「windblue」 by MIDIBOX


自宅テレワークで往復の通勤時間3時間がセーブできるから夕方5時には仕事が終わる。

 晩飯は家だからダラダラ飲むこともない。オペラ、コンサートはやっていないし、映画館も休業。家のTVで録画した映画やオペラ、コンサートを見るしかない。

  映画に関してはこの10日間ほぼ毎日見ているが、なかなか傑作にめぐり合わない。そうした中、とんでもない大傑作を見た。

「切腹」(1962年 小林正樹監督 モノクロ133分)だ。これは凄い。

「切腹」(1962年 小林正樹監督 モノクロ133分)

 この時代の日本映画、とくにチャンバラものは黒澤明に制圧されているのだろうという先入観があった。

 1961年に黒澤明監督の「用心棒」が封切られ、1962年にはその続編的な黒澤の「椿三十郎」が公開。

 この「切腹」はその黒澤の「用心棒」に明らかに影響されているが、もっと切実に痛切にその時代の浪人の苦境と武士道を見事に描いている。

 しかも黒澤的なエンタテインメントにも不足していない。これは黒澤のチャンバラものを明らかに凌駕する大傑作だ。

 1962年のキネマ旬報の日本映画ベストテンでは、「切腹」は第3位、「椿三十郎」は第5位。ちなみに第1位は市川崑監督の「私は2歳」第2位は浦山桐郎の「キューポラのある街」、第4位は市川崑の「破戒」だった。

 9時間を超える映画「人間の条件」を完成させていた社会派監督の小林正樹が初めて撮った時代劇だった。

 私は馬鹿にしていてこの小林正樹監督作品を見るのはこの「切腹」が初めてなのだが、己の浅学を恥じた。

 まず原作(瀧口康彦の「異聞浪人記」)がいい。よくこんな小説を見つけてきたものだ。

 橋本忍の脚本、宮島義勇のカメラ、そして音楽は武満徹!で黒澤映画よりも全てが明らかにハイブローだ。

 特に琵琶を使った武満徹の音楽が素晴らしい。

 キャストでは、仲代達矢の凄みある抑えた演技が見事だが、これと対決する井伊家江戸詰家老役の三国連太郎の悪の論理を滲ませた苦味走った演技も仲代に劣らず見事。

 ここまで書いて来て、この「切腹」、もしかしたら映画好きだった父に連れられて封切り時に郷里福島の映画館で見たのではないかという気がしてきたのである。

 黒澤の「用心棒」は父と一緒に見たのをハッキリ覚えている。最後のあの恐ろしい決闘シーンの記憶が鮮明に残っているから。

 一方「切腹」は凄まじいラストの決闘シーンと終わってから父が切腹シーンのことをなにやら語っていたなあとこの映画を見て思い出したのだ。私が8歳の時かな。

 なおこの「切腹」は三島由紀夫に影響を与え、三島は自主制作映画「憂国」(1966年 28分)を監督・脚本・主演で作っている。

 音楽はワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」で共演は鶴岡淑子。

 とにかく未見なら是非見てほしい映画だ。

 yahoo!映画ではレビュー数344件で平均点4.53(5点満点)という滅多にない高得点だった。

 ちなみに一番最初に掲げた写真で仲代達矢の横に控えている介錯人の新免一郎役を演じている安住譲は川崎麻世の実父である。たしかに似ている。

(2020.5.8「岸波通信」配信 by 三浦彰 &葉羽

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