フランスの映画監督のアラン・レネが3月1日に91歳で死去した。懐かしい名前である。
私が大学生だった頃、カトル・ド・シネマという自主映画上映会に入会して、中野公会堂とか日本青年館で開かれるいわゆる名作上映会に通っていたのは1970年代初頭である。
ゴダール、トリュフォー、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソン、フェリーニ、ヴィスコンティ、パゾリーニなどと並ぶ、カトル・ド・シネマの人気映画監督がアラン・レネだった。
アウシュヴィッツのユダヤ収容所を描いた32分のドキュメンタリー映画「夜と霧」(1955年)、岡田英次が主演し広島が舞台になった「ヒロシマ、わが愛/24時間の情事」(1959年)、そして「去年マリエンバートで」(1961年)がその当時のアラン・レネの三大傑作ということになっていたが、三作とも当時観た。
その中でも、特に印象に残ったのが「去年マリエンバートで」だ。
(※右画像:(c)東北新社)⇒
今回、レネの死去に伴い追悼記事が一般紙に掲載されたが、その多くが「夜と霧」の映画監督としてレネを紹介していたが、たしかにレネの出世作ではあるが、32分のドキュメンタリー映画である。
愛の不毛を描いた「24時間の情事」も名作ではあるが、映画ファンならなんと言っても「去年マリエンバートで」をレネの代表作に挙げるのではないだろうか。
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「24時間の情事」
(日仏合作映画)
監督:アラン・レネ
出演:エマヌエル・リヴァ
&岡田英次
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映画に出てくるマッチ棒ゲームに必勝法はあるのかどうかが映画ファンの間では話題になったほどだった(必勝法はある!)。
ヌーヴォ・ロマン(新しい小説の意味で既存の小説を否定する難解な小説)の代表的作家のアラン・ロブ=グリエが原作の超難解な映画。これは現実なのか夢なのか。存在と不在をテーマにした映画で、理解できないにしても、その映像の静謐な美しさは心を揺さぶった。
夢と現実、存在と不在と書いたが、原作・脚本を手がけたロブ=グリエによれば黒澤明の映画「羅生門」(原作は芥川龍之介の「藪の中」)に触発された作品だという。
現実は様々な解釈によって、多面的に存在するということなのだろう。たしかにそういう映画だった。
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「去年マリエンバードで」
(仏伊合作映画)
監督:アラン・レネ
脚本:アラン・ロブ=グリエ
音楽:フランシス・セイリグ
出演:デルフィーヌ・セイリグ
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その後、40年近く一度も観ていないので、記憶に残っていると言えば、主役のデルフィー二・セイリグのなんとも知的な容姿とエレガントな黒のドレスだけである。
お恥ずかしい話だがセイリグが着ていたドレスはすべてココ・シャネルによるデザインであることを今回初めて知った。
当時シャネルはまだ現役で全盛期。レネ、ロブ=グリエ、シャネル。第2次世界大戦後、フランス文化が最も輝いていた時代だろう。
もう一度「去年マリエンバートで」を観てみたくなった。
(2014.4.6「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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