今回はシャンパン花火のラグジュアリーな関係について書いてみたい。
ラグジュアリー・ブランドがファッション市場を席巻しているが、ハンドバッグや靴ばかりではない。シャンパンもれっきとしたラグジュアリー・アイテムである。
ひとを贅沢な気分にさせ、優越感に浸らせるものはすべてラグジュアリーなのである。アイテムの壁はないし、その価格も必ずしも高額とも限らない。
例えばヴィトンが中核ブランドのLVMH(モエ へネシー・ルイ ヴィトン)グループではシャンパンは大きな収益源だ。
そのシャンパンがブームになっている。世界的なブームではあるが、特に日本での伸長が著しい。
先日も渋谷のバーで飲んでいたら、カウンターで若い女性の二人連れが、アイスボックスにシャンパンを入れて実に美味そうに飲んでいるのを目撃した。やはりブームは若い女性からなのだと実感した次第。
シャンパーニュ協会日本支部の統計によれば、2000年のフランスから日本へのシャンパンの出荷は約318万本(750ml換算)だったものがその4年後には実に約592万本とほぼ倍になっているのだ。
80年代にはワイン・ブームがあったが、2000年にはいって、よりラグジュアリーなシャンパンに注目が集まっているということか。
業界関係者によれば、普及のためにレストランなどでのグラス売りを辛抱強く続けてきたことが実ったという。それに加えて数々のイベントを仕掛け、ブランドのマスコミへの露出を極力増やした努力も報われたようだ。
ラグジュアリー・ブランドのビジネスではいわゆるブランディングがすべてである。ブランドのプレステージを貶めることなく、こうした努力を積み重ねていけば必ず大輪の花を咲かせることができるのである。
金もかかるし時間もかかる。「ローマは一日にしてならず」である。
しかしブランディングが完成した暁には、大きなリターンが約束されるのである。これがこのビジネスの基本である。
さていわゆるスパークリングワインはフランスのシャンパンだけではなく、イタリアのスプマンテ、スペインのカヴァなどがあるが、やはりシャンパンがダントツの存在だ。
歴史や味も抜きん出ているが、なによりもブランディングが徹底しているのだ。
特に見事なのが前述したLVMH(モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン)グループだ。
同グループを代表するシャンパンのブランドには、ヴーヴ・クリコ(そのトップブランドはグランダム)、モエ・エ・シャンドン(そのトップブランドはドン・ペリニオン)、クリュッグがあるが、この3ブランドはその存在感において断然他のシャンパンを圧倒している。
ちょっと前のことになるが、その中のクリュッグが開いたイベントが度肝を抜くようなものだったので、ここでとりあげる。
場所は葉山の神奈川県立近代美術館。招待客は雑誌関係者と特別会員(クリュッグクラブ)たち、総勢300人ほどだ。
東京からの来場が多かったが、希望者にはハイヤーが手配された。ほとんどの来場者がそのハイヤーを利用し、葉山までの快適なドライブをまずは楽しんだ。
到着すると、同美術館で開催中の「田淵安一・回顧展」を鑑賞。気持も次第にゆったりとしてくる。
その後立食のパーティが1時間ほどあって、「それでは皆さん、テラスに来ていただけますか」のアナウンス。なにが始まるのかと興味津々。
実はこのイベントは、クリュッグが新ヴィンテージとして認定した「クリュッグ1995」のお披露目が目的なのだ。
クリュッグではとくに出来の良い年のシャンパンを選んで特別の扱いをしているのだ。1995年の前では90年、89年、88年がヴィンテージに選ばれている。
すでに夜の帳は落ちて、テラスから遠く沖の方を眺望すると、三艘の船が浮かんでいる。どうやらここから花火を打ち上げようということらしい。
日本で一番有名なソムリエの田崎真也氏が登場し、「クリュッグ1995」をどのように花火に表現したかを解説した。その泡の外観、香り、味わいをそれぞれ表したという。
田崎氏の依頼を受けて花火を製作したのは花火師の細谷圭二。いよいよ花火が打ち上がるとその美しさに歓声があがる。
観客の手にはもちろん「クリュッグ1995」が握られ、その味わいを楽しみながらの花火観賞だ。シャンパンの泡と花火、これほど似つかわしいものはないかもしれない。
立ち上るシャンパンの泡も花火もゴージャスだが一瞬に消えてしまうはかない存在だからだ。
だが、実際にシャンパンを花火で表現しようとは考えないもの。
これを実現してしまうところに、ラグジュアリー・ブランドのブランディングの凄さを感じた夜だった。
(2008.5.26「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)
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