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20年ほど前、ファッション業界で、アメリカ3大デザイナーと言えば、ラルフ・ローレン(1939.10.14~)、カルバン・クライン(1942.11.19~)、ダナ・キャラン(1948.10.2~)ということになっていた。

 1990年あたりには、この3人のブランドが日本で大ブレイクした。特に「ポロ ラルフ ローレン」の紺のブレザー(紺ブレ)とボタンダウンのオックスフォードシャツ、ジーンズの組み合わせは、「渋カジ」と称されて日本の若者の制服になった。

「渋カジ」ファッション

「ダナ キャラン」のディフュージョン・ブランド「DKNY」と「カルバン クライン」のライセンスブランド「ck」のキャップが飛ぶように売れた。

 しかし、この3人のうちカルバン・クラインもダナ・キャランも引退してしまった。本人が死なないのにブランドは残っているという例のパターンである。

 いちばん年長者だったラルフ・ローレンが年商8000億円の大帝国を築き上げてひとり現役続行しているというのは皮肉である。まさか、ポロのマークのロゴが「DKNY」「ck」などの文字ロゴに勝ったわけでもないだろうが。

 そのラルフ・ローレン社も6月10日に1000人のリストラを発表した。今年4月2日に終了した2015年決算が売上高7849億円(前年比97%)で営業利益が前年比56%の616億円に終わったためである(WWDジャパン6月13日号)。

ラルフ・ローレン

 帝国を築いたラルフ ローレン社でも最近の「ファッション不況」をモロに喰っているのだが、他の2社についても最近大きな変化があった。

    

 まず、LVMHがダナキャラン社を米国のアパレルメーカーG-Ⅲ社に売却した(WWDジャパン8月1日号P.8)。

 創業デザイナーのダナ・キャランを引退させたり、やれることはなんでもやったが結局浮上することがなかったようだ。売却額は6億5000万ドル(約689億円)。

 2001年にLVMHがアメリカ戦略の橋頭堡として買収した時の買収額は6億4300万ドル(約681億円)。意地でも買い値よりは高く売りたいという意向が働いたのだろうか。

ダナ・キャラン

「DKNY」が現在年商318億円、「ダナ キャラン」はせいぜい年商200億円程度だから、年商600億円程度の儲からないデザイナーズ・ブランド企業にしては少々割高な気がする。

 G-Ⅲのモリス・ゴールドファーブ会長兼CEOは「1年以上かけてなんとかLVMHを説得した。目先の利益ではなくポテンシャルを見込んだ」と語るが、これは少々楽観的に思える。お手並み拝見である。

    

 続いてはカルバン・クライン社がその全ブランドのクリエイティブ・ディレクターに、「 ディオール」のオートクチュールとウィメンズプレタのアーティスティック・ディレクターを務めたラフ・シモンズを任命したことだ(WWDジャパン8月8日号P.4)。

 ラフ・シモンズは「ジル・サンダー」での非凡な手腕をマルチブランド帝国のLVMHに見初められ、帝国の中枢ブランドである「ディオール」に抜てきされたのであるが、やはりちょっと不協和音があったのだろうか。

 業界関係者からは「ディオール」よりも「カルバン クライン」の方がはるかにラフ・シモンズの本質には合うのではないだろうかという声を聞く。

 私もミニマリズム&フューチャリズムをデザインのベースにおくラフ・シモンズには、はるかに「カルバン クライン」の方が適任だと思う。

カルバン・クライン

 このラフ・シモンズのデザイン監修で同社は全世界で現在の8100億円から1兆円への売り上げ増を目指している。

 ちょっと気になるのは日本での「ckカルバン・クライン」のライセンシーがオンワード樫山であることだ。

 オンワード樫山の親会社であるオンワードホールディングスは前述した「ジル・サンダー」ブランドの現オーナーであり、ラフ・シモンズが同ブランドのデザイナーを辞める時に「円満退社」ではなかったから、なにかシコリがあるのではないかなどと勘繰ったりする。

 が、まあそこはビジネスの世界だから、そんな面倒なことはないはずだ。

                

(2016.9.19「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

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