今回の「ファッションの達人!」その11は、本人の希望により、雑誌『セオリー』VOL3.2008年(講談社)に掲載されたカリスマ彰のインタビュー「強豪ブランドにとって日本はグローバル戦略の実験場です」から記事を転載しました。(葉羽)
(取材・文 青木由里/写真 言美 歩、長谷川健郎/編集 新井公之)
◆この数年、銀座はブランドのビル・ラッシュで、街の雰囲気や人の流れが変わってきた。そこでは、高級ブランドの世界戦略の最先端ともいえる「実験」が行われている。その実態を、常にウォッチを続けるファッション・ジャーナリストが分析する。
アルマーニ/銀座タワー、ブルガリ/銀座タワーーと、まさに木々ブランド戦争のクライマックスのように、2007年、銀座はブランドビル・ラッシュに沸いた。
今年もすでに『スワロフスキー』を筆頭に、3ブランドが旗艦ビルをオープン。
「もはや銀座にビルがなかればラグジュアリーブランドとはえない状況です」と言うのは、ファッションをジャーナルな視点で報道する数少ないファッション週刊誌『WWDジャパン』の編集委員を務める三浦彰氏。彼は、この現象を「強豪ブランドの勝利宣言」だと読む。
ブランドの強者たちの今後の戦略を、日本の位置づけも含めて語ってもらった。
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高級ブランドは
勝ち組と負け組みが
明確になってきた
(三浦彰)
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「今後は海外ブランドの淘汰がいっそう進むでしょう。
世界レベルでみても、ファッションコングロマリットのLVMHが不採算部門の『クリスチャン・ラクロワ』を売却したように、bjネスの現実はシビアです」
実際、ランセル・ジャパンは解散し、『KENZO』、『ウンガロ』のように販売を日本企業に委託するケースも出てきた。
「ブランドのパワーバランスは、ほぼ不動のものになりました。
ラグジュアリーのなかでもメガブランドとされるのは、日本での推定年商が1500億円の『ルイ・ヴィトン』、600億円前後の『グッチ』、『エルメス』、『カルティエ』、『ティファニー』、450億円の『シャネル』(化粧品含まず)、250億円の『プラダ』、『ブルガリ』、『200億円の『ディオール』(化粧品含まず)。
これら9ブランドをはじめ、大衆化路線で拡大したブランドは、新富裕層の獲得が新たに最大のテーマとなっています。彼らをターゲットにしたニュービジネスは、すでに始動段階にありますね。」
新機軸として有望なのは、異業種とのコラボレーションだという。
「『エスカーダ』と『メルセデス・ベンツ』の販売コラボ例もあります。また、ブランドのセールス商品はモノから時間・体験へと移行してきているんです。
ミラノ、ドバイにホテルを計画中のジョルジオ・アルマーニ氏はアルマーニ/銀座タワーにホテルを併設する当初の予定を断念し、目下、東京で候補地を探しています。
ブルガリホテルズ&リゾーツや『フェラガモ』のホテル展開もありうる。LVMHと『エルメス』は旅行会社を買収するなど、多角的な動きが続出しています。」
既存のブランドをグレードアップするのも手だ。
「『ミュウミュウ』は『プラダ』のセカンドラインではなくニューラグジュアリー化を果たしてブランド価値を上げ、結果、新富裕層にもリーチをかけたといえます」
世界有数のハイジュエラー(高級宝飾店)『グラフ』が昨年、ザ・ペニンシュラ東京にオープンしたが、「1千万円から5千万円級のダイヤモンドをメインラインにすえる『グラフ』が新富裕層の投資意欲を刺激することはまちがいないし、ブランド側もそれを狙っての本格上陸です」と三浦氏はみる。
コングロマリットがさらにパワーを誇示し、グループブランドを結集した総合ビルを出現させる動きが活発になりそうだ。
『ルイ・ヴィトン』のLVJグループが2010年に、地上12階、地下4階のビルのほとんどを使った世界最大級の規模の出店をすることが、先日、明らかになった。
「『ルイ・ヴィトン』は銀座で3店目。11月に銀座本店がリニューアルオープンする『ティファニー』も3店ありますから、今後“銀座3店舗体制”の競争になるかもしれませんね。」
日本のブランド市場が成熟のきわみに達していることは瞭然だ。
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ブランド交差点
中央通りの銀座2丁目交差点付近は、さながら「ブランド交差点」。高級ブランドの新しいビルがひしめき合う。
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三浦氏は、「日本はなお最大市場だが、いうまでもなく次の照準は中国」だと言う。
「銀座の百貨店の売り上げのうち、15%が中国人観光客によるといわれています。当然、銀座のブランドビルは、彼らにパワーと世界観を訴求する最高の手段でもあるわけです」
昨年、中国での高級ブランド品売上高は2桁成長を遂げ、香港に拠点をおく世界高級品協会(WLA)の調査では’07年の『中国人の高級品消費額は世界全体の18%と報告された。
’15年には消費額が世界の32%に達し、日本を抜いて世界1位になると同協会は試算している。
「中国市場へのブランド攻勢はいよいよ激しく、『フェンディ』が万里の長城で開催したショーなど大規模なイベントが目白押し。1月には『ミュウミュウ』がマカオで初のコレクションショーを開催しました。同地にある『プラダ』1号店は移転拡大、そのあとが『ミュウミュウ』1号店になり、両ブランドは大型のマカオ2号店も検討しているといわれます」
すでに中国に複数店舗を展開する『グッチ』のトップがあるインタビューで語ったように「中国は“次の日本”だが、人口は13億人」であり、三浦氏も「日本がこれまで果たしてきた大量消費の役割を、さらに大きく中国がになうことになる」と言う。
(※後編へ続く)
(2008.7.25「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)
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