◆インタビューでは、限られた時間の中で、相手の思いや、キャラクターを引き出さなければならない。それを成功させるには何が重要なのだろうか。今、三浦さんが感じる、ファッション業界の「インタビューの極意」とは?
今までどれくらいのインタビューをして来たのかな。
持っている名刺は、重複もかなりあるが2万枚を超えている。
26年間で2万人ということは、1年平均800人。ちょっとした数である。
もちろんパーティで名刺交換しただけというのも相当数ある。
インタビューはそれでも2000回はしているな。
会心のインタビューというのは本当に少ない。
それと、数えたわけではないが、商売柄半分以上は外国人が相手、イタリア人が一番多かった。
ついでフランス人、アメリカ人。
インタビュー成功の秘訣は、外国人相手なら通訳。
絶対にその人物の原語で行なうことが必須。
「夜のアドリア海の漆黒がイメージ」とか「すべての人間の不幸は家の中にじっとしていることができないことから生じる」なんて、上手くもない英語で、イタリア人やフランス人とやりとりできるはずがない。
通訳の力が半分以上。
それと、いかにリラックスさせて、「のせる」かが重要。
あるデザイナーがインタビュー前にこんなことを言っていた。
「おまえが今日5番目のインタビュアーだ。どうしておまえ達日本のジャーナリストは、同じことを繰り返し尋ねるんだ。それも本質からハズれたようなことばかり」とカンカンだった。
こういうことがないように下調べは十二分にしなければならない。
何よりも、同じファッション業界で生きている仲間であることを相手が認めてくれないと、そのインタビューはたいしたものにはならない。
◆これまで、お仕事であるインタビューについて伺ってきたが、最後にプライベートの一部をご紹介。趣味であるクラシック鑑賞について語っていただいた。
野球の「千本ノック」ではないですが、「何事1,000回」が私のモットーかな。
その道の入口に辿り着くには、例えば落語1,000席、本1,000冊、映画1,000本、ラーメン1,000軒と言う具合に、「1,000」が目安という感じですね。
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今まで最も感動的だった
演奏会のチケット
(曲はシューベルトの未完成交響曲とブルックナーの交響曲第9番)
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私の本業のファッションでもインタビュー1,000回、展示会1,000件、ファッションショー1,000回ぐらいこなさないと一人前とは言えないでしょうね。
モノにほとんど執着のない私ですが、マニアックに聴いているのが、クラシック音楽で、聴いたCDはすべて記録しています。
3,600枚を超えたかな。
この枚数になるともう2回聴くCDというのも稀ですね。
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これまで訪れた
コンサートのチケット
(ロッシーニのウィリアム・テル)
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聴き始めは、小学4年生の音楽の授業で、ロッシーニの「ウィリアム・テル」序曲。
面白いんで17センチのレコード(CDじゃない)を買ってきたのが最初。
その裏に入っていた「セヴィリアの理髪師」序曲のほうが気に入っていたな。
演奏はピエロ・ガンバ指揮のロンドン交響楽団(これ超名演です。今聴いても)。
さらに当時NHK(TV)で「シャープさん・フラットさん」という名曲当てクイズ番組があって、ここでいわゆる泰西名曲を仕入れては、美人のお姉さんがいるレコード屋にせっせと買いにいっていたんですね。
それから40年以上、ほぼ途切れなく聴き続けて、3,600枚。
誰が指揮しても、ベートーヴェンはベートーヴェンなんですが、それが指揮者によって、こんなに変化していくものなのか。
これが分かるようになると、もう抜けられませんね、この道楽からは。
好きな作曲家はブルックナーかな。
息の長い絶美の旋律が延々と続いていく感じが堪らないですね。
映画監督の巨匠ルキノ・ヴィスコンティも好きだったみたいで、「夏の嵐」(交響曲第7番の冒頭)や「地獄に堕ちた勇者ども」(交響曲第8番の第1楽章の終結部分)に使っている。
ヴィスコンティというと、「ベニスに死す」で使われたマーラーの交響曲第5番第4楽章のアダージェットばかり取り上げられるが、本当に好きだったのはブルックナーの方だったんじゃないかな。
ちなみに、彼が臨終の床で聴いたのはブラームスの交響曲第2番。
曲が終わって「これでよし」と息をひきとったらしい。
そういうのいいですね。
ちょっと早いけど、私は最期に何を聴きましょうか。
落語好きでもあるので、五代目古今亭志ん生の出噺子(でばやし)なんていうのも候補ですが。
(2008.6.29「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰) |