヌーヴェル・ヴァーグ(1950年代にフランスに起こった新しいタイプの映画運動)の女王と呼ばれるように1950年代からルイ・マル、トリュフォー、ゴダール(「女は女である」の端役)の映画に出演しているが、ドヌーヴにはヌーヴェル・ヴァーグ映画に出演はないから、私などから言わせればハナから勝負にはならないのである。

 しかしもうジャンヌの映画を見たことのない若いファンばかりになれば、結果は違ってくるだろう。

 私に言わせれば、ジャンヌはモノクロ映画が似合う女優だったから、1950年代、1960年代が全盛だった。顔の輪郭がくっきりした辛口の女にはモノクロームの画面が似合っていた。

ジャンヌ・モロー

 とにかく悪女役がこれほど似合う女優はいなかった。煙草を吸うポーズが決まっていた。夫を殺してプカーと一服。「ああ、美味しいわね」。

 それとアンニュイ(倦怠)と言う形容詞がこれほど似合う女優もいなかった。今風にいうと「カッタルくて、やってられないわ」。

 それと、「やるときゃやるわよ」という無茶なところがあって、ヌーヴェル・ヴァーグ時代のように思い込んだら命がけ的な役も多かった。

 なんか、これじゃ場末のスナックの性悪ママみたいとかフランス版「極道の妻たち」ですかとか、ジャンヌを知らない連中からは言われそうだが、もう少し知的な感じがあった。

 いずれにしても、銀幕で見るのはいいが、あまり付き合いたくない女性である(笑)。

 先ほどのジャンヌVSドヌーヴの続きだが、ファッション的に言うと、ドヌーヴは「サンローラン」の顧客で、生前のイヴ・サンローランとも親交があったのは有名である。

 これに対してジャンヌは、「恋人たち」(1958年 ルイ・マル監督)に出演したが、この映画のクレジットには衣装は「シャネル」とある。

 また晩年の「クロワッサンで朝食を」(2012年)では、彼女は全編「シャネル」の私服を着用。ジャンヌはココ・シャネルとも親交があったという。映画とファッション、いかにも、フランス的なエピソードだ。

ジャンヌ・モロー「恋人たち」

 最近は日本とも縁の深いアラン・ドロン(1935.11.8~)が引退表明、そしてジャンヌの死去とフランス映画のひとつの終わりが浮き彫りになっている。

 願わくは、死去を機に、我々オールドタイマ―のためばかりでなく若い人々にジャンヌ・モローの出演した映画を上演、放映して、映画黄金期を教えて欲しいものだ。

 「死刑台のエレベータ―」(1957年 ルイ・マル監督)、「恋人たち」(1958年 ルイ・マル監督)、「突然炎のごとく」(1962年 フランソワ・トリュフォー監督)、「鬼火」(1963年 ルイ・マル監督)、「小間使いの日記」(1964年 ルイス・ブニュエル監督)、「マドモアゼル」(1966年 トニー・リチャードソン監督)、「黒衣の花嫁」(1968年、フランソワ・トリュフォー監督)。

 以上7本が私のおすすめ映画である。合掌。

    

PS 岸波さま

 写真は9月2日日曜日に日帰り帰福した際に母が入居の八島田の老人ホーム前から撮影。 晩夏だなあ。

 ミレーユ・ダルクも最近死去、アラン・ドロンも引退。

 中学校にウクレレと雑誌のスクリーンを持ち込んでた岸波、そのスクリーンにはヌーベル・ヴァーグのことは あんまり情報なかったなあ。

 その手の映画見たさに上京。その象徴的女優のジャンヌ・モローも死んじゃった。岸波通信にはあんまり出てないので、追悼文送ります。

                

(2017.9.9「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

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