現在、AD(Advertising:広告)に対してPR(Public Relations)が優位に立っていると前回述べたが、その代表的な例がマスコミを主な対象にしたイベントやパーティだ。
最近ラグジュアリー・ブランドを中心に大々的に開催されているイベントやパーティの多くは、マスコミを主な対象にしており、これにVIP顧客(年間の購入額が500万円以上というような)やセレブ(いわゆる有名人)が加わる。
店のオープニングや新作商品の発表の際に、このイベントPRは効果を発揮する。
まず、取材したマスコミはこのイベント・パーティをTV画面や誌面で大々的に紹介する。
まさに、マス・コミュニケーションである。
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「白ツバキ」CM発表会
~資生堂~
(表参道ヒルズ)
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いくら大掛かりになったとはいえ、イベント・パーティ会場のキャパシティはせいぜい500~2,000人程度。
マスコミの力を最大限に利用している。
しかも、発信側は、ブランド本体ではなく「信頼できる」マスコミが報道しているのだから、効果は絶大である。
ブランド本体が「大本営発表」として「発表」しているのではなく、「報道」されていることが重要なのだ。
それほどマスコミ=報道関係者は消費者から信頼されているのだ。
この仕組みを、多くのブランドは熟知している。
広告(Advertisement)に比べて、報道(Publicity)の価値は比較にならないぐらい大きい。
だから、ブランドサイドは、マスコミを取り込もうとする。
マスコミに、自分たちのブランドがいかに素晴らしいものであるかを編集者(ディレクター)に強烈にアピールする。
イベントやパーティそのものだけではない。
編集者がその商品やデザイナーや経営者を気に入って、記事として取り上げることで、広告に比べて圧倒的な効果を生むのだから。
例えば、2006年6月7日に「ルイ・ヴィトン」は江東区新木場の夢の島公園に特設の巨大ドーム(直径40m、高さ20m)を設営。
設営には1か月以上かかったと言われている。
この透明なドームの周辺には木造のロッジが点在。コンセプトは「自然の中に出現した異次元」。
マスコミ関係者やVIP客や小売関係者は都心から1時間ほどバスに揺られて到着。
このUFO風のドームの中では、最新コレクションショーが開催され、さらに夜を徹してのパーティが行なわれた。
その経費は3億円とも5億円とも言われた。
が、テレビで紹介され、新聞・雑誌でも紹介され、それを広告ページに換算すれば、ゆうに元はとれたと言われている。
何よりも、編集者・記者たちに、「さすがルイ・ヴィトン、やることのスケールが違う」とディープな印象を植え付けさせたことが大きい。
ブランドとしての「格」を圧倒的に見せつけている。
一方、同年11月30日に、国立競技場を舞台に“B.MIX(ビーミックス)”というニューラインのPRイベントを行なったのが「フェンディ」。
久方振りに登場するロゴ(ダブルF)のラインだけに、力も入っている。
単なるイベントでは、インパクトに欠けるとばかりに、イベントのプロデュースを「ア ベイシング エイプ」のNIGOに依頼して「時代性」を強調。
ラップ界の帝王カニエ・ウエストのコンサートが目玉だが、NIGOもDJにとどまらずテリヤキボーイズを登場させるなど大盛り上がり。
「フェンディ」はまさに現代を生きるラグジュアリーであることを強烈にアピールした。
国立競技場を部分的に使ったファッションショーやイベントは過去にもあったが、フルに使用したイベントは初めて。
これも、テレビの映像や関連記事を広告換算すれば、億単位のイベント費用は十分に回収したのは言うまでもない。
広告で“B.MIX”をアピールするよりもはるかに効果は高いとブランドサイドは考えているのだ。
雑誌に限って言えば、記事を書いてもらうのに最も効き目があるのは、編集者への高価なプレゼントではない。
それも悪くないが、その雑誌に広告を出すことである。
その見返りとして、編集者がそのブランドを取り上げざるを得ない状況をつくるのである。
広告は、決して消費者に対してばかり向けられているのではないのだ。
さらに言えば、広告はマスコミに対する「抑止力」としての機能もある。
「この商品はよくない」という記事を書かせないために、ブランド側は前もって広告を打っておくという隠れた意味もあるのだ。
「変なことを書いたら広告を止めますよ」というわけだ。
雑誌の収益の大部分は、広告と販売(雑誌が何部売れたか)から成り立っている。
理想のバランスは、広告と販売が半々だと言われているが、日本の雑誌の多くは70:30~80:20という比率で、特にファッション誌(モード誌)の場合で90:10などという比率の場合もあり広告依存体質になっている。
これでは、広告主の顔色を見ながら雑誌編集がなされて、そこにいわゆる「ジャーナリズム」(いいものはいい、悪いものは悪いという中立な立場)が存在しづらくなっているのが実情である。
「これいいよ、これを買わなきゃ」式のカタログ誌が蔓延してしまっている。これが、雑誌を面白くなくしている。
結果、売れない→広告依存の悪循環を引き起こしてしまっているようだ。
PRの武器として、前述した広告やイベント・パーティ以上に、最近注目を集めているのが「店」だ。
最高の立地に建てられた巨大で豪華な店舗は、より自然な形でブランドのパワーを消費者に対してアピールすることができる。
もちろん、こうした巨大店舗を建てることができるのは、ラグジュアリー・ブランドを始めとした一握りの巨大ブランドに限られているが、下手な広告(AD)やイベントなどよりも、その効果は絶大だ。
その本質は広告塔にすぎないのだが、それをわからせないために、有名建築家を起用して、非日常的な外観(もちろん内部は、外観とは打って変わって居心地の良いアットホームな邸宅風)を、街の中に登場させるのである。
(下の写真は2006年11月に銀座にオープンしたグッチ銀座ビル)↓
消費者は心理的な威圧を感じながらも、そのビルに引き付けられていく。
そして、中に入ればその圧迫感は、優越感に変貌しているのを知るのだ。
その優越感は、当然購買に結びつかないはずはないのだ。
(2008.3.7「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)
~2007年2月26日の記事に加筆~)
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