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小説家の島田雅彦が台本を書いて三枝成章が作曲したオペラ「Jr. バタフライ」がある。

 プッチーニのオペラ「蝶々夫人」の後日談で、蝶々さんが自死したあとに残された遺児のその後を長崎への原爆投下とからめて描いている。たしかに残された男児の将来は気になる。

 同じプッチーニ作曲のオペラ「トスカ」を見るたびに思うのが、「トスカは実は死んでいなかった」という後日談オペラの構想が浮かんで仕方がない。

 特に現在、初台の新国立劇場で上演中の「トスカ」でトスカ役を演じるマリア・ホセ・シーリ(ウルグアイ生まれ)は、私のそういう妄想にとってはまさにピッタリのタフなラテン系美女だった。

川口直次による豪華絢爛たる舞台(第1幕)

(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)

 007シリーズ最新作「007スペクター」が日本公開間近だが、言ってみれば、ボンドガールのようなトスカなのである。

 セックスを求めてくる悪漢スカルピアなんてナイフで一刺しだし、大団円の聖アンジェロ城からのダイブ(客席を向いての背面落ちが見事!)だって、ちょっとしたトリックが施してあって脱出成功!

 みんながそうだと思っている、下の石畳に激突して即死なんていうシーンは全く思い浮かばないのである。

(※右の背景画像:第1幕のマリア・ホセ・シーリのトスカと恋人の画家カヴァラドッシ(ホルヘ・デ・レオン)/撮影:寺司正彦・提供:新国立劇場)⇒

 こんなパワフルなトスカはちょっと類例がないのではなかろうか。歌唱・演技もまずまずの出来である。

 というか、今回のカヴァラドッシ役のホルヘ・デ・レオンとスカルピア役のロベルト・フロンターリが歌も演技もウマすぎてマリア・トスカはかなり損をしている。

第2幕でトスカは悪徳警視総監スカルピア
(ロベルト・フロンターリ)を刺殺

(撮影:寺司正彦 提供:新国立劇場)

 ついでに言えば、この新国立劇場では2000年に今回と同じ演出、舞台、衣裳で「トスカ」を上演しているから、今回が実に6回目になるが、豪華な舞台美術(川口直次)は定番になりうる素晴らしさだが、トスカの衣裳とヘアスタイルがあまりにも古めかしくて、マリア・トスカには全く似合っていないのである。

 ミニスカートにノースリーブニットを着ても似合いそうなのに、この衣裳とヘアスタイルはないだろうとちょっと残念であった。

 ともあれこのボンドガール風のトスカは、「トスカ」は見飽きたという通にも一見の価値があった。

                

(2015.12.1「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

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