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海外のファッション業界関係者に「セレクトショップ」と言ってもまず通じない。「インデペンデント・ストア」といえばなんとか通じる。

 その店のオーナーが自分の好みでブランドや商品を選んで品揃えした店というのが「セレクトショップ」なのである。

南貴之氏

 従来のアパレル専門店とは違い、ファッション感度の高いこのセレクトショップが日本で本格化したのは1980年代だ。

 現在ユナイテッドアローズがナンバーワンセレクトショップ・チェーンになり、その年商は1000億円を誇る。しかし、その年商の70%近くはプライベート・ブランドだ。

 つまり、自社で企画・生産された商品群。これではいわゆるSPA企業(製造小売アパレル)と同じで、セレクトショップが本来持っているファッション好きを引きつけるような面白さからは程遠く、売り上げと利益重視の企業になってしまった観がある。

 一方ファッションの世界のイタズラッ子が仕掛けるインディーズ系のこの世に2つとないユニークなセレクトショップも続々生まれている。

 表参道と青山通りと明治通りの3つの道に囲まれたトライアングルには、住宅地の隙間を縫うように小さなセレクトショップが点在しているが、2月27日に実にユニークな店がこのトライアングルのまさに中心点にオープンした。

 穏田神社(おんでんじんじゃ)の近くのその店の名前は「グラフペーパー」。方眼紙の意味である。この「グラフペーパー」オーナー、自称キュレーターは南貴之(みなみたかゆき)氏である。

 南氏はセレクトショップ業界ではその名をよく知られている。「1LDK」などのインディーズ系人気セレクトショップを考案した人物だ。

 特に「1LDK」は国内に3店舗(中目黒、原宿、南青山)をオープンしているが、さらに今年年初にはパリ店もオープンした。

 その南氏が初めて自分の店を持つというので、この「グラフペーパー」のオープニングには、たくさんのファンが詰めかけた。

 神宮前5丁目の古いアパートの1階とバーカウンターもある2階にその店はある。

 入り口に看板が掲げてあるわけでもなく、通り過ぎてしまいそうだ。さらに店の中に入るとまるで商品が見当たらないのである。

 黒い板が部屋の側面に10枚ほど架けてあるだけなのだ。もちろんこの黒板を引っ張るとそこには服だとかバッグだとか陶器が収納されている。言ってみれば、お楽しみのブラックボックスと言ってもいいかもしれない。

 箱の中に入るのは、キュレーターの南氏が日本中を行脚して集めた逸品たちである。

 商品を巧みに陳列して購買意欲を掻き立てるのではなく、「私を信じてこのブラックボックスを開けてみて」というイタズラッ子らしい仕掛けである。

 最近のセレクトショップの「売らんかな」の姿勢に辟易したファッション好きにはたまらない。

 この「グラフペーパー」と並んで、2階には「ユトレヒト」という本屋、1階に「タンブラー&フラワー」という花屋が店を構えているが、なんとも時の流れが止まったような安らぎを覚える。

 ある意味日本のファッション文化の成熟を感じさせるような館である。

                

(2015.5.5「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)

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