ファッション業界などという移り変わりの激しい世界に30年も棲息していると「流行」に飽いて「不易」に傾くことが年を経るごとに増えてくる。
とはいえ、歌舞伎の華麗よりは能の幽玄の方が性にあっている。その表裏とも言える狂言も嫌いなわけはない。
狂言師というと、ゼロ年代にスキャンダラスな活躍をした和泉元彌というプロレスまでやってしまったヒールがいたが、今は何をしているのだろうか。
そうはいっても狂言以外にやることもないだろうが。
今、人気の狂言師と言えば野村萬斎ということになるのだろうか。
「本流」なのだろうが、ちょっと鼻にかかった声と大仰さがなんとも狂言師っぽい。
スコッチウイスキーの「オールドパー」がスポンサードしている狂言ラウンジがセルリアンタワーの地下の能楽堂でやっているから覗いてみませんかと誘われた(10月15日)。
「オールドパー」と「狂言」のコラボ、異存のあるはずはない。
セルリアンタワーのバー(40階)では何度か飲んだことはあるし、ロビーで待ち合わせをしたこともある。そう多くはないが、記者会見やファッションショーを取材したこともある。
しかし地下2階にある能楽堂には行ったことがなかったから、これは嬉しいお誘いである。
なんと開演前にはやはり同じ地下2階に店を構える料亭の「数寄屋 金田中」が演目に因んだ料理を提供(有料)している。
さらにオールドパーを始めとしたアルコール類も提供(有料)されている。(※右の背景画像⇒)
一杯入って演目に集中するとマブタが下がってくる輩が少なくないが、演し物は狂言である。
狂言を軽んじているわけではないが、アルコールで滑らかになった頭の方が狂言の笑いがすうーっと入ってくるような気もする。
この狂言ラウンジを主宰するのは狂言界の若き旗手である大蔵流の大藏基誠(1979.3.3~)。
最近はあまりウイスキーというのを飲まない。飲むとしたらスコッチウイスキーをロックで飲む。
「オールドパー」というのもちょっと人を食ったウイスキーである。ラベルに老人の絵が貼られ、その横に1483―1635とある。
描いたのは大画家ピーテル・パウル・ルーベンス(1577~1640)。
老人は英国史上最長寿を記録した農夫のトーマス・パー(1483~1635)だという。
引き算すると享年152。そんな馬鹿な!!
英国流のジョークだろうと思うが、そうでもないらしい。英国王に謁見した記録が残っている。
「オールドパー」、すでに狂言的である。酒がすすむ。そろそろ始まりますという声があって、能楽堂に入る。快い酔いである。
始まる前にいろいろとトークがある。演技中でなければ撮影してもよいという。
演し物は「宗論(しゅうろん)」。身延山の参詣から帰る法華僧と善光寺から下向する浄土僧の宗教論争を面白おかしく扱っている。
実に楽しい舞台であった。次回の狂言ラウンジは12月17日(19:00開場20:00開演。演目は「萩大名」)。
また出掛けてみようか。
(2015.11.25「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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