前回に引き続き、雑誌『セオリー』VOL3.2008年(講談社)に掲載されたカリスマ彰のインタビュー「強豪ブランドにとって日本はグローバル戦略の実験場です」から本人要望のもと、記事を転載しました。(葉羽)
(取材・文 青木由里/写真 言美 歩、長谷川健郎/編集 新井公之)
◆「日本で試して世界戦略に転用する。これがブランドのトレンドだ」
「総中流意識で購買意欲が旺盛な日本ほど、ブランドの大衆化戦略にはまった国はないとわれました。ファッションブランドにとって成功の鍵は、服よりも断然、購入しやすい価格のバッグなど小物なんです。
『ルイ・ヴィトン』にしろ『グッチ』にしろ、巨大化したブランドはほとんど皮革小物出身。商品価格の80~95%がファッション雑貨です。
服と違って定番化しやすく、在庫を持ちこせるため、バッグはビジネス拡大に向いている。中国でも雑貨メインのブランドが市場を圧倒するのは明らかでしょう。」
生産地としても中国は有望視されて、’09年までに『ジョルジオアルマーニ』、『バーバリー』をはじめ、世界の高級品の60%が生産されるとの予測もある。
中国を含めたBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)が現在のペースで発展すれば’39年までに経済規模がG6(米・日・独・仏・英・伊)を上回ると米ゴールドマン・サックスがレポートしたが、驚異的な潜在購買力を秘めた巨大マーケットへの視線は熱い。
「人口1億人、経済成長率10%前後なら、どんな国でもターゲットになりうるわけです。中東への投資も活発ですね。『ルイ・ヴィトン』は今年中にバーレーン、カタール、ルーマニア、フィンランドへの出店を決めています。」
『バーバリー』は中東で展開する7店舗で’07年には前年比80%増の売り上げを記録し、『クロエ』は同地域での売り上げが年商の7%を占めるという。
ワールドワイドな規模で市場争奪戦が展開されているのが21世紀的な特徴だといえるだろう。
「極論すれば、ブランドの将来像はビッグ4と称される『ルイ・ヴィトン』、『エルメス』、『グッチ』、『シャネル』を先頭に、十余りの強豪がリードすると思います。
売り上げが伸びるとブランドの価値が低下するという理論をくつがえし、売上増をブランド力に変えて価値を高め、結果、寡占状態を築くという新しい法則を彼らは作りました。
商品の供給力をとっても並のブランドの3、4倍はあるようなメガブランドでなければ、世界的に増える需要にも応えられません。」
地球規模の流通ネットワークがビッグ4によっていち早く構築される日も遠くなさそうだが、「ただし」と三浦氏は続ける。
「LVMHのベルナール・アルノーCEO(最高責任者)も『グッチ』のマーク・リーCEOも、めざすのはグローバリゼーションではなく、ローカライゼーションだと言っているんですね。
高級ブランドの証である“メイドイン本国”主義は堅持し、地域の特殊性ごとにきめ細かな戦略で臨んでいくという考え方です。」
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発展する世界市場
(ドバイのブルジュ・アル・アラブ)
←ジュメイラ・ビーチの人工島に建設された
世界最高級、世界で最も高層なホテル。
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ブランドにとって世界的な観点から見た日本の今日的意義は「“アジアのショーケース”であると同時に、“世界最先端のラボラトリー”」だと三浦氏は言う。
「日本でトライし成功すれば世界で通用するというのが、今やブランドトップの共通認識です。『エルメス』はザ・リッツ・カールトン東京内に電話予約制ショップを作り、究極のカスタマー・サービスを試みています。
『シャネル』銀座店には、アラン・デュカスのプロデュースによるレストラン『ページュ アラン・デュカス東京』。『ルイ・ヴィトン』は2月にメンズ単独ショップを大阪の阪急百貨店メンズ館にオープン。いずれも世界初であり、想像以上に大きな意味を持つ実験です。」
その成果はさまざまなバージョンで海外に応用されていくだろう。
日本はなお最大市場であるが、新たに実験フロンティアとして一流ブランドの世界戦略に組みこまれたといえる。
(※この稿、了)
(2008.8.14「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)
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