今の時代に、億万長者になる近道は何なのだろうか。
宝クジを買い続ける?
ベストセラー小説を狙って懸賞小説に応募し続ける?
これではちょっと確率が低すぎるようだ。
どうもそれは、起業(創業)して、株を公開(上場)する以外にない。
ある事業を始めて、これを軌道に乗せて、その株式を公開(一般人も買えるように)する。
これは、いわゆるIT長者と言われるヤング・エグゼクティブたちが用いた「現代の錬金術」である。
昔と違っているのは、上場は結果ではなくて、上場を前提にした企業活動を行なっている点。
話題づくりが実にウマイのだ。
こんなことまで計算に入っているのかどうかは知らないが、上場前に芸能人との恋愛や贅沢三昧の私生活がマスコミに取り上げられて、ジャパニーズ・ドリームと注目され、いざ上場を果たすときに「好材料」となって、株価が実態をはるかに超える値段になることが往々にしてある。
上場すると、その直前の未上場時に会計士が計算した企業価値の少なくとも倍に市場が評価してくれるのが通例なようだ。
その企業活動や持っている技術・コンテンツがユニークであればあるほど市場の評価は高く、未上場時の会計士の評価の10倍~20倍はザラなのが、最近の株式市場だ。
また昔と違って、上場が容易になっているのも株長者を多く生んでいる背景にある。
さて、ファッション業界に目を転じて、株長者たちを眺めてみよう(「WWDジャパン」1月22日号から抜粋。所有株式数や株価は昨2006年12月29日のもの)。
ベスト10は多士済々である。靴小売りのABCマート、日本版ザラのハニーズ、ジーンズカジュアルチェーンのライトオン、サザビーリーグ、郊外型紳士服専門店の青山商事、カジュアル衣料チェーンのポイント、若者に絶大な人気を誇るセレクト・ショップのユナイテッド・アローズ、キャリアファッションの雄サンエー・インターナショナルなど、すべて現在日本のファッション市場で勢いのある企業のトップがランクインしている。
ベスト10の中で、第1位の柳井正(「ユニクロ」を手掛けるファーストリテイリングの会長兼社長)と第10位の三宅孝彦=サンエー・インターナショナル副社長の二人だけが創業者ではない。
柳井氏はもちろん「ユニクロ」を今日の4,500億円企業に成長させた実質的な創業者だが、厳密には同氏の実父である故・柳井等氏が起業した小郡商事がその前身だ。
三宅孝彦氏は、同社の実質的創業者とも言うべき三宅克彦・同社会長の実子である。
それにしても、ダントツである柳井氏の3,215億円という自社株資産の数字は凄い。
この10年間の日本のファッション市場で最も影響力を持ったブランドが「ユニクロ」だったということがよくわかる。
もちろん、株価は今後どうなるかわからないし、これをすぐに売却して手に出来るわけでもないのだが、これはワールドクラスではないか。
ファッション業界で言えば、97年に自社を上場させたラルフ・ローレンの保有自社株の時価が約3,000億円であることを考えればその凄さが分かるだろう。
異彩を放っているのは、第3位にランクインのサマンサタバサジャパンリミテッドの寺田和正・社長だろう。
同社は、2005年12月にマザーズ市場に上場した。
木製の把手がくるっと巻き上がった「オルラーレ」というハンドバッグで一躍日本のギャルの御用達になった。
ヒルトン姉妹やらヴィクトリア・ベッカム、シャラポワなどをイメージキャラクターに起用しているためか、購買者の多くは、「サマンサタバサ」はニューヨークのブランドだと思っているというイメージ戦略。
遅ればせながら(?)、昨年末にはニューヨーク店もオープンした。
タレントの田丸麻紀との熱愛が報じられるなど(41歳の寺田社長はいまだに独身)、そのライフスタイルはIT長者たちと共通するところが多々見られるし、実際に彼らとの交遊もある。
それにしても売上高が約135億円に過ぎない同社の株価が35万円で、その84.2%の株式保有者である寺田社長の保有株式時価が505億円というのは、まさに「起業&上場」こそがリッチマンへの近道であることを証明していると言えるだろうか。
日本のファッション市場には様々なブランドがスキマなく林立していて、ここで成功するブランドを立ち上げるのは本当に難しい。
が、新しい発想や戦略で、起業・上場して億万長者になる後進たちが出て来るのかどうか、大いに注目だ。
(2008.3.27「岸波通信」配信 by 葉羽&三浦彰)
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