一体この異形のファッションをなんと表現したらいいのだろうか。3月1日のパリコレで発表された「コム デ ギャルソン」のコレクションに登場した「はらわた」である。
(※Photo by Giovanni Giannoni (c) Fairchild Fashion Media)⇒
私の「はらわた」を見せてあげましょう。憎悪、憤怒というおよそファッションとは縁遠いようなエモーションがさらけ出されている1点だ。
私たちの世代だと、三島由紀夫が監督・主演で自作を映画化した「憂国」(1966年)の割腹シーンを思い出してしまう。
2.26事件に参加することができなかった青年将校の無念の割腹シーンは、飛び出したはらわたをさらに切り刻むようなショッキングな映像だ。
ファッションとは、人々を美しく装わせハッピーな気持ちにさせるものだと、思っている人がいたら、びっくり仰天してしまうだろう。
川久保さん、一体何を怒り、何に憤っているのですか?もちろん答えはないだろう。世界のすべて?あるいは自分自身?
このところ、「コム デ ギャルソン」のコレクションは、ますます過激に、表現主義的になって、もはやファッションという域をとうに超えてしまったような「激情」を感じさせている。
有名な1997年の、せむし男を連想させるコブドレスなどもあったが、このはらわたドレスはさらに一歩先を行っている。
ふつうの作家なら、「やり過ぎ」ということになるのだろう。いや、とてもここまでやり過ぎることすらできないだろうが。
「激情」の芸術というなら、抽象画になる寸前のカンディンスキーの絵とか、完全な12音技法に移行する手前のシェーンベルクの無調音楽が想起される。
もう、この先は狂気になるような、限度一歩手前のフォルムなのだ。ファッションはこんな地点まで来てしまっていいのだろうか。
この後、川久保玲はどこに行くのだろう。戦慄とともにある種の不安が過る。
(2014.4.6「岸波通信」配信 by
葉羽&三浦彰)
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