~日本では曖昧に使われている「広告」・「宣伝」・「広報」・「PR」~
企業は自社や自社商品の優秀性を一般消費者や取引先、マスコミに向けて広くかつ強烈にアピールする。
その方法は様々だ。
日本語では、広告、宣伝、広報、PRなど色々な言い方がなされており(このほかにも販売促進=セールスプロモーションなどという言葉もあるが、販売を増やすための一種の営業行為なので、ここでは言及しない)、その使われ方は実に曖昧だ。
英語ではAdvertising(以下AD)とPublic Relations(以下PR)の2つの言葉でまとめられている。
簡単に言うと、ADは直接的に一般消費者に訴求することであり、PRはマスコミを対象にしたアピールと情報開示という風に捉えればよいのではないだろうか。
ADは狭義の意味ではいわゆる「広告」。
これは、雑誌・新聞・TV・ラジオ・インターネットなどの「媒体」(広告業界用語)に自社及び自社商品をアピールすることである。
スペースや時間や画面の買い(バイイング)を伴っているのが、狭義の意味での「広告」だ。
バイイングを伴わないものを日本語では「宣伝」と呼んでいるようだ。
昨年はインターネット広告がラジオ広告を金額ベースで上回って話題になったが、この他にも最近注目を集めているのは、ビルボード、駅刷り、バス、タクシーなどを使った広告だ。
特にファッション業界では、多用されている。
ロゴを始めとして、「アイコニック」(一瞬見ただけで、そのブランドだと分かる)であることが消費者心理を掴む上での最大のポイントだという考え方が、重要視されているためだ。
雑誌の中でだけでは、埋没してしまって、十分にアイコニックにはなれないと考えているのかもしれない。
また、ファッション広告の中でも、特に出稿(広告を出すこと)量が格段に多いのがラグジュアリー・ブランドだが、ほとんどTVを使わない。
TVは大衆向けのものであるという認識があるようだ。
たしかにラグジュアリー・ブランドの広告といえば、「ヴォーグ」を始めとした富裕層が読むようなハイセンス、スタイリッシュでクオリティの高いファッション誌に出稿されるのが常だった。
しかし、最近では「CanCam」を始めとした「赤文字系」(雑誌の題字が太い書体で赤い場合が多いヤング向けのファッション誌)などの大部数の媒体への出稿が増えている。
従来の誇り高き出稿態度を思うと、隔世の感がある。が、やはり大部数は望むべくもないモード誌(その大半は5万部以下)では、消費者からの反応は少なく、名より実を取り始めたということなのか。
ここ10年ばかり、大衆化路線を取り続けてきたラグジュアリー・ブランドの動きを再確認させるような動きではある。
2006年では、LVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン グループの日本における広告代理店が電通からADK/マインドシェア メディアセンター(以下ADK/MSM)に移ったのが話題になった。
LVMHグループ(ルイ・ヴィトン、クリスチャン ディオール、フェンディ、ロエベ、セリーヌなどのファッションブランドから、ショーメ、デビアス、タグ・ホイヤー、ゼニスなどの宝飾・時計、ディオール、ゲランなどの化粧品、モエ・エ・シャンドン、ヴーヴ クリコなどのシャンパンまで、そのラインナップは多岐にわたる)の雑誌広告出稿量は、現在トヨタ自動車を抜いて日本一(推定年間70億円)に及んでおり、97年以来、天下の電通が一括してバイイングしていた広告がADK/MSMに移行したのには、業界中が驚いたものである。
1,000万円の雑誌広告をブランド側が出稿した場合、その15%(新聞は20%)の150万円が手数料として広告代理店には入ってくるのだが、こうした広告代理店1社と組んだ一括発注(セントラルバイイング)では、その率は相当下がるといわれている。
ADK/MSM側はそれをさらに下回るかなりの低率をオファーしたのではないだろうか。
さて本題のADの話に戻ろう。
簡単に言うと、雑誌をメインにした従来型のADはここしばらく劣勢気味である。
有名カメラマンを使って、誰も見たこともないような場所でロケを行ない、超一流のモデルやセレブを使って、巨額を投じたADヴィジュアルはたしかに魅力的である。
なにせ金のかけ方が雑誌のファッションページとは、たぶん1ケタ違うだろう。
出来栄えはそうした編集ページの写真よりも遥かに素晴らしいものが多い。
例えば、今秋冬の代表的な広告ヴィジュアルを眺めてみよう。
「クリスチャン ディオール」はカメラマンに売れっ子のニック・ナイトを起用し、モデルは今やセレブ化しているスーパーモデルのケイト・モス(一番上の写真)を起用している。
ブランドの再生を進めている「アクアスキュータム」(上から2番目の写真)は映画007の5代目ジェームズ・ボンドを演じたピアース・ブロスナンとモデルのジュリア・ステグナーが登場。
カメラは人気のマリオ・ソレンティだ。
「プラダ」のカメラマンは巨匠スティーブン・マイゼルでモデルはいまやナンバーワンの呼び声高いサーシャ(下の写真)を起用。
いずれも、金がかかっているし、話題性にも事かかないし、写真としてのクオリティもケチの付けようがない。
しかし、賢い読者にとっては、所詮は広告でしかない。
つまり、自社商品を売ろうとしているブランド側が、雑誌のスペースを買って、読者に対してアピールを行なっているのを彼らは知っているからだ。
もちろん、こうしたクオリティの高い広告が一種サブリミナルな効果を生んでいることは否定できない。
雑誌のページを繰っていくうちに、読者の深層心理にブランドのプレステージが刻まれていくような効果だ。
さてADに匹敵、あるいはそれ以上に効果を持っているアピールとして注目されているのがPRだ。
このマスコミを対象にしたPRについて、イベントやパーティを例に挙げて説明してみる。
(以下次回)
(2008.2.23「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)
~2007年1月29日の記事に加筆~) |