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明けましておめでとうございます。

 昨年は大手アパレルメーカー数社で大量店舗閉鎖や大規模リストラが行われるなど、日本のファッション・アパレル企業にとっては厳しい年だった。

 昨年に限らず明るい年というのもしばらく記憶にないが、少子高齢化や若年層のファッション離れがボディブローのように効いてきている。

 店舗のスクラップやリストラなどの対症療法でしのいでも縮小均衡の始まりでしかない。

 業界全体で新しいマーケットを創出する時期に来ていると思うが、その糸口すら見えていないのが実情だ。果たしてその手掛かりはどのあたりにあるのか。

 業界があまりに意気消沈していて壮大な未来を語るドン・キホーテも見当たらないから、自らヒントを探ってみた。

    

 今年は「下流老人」(藤田孝典著/朝日新書)がベストセラーになる一方、「老人の星」として五木寛之(83歳)や瀬戸内寂聴(93歳)がTV・雑誌を賑わせるなど、「老人」が本格的にクローズアップされた年だった。

 世界一の少子高齢化国家日本という事実を真正面から捉え始めた年だと感じている。

五木寛之

 9月に博報堂のセミナー「平均年齢50歳の国のマーケティング/2025年に向けて、企業は今、何を準備すべきか?」を受講した。

 現在、日本人の平均年齢は41.4歳だが、10年後の2025年には49.3歳になる。その時49.3歳以上の人口は全体(総人口予想は1億659万人)の30.3%を占める。

 人口動態から見れば、高齢者を労働力としてどう活用していくかと同時に、マーケットとしては50歳以上を対象にした商品開発が求められている。

 最近、「ジェロントロジー」(日本語訳は老齢学あるいは加齢学)という学問が注目され、東京大学には2009年に産学コンソーシアム「ジェロントロジー」が設けられている。

 設立趣旨として「人口構成が若い世代の多いピラミッド型の時代につくられた現在の社会システムや生活環境は超高齢社会のニーズには対応できない。新たなニーズは新たな産業を創出する」とある。

 すでに他業界ではアンチエージングの化粧品など、かなりの成功例が出ている。

 ファッション・アパレル業界でも、50歳以上のシニアマーケット向けの商品開発は急務と言われている。

 機能性を重視したユニバーサル・デザイン商品はかなり出回っているが、ファッションということになると、杖などの高齢者向け用品をファッショナブルにして思わぬ売り上げを得た雑貨メーカーがあるくらいでその成功例はほとんどない。

 唯一高齢者がよく買っている商品はラグジュアリー・ブランドであろう。

    

 パリ・ミラノコレクションに参加して、トレンドの牽引役として毎シーズンその動向が注目されているラグジュアリー・ブランドであるが、その基本はエージレスであり、その売り上げの大半は定評のある定番商品で、高齢で富裕な人々からの支持も圧倒的であるのは言うまでもない。

 歴史と伝統に裏打ちされて、しかも現代にも生き残れる革新力があることを毎シーズンのコレクションで立証している。このあたりにヒントがあるのではないか。

 先日三越日本橋本店の中陽次・三越伊勢丹常務執行役員本店長とこの話をした。同店の購買客の平均年齢について同常務は「50歳台ということになっているが、実際には60歳を超えているのではないか」と話し、三越日本橋本店の特別食堂で最も注文されているメニューについて、「第1位はうな重で、第2位はステーキ重だ」と笑いながら話す。

中陽次・三越伊勢丹常務執行役員本店長

 高齢顧客が多いことでは日本有数の店舗であるが、食堂の人気アイテムは、高齢者がいかにも好みそうな和定食でも刺身定食でもなく、うな重とステーキ重なのである。

 「今の高齢者というのは従来の視点で見ると間違う。ファッションの志向も同様」とのこと。

 ひとつ言えそうなのは、特にファッションの場合は従来もそうだったが高齢者向けの商品開発をしても、受け入れられづらい、ということだ。ましてや高齢者向けの売り場などというのは言語道断であろう。

 一般向けに開発されたクオリティの高い商品の中で、高齢者も求め易い商品がヒットするということである。特に高齢者向けの商品開発ではなく、高齢者も買ってくれるような商品開発が必要だということだ。

 そうだとすると、50歳以上がほぼ人口の3分の1を占めるような2025年の日本で、ファッションはシルエットもカラーも素材も今に比べてかなり保守的になるのだろうか。

 それとも、50歳以上が新しい担い手になって新しいファッションスタイルが生まれるのだろうか。

MADURO

 いずれにしても平均年齢50歳の国にふさわしいファッションがマーケットを支配することになるだろう。若者が引っ張るファッション市場という概念も変わるかもしれない。

 世界一の少子高齢国の日本がファッションのメインストリームに躍り出るチャンスかもしれない。冗談ではない。たった10年後の話である。

 ファッション・アパレル業界がこうした時代にどう活路を見出していくのか、もう時間はあまりない。

                

(2016.1.9「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

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