新国立劇場の新シーズンの第2弾「ドン・ジョヴァンニ」を観た(10月19日)。海外のオペラハウスを始め、音楽大学主催の公演などを含めると今までこのモーツァルトのオペラをかなりの回数観て来たが、今回が間違いなくベスト・パフォーマンスだ。
モーツァルトのオペラは実はあまり好きではない。少し尺が長過ぎるのだ(今回も25分の休憩を含めて演奏時間は3時間20分)。よほどの芸達者や名歌手が揃わないと退屈しやすいのである。
だから、演出家たちは、たいした理由もなく登場人物に背広を着せたり、飛行場を舞台にしたり、現代への「読み替え」作業に手を染める。そして、そのほとんどはさらに退屈な迷路に入りこんでいる。
今回の公演は2008年、2012年の公演に引き続きグリシャ・アサガロフの演出。舞台が原作のスペイン・セビリアからヴェネツィアに移されているのを除くと、時代設定は17世紀と原作通り。
今どきこのクラシックな設定は、むしろ新鮮ですらある。特に「変化球」的演出もないが、物足りなさは皆無。なんと言っても歌、オーケストラの充実が素晴らしいのだ。
ドンナ・アンナ(カルメラ・レミージョ)、ドンナ・エルヴィラ(アガ・ミコライ)の2人はそれぞれのキャラクターにぴったりの歌唱で声量も十分。
ツェルリーナ(鷲尾麻衣)も外国人に混じってよく歌っていた。こういうソプラノ・レッジェーロタイプのソプラノは日本人歌手でも十分に満足できる。
代役だったレポレッロ(マルコ・ヴィンコ)は少々ドスが効きすぎた従者だったが、なんと言ってもドン・ジョヴァンニ(アドリアン・エレート)がほぼ理想的な演技と歌唱。
たぶんダ・ポンテ(台本)とモーツァルトが描こうとしたドン・ジョヴァンニというのは風貌も含めてこんなヤサ男ではなかったのだろうか。
高音から低音までムラのない美声、そして楽々と隅々まで届く声、これはブラボー!!。
そして前公演の「パルジファル」で絶好調だった東京フィルハーモニーがまたしても見事な演奏。
ラルフ・ヴァイケルトというベテラン指揮者によるところが大きいと思うが、それにしても新シーズンに入って見違えるようなオーケストラに変身してしまった。
新芸術監督(飯守泰次郎)による特訓でもあったのではないかとつまらないことまで考えてしまう。