「緑の服だけはどうしてもうまくデザインできない」と言ったのは、ココ・シャネルだったと記憶している。
たしかに緑の洋服というのは見かけないわけではないが極端に少ない。これをエレガントに着こなすというのは至難のワザだ。
よくよく考えてみれば、緑は軍服に多用される色だから、エレガンス・ファッションとは相容れないのかもしれない。いかにもフランス人らしい繊細な色彩感だと思う。
ファッションの世界を30年以上取材して来たが、ファッションにおける色使いに関しては、フランス・ファッションの独壇場だ。
そのカラーパレットの豊富さ、大胆さでは、ライバルのイタリア・ファッションに大きく水をあけている。虹彩のメカ二ズムが、フランス人とイタリア人ではそんなに違うのだろうか。
新国立劇場でリヒャルト・シュトラウスのオペラ「アラベッラ」を観た(5月25日)。
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300種類に及ぶ「青」が登場する「アラベッラ」の舞台
新国立劇場オペラ「アラベッラ」(2014年5月)
撮影:寺司正彦/提供:新国立劇場
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ベルトラン・ド・ビリーが指揮した東京フィル、アラベッラ役のアンナ・ガブラー、マンドリカ役のヴォルフガング・コッホを始めとした歌手陣も素晴らしい出来映えだったが、ほとほと見惚れてしまったのが青で統一された衣裳と舞台、そしてそれを引き立てる照明だ。
聞けば300種類以上の「青」が登場するという。青のグラデーションの洪水を目で味わうだけで2時間半のオペラがあっという間に終わってしまう。
演出・舞台・照明を担当したのは「光の魔術師」の異名を持つフランス人演出家のフィリップ・アルロー(2010年10月の再演)。
この新国立劇場でも「アンドレア・シェニエ」「ホフマン物語」で魔術師ぶりを発揮している。
衣裳デザインは森英恵。この衣裳もオペラグラスで仔細に観察すると実にディテールでイイ仕事がしてある。さすがにパリ・オートクチュールで日本人初の正会員として長らく活躍して来た森英恵らしい。
原作(ホフマンスタール)は19世紀が舞台になっているが、今回の演出では1930年に設定しており、いわゆる30年代ファッションが堪能できる。
ファッション関係者や美術関係者には是非観て欲しい舞台だ。「青」の使い方には自信が持てるようになるのではないか。
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マンドリカ役のヴォルフガング・コッホと
アラベッラ役のアンナ・ガブラー
新国立劇場オペラ「アラベッラ」(2014年5月)
撮影:寺司正彦/提供:新国立劇場
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「アラベッラ」というオペラは、リヒャルト・シュトラウスの大傑作オペラ「バラの騎士」の二番煎じと呼ばれる他愛のないオペレッタみたいなオペラだが、こういう舞台・照明・衣裳で見せられると、こっちの方もなかなかイケルじゃないかと思えてくる。
新国立劇場はアルローと特別契約を結ぶべきではないだろうか。
(2014.6.26「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)
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