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《Web版》岸波通信 another world. Prologue2

宇宙~この豊穣なる海(後編)


(BGM:「DEEP BLUE」 by Luna Piena
【配信2002.12.24】
   (※背景画像はばら星雲)⇒

  The roman science of the cosmos 2

 こんにちは。「ロマンサイエンスの夢先案内人」岸波です。

 貴方をまたも“the roman science of the cosmos”の世界へご案内します。

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“宇宙から見る地球の姿は素晴らしくて、胸を打ちました。宇宙が私たちを呼んでいるような気がしました。” ・・・土井隆雄:コロンビア号搭乗員

 我々の住むこの宇宙には、多くの生命が息づく可能性が拓けてきました。

 それと同時に、宇宙の果てや宇宙の始まり、そして宇宙の終末に関する研究も大きく前進しつつあります。

 現代では、この宇宙が「果てしないもの」ではなく「有限の大きさを持つもの」であることが分ってきました。  そして、そのきっかけは、ほんの些細な発見からでした。


 

 

1 膨張する宇宙

 1916年に、アインシュタインが「一般相対性理論」を発表し、翌年それに基づく宇宙モデルを発表しましたが、これは、宇宙は無限の広がりを持ち、全体としては物質の密度が変化しない“静止宇宙論”の立場をとっていました。

 しかし、オランダの天文学者ド・ジッターがアインシュタインの宇宙方程式を解くと、宇宙は膨張するという解が出ました。

 また、1922年になると、今度はロシアの物理学者フリードマンが、アインシュタインの方程式から「宇宙項」を除いて計算した結果、宇宙は閉じて収縮するか、開いて膨張していくという「2つの解答」があることを指摘したのです。

 発表直後の指摘に、アインシュタインは「生涯最大の悔恨」を覚えたと言って います。 ・・・どうやら宇宙は“静止”してはいなかったのです。

アルバート・アインシュタイン

アルバート・アインシュタイン

 一方、その頃、弁護士から転身し、米国の天文台で銀河の写真を撮り続けていたエドウィン・ハッブル(1889~1953)は、星から放たれた光を観測するうち、様々な「色」があることに興味を持ちました。

 そこで、星の光をスペクトル分析してみると、虹の七色の波長が青から赤の方向に偏る“赤方偏移”の現象があることに気がついたのです。

 この現象は、動きを持った物体から発せられる音や光の波長は、その動きに伴って変化するという「ドップラー効果」で生じるものでした。

葉羽(自分に近づいてくる救急車のサイレンは、救急車自体も近づいてくるため波長が短くなって「次第に高く」聞こえ、自分の前を通り過ぎたとたんに急に「低い音」に感じられる物理効果のことです。)

エドウィン・ハッブル

エドウィン・ハッブル

 この“赤方偏移”は、宇宙の全方位の天体について観測され、しかも、地球から遠くにある天体(銀河)ほど“赤方偏移”が大きい・・・・つまり、高スピードで遠ざかっていることが分かりました。

 風船に米粒を着けて膨らませれば、近くの米粒はゆっくりと離れ、遠くの米粒ほど早く距離が広がっていきます。

 つまり、この宇宙というものは、膨らみつつある風船のような状態にあるということが分ったのです。

 1920年代には、ハッブルの膨張宇宙論は天文学の定説となり、1930年にウィルソン天文台を訪れたアインシュタインは、ハッブルの撮影した銀河の写真を見て、静止した宇宙という自分の説を完全に捨てざるを得ませんでした。

 そして、現在では、ハッブルの名は、大気圏外から宇宙を観測するために軌道上を廻っている「宇宙望遠鏡」の名前として知られるようになりました。

ハッブル宇宙望遠鏡

ハッブル宇宙望遠鏡


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2 宇宙のはじまり

 ハッブルの貢献は、これにとどまりません。

 彼は、遠方の銀河ほど加速度が大きいということに着目してこれを逆算し、加速度がゼロであった状態、つまり宇宙の質量が一点に収束していたのは、どれくらい前の年代であったのかを求めたのです。・・・宇宙年齢の推定です。

 それは約百数十億年と推論され、1948年に米国の物理学者ガモフによって我々の宇宙の誕生は、約130数億年前とされました。

葉羽(宇宙年齢を決定する膨張加速度ハッブル定数はまだ未確定で、詳細な観測により確定する研究が進められています。カーネギー財団天文台のウェンディ・フリードマン教授が主宰するハッブル宇宙望遠鏡国際共同研究チームが1998年に報告した最新の数値では、宇宙年齢は120億年(誤差+-10%)とされています。)

 ここで問題になるのが、「無」から質量を生み出すビッグバンは、なぜ起こったのかということです。

ビッグバン

ビッグバン

 現代量子理論では、「真空」は何も存在しない空間ではなく、活性化していない虚数の姿をとったエネルギーの貯蔵庫のようなもので、その臨界点を超えた瞬間に、真空のエネルギーは現実世界の物質やエネルギーに「相転移」して出現するものと考えられています。

 イギリスの物理学者ステファン・ホーキングによれば、我々の宇宙を生んだビッグバンは、非常に古く巨大な真空のエネルギーを溜め込んだ空間の一点が、突然臨界点を超え、最初、10の44乗分の1秒という短い時間のうちに10の34乗分の1cm(量子論で許される最小の長さ)の大きさで出現したとされます。

 この火の玉の超ミニ宇宙は、誕生後、急激な速さで膨張し、真空エネルギーの「相転移」によって素粒子を生み出し、誕生から0.00001秒後には宇宙の温度も1兆度に下がり、それまで単独で飛び回っていたクオークなどの素粒子が3つ集まって陽子や中性子などを作ったのです。

我々が見ている宇宙

我々が見ている宇宙

(「ニュートンプレス」より)

 また、宇宙誕生から3分後には宇宙の温度は10億度まで下がり、今度は陽子と中性子が結合して様々な元素の原子核が作られます。

 さらに、宇宙誕生から30万年後には、宇宙温度は3000度まで下がり、電子が原子核にとらえられると、宇宙は透明に晴れ上がりました。

 このようにして、宇宙誕生から10億年後までに、銀河や銀河団が形成されたと考えられていますが、その部分のメカニズムはほとんどわかっていません。

 アインシュタインの一般相対性理論から導かれる宇宙の形は「果てはないけど有限」なものと表現されることが多いのですが、僕自身もこの言葉にはついていけないので、「空間は果てしないが質量(銀河)があるのは半径120億光年の範囲」と理解することにしています。

 そして、「宇宙が有限」であるとすれば、この宇宙にはどれくらいの星が存在するのでしょう?

 日本では、とても数え切れないほどたくさんあることを「星の数ほど」と表現しますが、それを実際に表現するには、まず、大きな数の単位を知らなくてはなりません。 「大きな数の単位」・・・貴方はご存知ですか?

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3 大きな数の話

  2002年12月のはじめ、「π」の計算で有名な東京大学の金田教授が、またまた世界記録を作りました。

 金田康正教授は、日立製作所と共同し、超並列スーパーコンピューターを用い、円周率を1兆2411億桁まで求めたと発表しました。

 これまでの記録は99年に同教授自身が出した2,061億桁で、その約6倍の桁数になります。

 1秒に1けたずつ読み上げると、何と“約4万年”かかるそうです。

超並列スーパーコンピューター

超並列スーパーコンピューター

 では、この「1兆2411億桁」の数字を目に見えるくらいの大きさで全部書いたら、果たしてどれくらいの長さになるでしょう?

 もし、一桁を1センチメートル幅で書いたとしますと、100桁で1メートルになります。すると、10万桁で1キロメートルです。地球の赤道の円周は約4万キロメートルですから、地球を一周する紙テープに書ける桁数は40億桁ということになります。

 計算しますと、1兆2411億桁を書くためには、地球を310周もする長さの紙テープが必要だということが判りました。

 でも、「1兆」という数では、太陽系を1光年先で包み込んでいる彗星の巣~“オールトの雲”にある彗星の数だけでもそれぐらいは有ります。

 全宇宙の天体を数えるには、もっと大きな単位でなくてはなりません。

オールトの雲

オールトの雲

  「兆」の1万倍が「京」、さらにその1万倍が「垓」・・・普通皆さんがご存知なのは、せいぜいこの辺までではないでしょうか?

 その先をお教えしますと、いっきに間を飛ばして10の48乗が「極」、そこから上に「恒河沙」、「阿僧祇」、「那由他」、「不可思議」と続いて、さらにその上、10の68乗が「無量大数」。

 日本の大きな数の単位としては、ここまでしかありません。

葉羽(この「単位の話」は、江戸時代の寛永20年(1643年)に吉田光由という人が書いた「塵劫記」という書物に書かれています。

 中国でも、「載」(あるいは「極」)までは同じ単位を用いていましたが、「恒河沙」以降は、中国からの移植ではなく仏典から出たもののようです。

 昔の人は、こんな大きな単位を何を数えるのに使っていたのでしょう?

 さて、「無量大数」で「星の数」を数えることはできるのでしょうか?

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4 全宇宙の素粒子の数

 宇宙物理学者カール・セーガンは、その著書「コスモス」の中で、「全宇宙の素粒子の数」という話をしています。

 星の数ではなく、素粒子の数・・・何と気の遠くなるような話ではありませんか?

 素粒子の数を表すためには、無量大数の単位では足りません。

 セーガンは指数法を用いてその数を表していました。

 そして、半径約120億光年のこの宇宙にある全ての陽子・中性子・電子の総数は『10の80乗個』だそうです。

 ・・・「無量大数」の1兆倍!  「とてつもない数字」なのか、「意外と少ない」のか理解に苦しみますが、そのことよりも、全宇宙の素粒子の数が「10」の右肩に小さく「80」と書くだけで表現できてしまうことに意外性を感じます。

 セーガンによれば、全宇宙空間に中性子を隙間無くぎっしりと詰め込んだとしてもその中性子の数は『10の128乗個』にしかならないそうです。

カール・セーガン

カール・セーガン

 アメリカの数学者エドワード・カスナーは、かつて9歳になる甥に「10の百乗」という大きな数の名前を考えて欲しいと言いました。

 これは、指数法を用いなければ、1の後ろに百個のゼロが連なる数です。少年はそれを「グーゴル(googol)」と名付けました。

葉羽(お見込みの通り、Webの検索エンジンGoogleは、カスナー教授の甥が付けたgoogolに由来する名前です。)

 セーガンは、この話を引き合いに、さらに大きな数「グーゴルプレックス」を提案しました。これは、10のグーゴル乗のことで、1の後にグーゴル個のゼロが連なります。

 そしてもし、グーゴルプレックスを目に見えるくらいの大きさで紙に書いていくとすると、その紙は宇宙を埋め尽くし遥か余りあるものになると言います。

 とんでもない数です。

 しかし、指数法を用いれば、10の右肩に小さく10、さらにその右肩にもっと小さく100を書くだけでグーゴルプレックスを表記できるのです。

 無限とも思われた宇宙の素粒子の数、あるいはその宇宙の大きさを遥かに凌駕する数の概念さえ、僅か1センチ四方の紙に表記できる。

 ・・・「人類の叡知」とは果てしのないものですね。

 

/// end of the “Prologe2「宇宙~この豊穣なる海(後編)」” ///

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《追伸》

 「真空のエネルギー」によるビッグバン生成説によれば、我々の宇宙のほかの空間でも“別のビッグバン”が起こり、全く別の宇宙が形成されているのかも知れません。

 SFでは“パラレル・ワールド”という発想があり、考え得る可能性の数だけ別次元の宇宙が存在するという考え方ですが、これはもはや絵空事ではなく、いつか我々の膨張宇宙と別の膨張宇宙とが“遭遇”する時が来るのかも知れません。

葉羽(ただし「並行宇宙」そのものは、現在のところ、SF的アイディアの域を脱していないのではないかと想います。 まあ、「複数ビッグバン宇宙の衝突」も僕のアイディアなので、大きなことは言えませんが・・・。)

 そしてさらに、「真空のエネルギー」というものに対するある意味の“恐怖”・・・。

  ある日、地球と月の間の空間で、真空エネルギーが臨界点に達して“相転移”が始まり、虚数空間から物質が噴き出す新たなビッグバンが起こるかも知れないのです。

 これはまさに、「太陽系内ビッグバン」・・・宇宙の中から誕生する「新たな宇宙」。

 もしかすると、巨大な質量を放出し続ける謎の天体クェーサーやホワイト・ホールと呼ばれるものの正体は、極ごく小規模な“相転移”なのかも知れません。

 この「真空のエネルギー」・・・人類は果たしてそれさえもコントロールできる日が来るのでしょうか?

 

 では、また次回のanother world.で・・・See you again !

天の川銀河中心方面

天の川銀河中心方面

 

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To be continued⇒ “Episode1 coming soon!

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