2月は昔から冬の寒さのピークだが、これは今も変わっていないようだ。雨だか雪が降りそうなどんよりしたくもり空を見ていると外出する気にもなれず、暖房を入れて家のTVで映画三昧ということになる。
先週の土曜日、日曜日はなんと録画済みの3本を観た。「どら平太」(2000年/市川崑監督)、「人生万歳!」(2009年/ウッディ・アレン監督)、「シェルタリング・スカイ」(1990年/ベルナルド・ベルトルッチ監督)の3本。
このうち「どら平太」は作り手の都合の良いまま、スイスイとストーリーが進んでいく映画で全くもってあきれ返るような映画。
「人生万歳!」はウッディ・アレンが監督した40本目の映画ということだが、ウッディ・アレンに似たラリー・デビットが主演している。
ニューヨークの知識人たちの少し病んだ日常を面白おかしく描いた映画。寅さん映画と同じでマンネリの極致だが面白い。
作中、自称ノーベル物理学賞候補のウツ病の初老の男と結婚した21歳の娘を、イケメン男とくっつけようとするその母親が、そのイケメン男に「娘なら『ユニクロ』の店に3時頃いるから」とアドバイスするシーンがある。
その後「ユニクロ」の店で2人はバッタリ会ってカップル誕生。もう2009年の時点で「ユニクロ」はそんなにニューヨーカーに浸透していたのか。少なくともウッディ・アレンはその存在を認めているんだと妙に感心。
3本のうちでもっとも感動的だったのは「シェルタリング・スカイ」。
民放の映画放映だからCMは入るしズタズタにカットされているのだろうが、それにしても素晴らしい映像美だ。映画館でみたら、息を呑んだのではないか。
賛否両論の映画で「すべては撮影監督のヴィットリオ・ストラーロの勝利。ベルトルッチは何もしていないのでは」などという評価もあるほどだ。むろん、そんなことはない。
タンジールに永住してしまったポール・ボウルズという異色のアーティスト(映画のラストシーンに登場し箴言をつぶやく)が書いた小説「極地の空」を自由に脚色して結婚10年を経て倦怠期に入った夫婦のアフリカ北部での冒険譚になっている。
夫役にはデニス・クエイドかウイリアム・ハート、妻役にはメラニー・グリフィスが当初予定されていたが予算が極めて少なかったために、夫役はジョン・マルコヴィッチ、妻役はデブラ・ウインガーになったとウィキペディアに書いてある。
マルコヴィッチはかえってよかったと思うが、ウインガーは、演技はウマいが色気が全くない。ま、そんなことはどうでもよくて、とにかく砂漠を始めとした映像の美しさにどんどん引き込まれる。
現代の高解像度撮影ならもっと凄い映像がとれるという声もありそうだが、解像度の問題ではないのだ。映画というのは登場人物の心象風景と映像がシンクロして初めて出来上がるわけで、そういうことを教えてくれる映画は滅多にないのである。
砂漠を舞台にした映画というと、古くは「モロッコ」、極めつけの「アラビアのロレンス」、ヒッチコック・サスペンスの「知りすぎた男」ということになるが、この映画の砂漠撮影はそれらに勝るとも劣らない。
とにかくこの「シェルタリング・スカイ」が映画館で上映されることがあったら、是非出かけてみたいと思っている。
付言すれば、今盛んに論じられている近代西欧文明とアラブ世界との「文明の衝突」を先んじて描いているところにベルトルッチの炯眼を感じずにはいられない。
(2015.2.28「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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