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《Web版》岸波通信 another world. Episode1

火星植民計画


(BGM:「DEEP BLUE」 by Luna Piena
【配信2002.12.24】
   (※背景画像は火星)⇒

  Mission to the Ares

 こんにちは。「ロマンサイエンスの夢先案内人」岸波です。

 貴方をまたも“the roman science of the cosmos”の世界へご案内します。

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 …とは言ったものの、どうやら、Episode1が一番遅いリメイク版になってしまいまして、この通信を配信した2002年12月24日のクリスマス・イブの時点から、だいぶ情勢が進展してしまったようです。

 ま、気を取り直して、まずは、2003年8月から9月にかけて歴史的な大接近を果たした火星を、国立天文台のすばる望遠鏡の写真からご紹介しましょう。

すばる望遠鏡が写した火星

すばる望遠鏡が写した
大接近した火星の写真

(2003.8.27)

 今週末の10月10日前後には、中国初の有人宇宙線が打ち上げられようとしています。こういう時期に、一昨年のマーズ・オデッセイの火星探査について取り上げたバックナンバーのEpisode1を再配信するのは、若干気が引けています。

 でもまあ、これも僕の自分史としての記念碑的通信でありますので、一応はWebでも残しておきたいと考えていますので、恥を忍んで再アップいたします。

 どうぞ、お付き合いのほどを・・・。

 

 

1 “戦争の神”アレス

 いきなりぶっそうなタイトルで恐縮ですが、ギリシャ神話における戦争の神アレスが火星の語源だってこと、ご存知でしたか?

 火星は“マーズ”と呼ばれることが多いのですが、もともとはギリシャ神話の“アレス”。

・・・そのローマ名“マルス(Mars)”を英語読みして“マーズ”と呼ばれているのです。

 アレスはギリシャ神話のオリュンポス十二神の一人で、大神ゼウスとヘラの息子・・・戦争を司る神です。そして、その妹が「不和の女神」であるエリスです。

 このアレスには正妻がいませんでしたが、美の女神アフロディーテ(ヴィーナス)との間に双子の息子フォボス(混乱)とダイモス(恐怖)をもうけ、戦場ではいつも二人の息子と妹エリスが付き従っていました。

 そして、彼らの馬車を引く四頭の軍馬の名が、火と炎と災難と恐怖・・・何と不吉な名前の軍団でしょう。

Mars and Venus United by Love

Mars and Venus United by Love

(パオロ・ヴェロネーゼ作(1570年))

←アフロディーテとアレス。
双子はフォボスとダイモス。

 女神ヘラについては、プロローグ“豊饒の海”編で触れましたが、実は大神ゼウスとの結婚前に、処女受胎をして鍛冶の神へパイストスを生んでいます。

葉羽なのでヘパイストスとアレスとは兄弟ということになります。

 ヘパイストスは生まれながらにして足が不自由で、ギリシャの神々の中でも最も醜い神とされていますが、何故か大神ゼウスは、最も美しい女神アフロディーテに彼と結婚することを命じます。

 しかし、アフロディーテは、いつしかこの醜い夫を拒むようになり、戦争の神アレスに恋をして、彼との間にフォボスとダイモスをもうけるのです。

 やがて、この不倫の愛は、へパイストスとアフロディーテの息子、愛の神エロス(キューピッド)の知るところとなり、夫に露見することを恐れたアフロディーテは、沈黙の神に頼んで息子エロスの言葉を奪ってしまいます。

 そして、今度はそのお礼(口止め?)にということで、アフロディーテは沈黙の神に赤いバラを送りました。

葉羽美の女神アフロディーテは、なんと恐ろしい女性なのでしょうか?

赤いバラ

赤いバラ

(花言葉は“熱烈な愛”)


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2 火星に水を発見

 火星は、血の色のように赤く見えることから、戦争の神アレス(マルス)になぞらえて呼ばれ、古くから「災いの星」とされてきました。

 太陽系の天体の中では、木星の衛星エウロパ、土星の衛星タイタンと並んで、生命体が存在する可能性の最も高い天体と目されており、1965年のマリナー4号が初めて火星を訪れて以降、1976年の2機のバイキング着陸船を含む20回以上の探査プロジェクトが実施されてきました。

 しかし、火星探査船は何故か中途交信途絶などの事故が多く、火星の実像は長いことヴェールに包まれたままでした。

 バイキング着陸船は火星の生命探査と大気分析を任務としましたが、2機の着陸船が降りた地点の探査からは、残念ながら“生命の痕跡”を発見することができませんでした。

 しかし、火星の軌道周回撮影で、あの有名な人面岩の画像を収めるなどの新たな成果・・・そして同時に“新たな謎”が我々に提示されたのです。

人面岩

人面岩

(The Face)

←後に光の加減でこう見えたに過ぎない事が判明。

 NASAが命運を賭けた火星軌道船マーズ・オデッセイ(2001年4月打上げ)の主なミッションは、生命体存在の前提となる「水の存在」を確認することでした。

 そして、オデッセイは、2001年10月24日に火星周回軌道に到達し、2002年5月、NASAは驚くべき事実を発表しました。

 火星には、やはり大量の「水」が存在していたのです。

 火星の南極付近、南緯60度より南の地域の地下30~60センチの範囲に、相当量の水が氷として存在していることが観測されました。

 その量は、ミシガン湖の総水量の2倍以上(単純に推計して4兆9000億立方メートル)、関東地方の水がめである利根川の8つのダムの貯水量の一千倍になると見積もられています。

火星軌道船マーズ・オデッセイ

火星軌道船マーズ・オデッセイ

(米国東部標準時間2001年4月7日11:02)

 火星には、かつて広大な海があったという説が今や主流の考え方となっています。

 火星では北半球側の高度が低いので、相対的に高位置にある北極冠を取り巻く形で地表面の1/4~1/3程度を占める巨大な水量があったようです。

 でも、これまでは、氷冠など地表面に近い氷と見られるものの殆どは、固化した二酸化炭素(ドライアイス)だろうと予測されていました。

 今回確認された表土と氷の層を含む総重量の20%~35%が水であるという事実は、火星に生命が存在する可能性を示す大きな探査成果となりました。

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3 火星に関する基礎知識

 さて、この辺で火星に関する基礎知識を復習しておきましょう。

 火星は地球よりもずっと小さいのですが、その表面積は地球の陸地面積とほぼ同じくらいあります。

 また、火星の軌道はかなり楕円形のため、近日点と遠日点での温度変動が約30度にもなり、全体としては、摂氏マイナス123度から摂氏22度まで変動します。

火星

火星

太陽からの距離: 227,940,千km=1.52 AU
(※1AUは地球と太陽の距離)

直径: 6,794 km
質量: 6.4219e23 kg

 火星の大気は大部分が二酸化炭素(95.3%)で、そのほか窒素(2.7%)、アルゴン(1.6%)、ごく微量の酸素(0.15%)と水(0.03%)とからなります。

 平均気圧は約7ミリバール (地球の1%以下)であり非常に希薄なため、大気の温室効果は地表面温度を5度上昇させる程度しかありません。

 火星の地形は壮大なもので、太陽系最大の山であるオリュンポス山は高さが2万4千メートルあり、底部の直径が500km以上、高さ6km(20,000フィート)の崖で縁どられています。

 そのほか、高さが10km、差し渡し4000kmの巨大大地「タルシス」や「ヘラス平原」と呼ばれる直径2000kmの超巨大衝突クレーターなどの地形が有名です。

火星のオリュンポス山

火星のオリュンポス山

(太陽系最大の山:2万4千メートル)

 また、火星には、冒頭にご紹介したとおり、フォボスとダイモスの二つの衛星があって、フォボスは太陽系の衛星の中では最も主星に近い軌道を回り、その距離は火星の表面から6000km以下です。

 旧ソ連の宇宙探査機フォボス2号は、フォボスから気体が噴出していることを発見しました。しかし、残念なことに、その物質(水の可能性が高い)の性質を明らかにするまえに故障してしまいました。

 もし、これが水であれば、フォボスは将来、天然の宇宙ステーションとして、火星探査の前進基地として活用できる可能性も期待されます。

 一方のダイモスは、フォボスの外側を巡る衛星で、太陽系の衛星としては最も小さく、これら二つの衛星の起源は、火星と木星の間のアステロイド・ベルト(小惑星帯:かつての第5惑星)から飛来して火星軌道に捉えられた小惑星であると考える学者もいます。

マーズ・オデッセイ・オービター

マーズ・オデッセイ・オービター

 NASAは今後、水が大量にありそうな場所へ無人探査機を着陸させ、直接調べることを計画しています。

 そして、NASAは2016年までの間に、少なくともあと5機以上の探査機・着陸船を火星に送るという「新火星探査計画」を打ち出しました。

 次の探査機は、2003年の6月に着陸し、2台のロボット探査車で生命探査を行うマーズ・エクスプレスの予定ですが、他の各国もNASAに遅れを取らじと、同12月に火星着陸予定の英国の「ビーグル2」、2004年に到着が予定されている日本の軌道周回船「のぞみ」など、次々と発進予定です。

 その際、現在の軌道船オデッセイは、着陸探査機を火星に降ろした後『惑星間インターネット・ノード』の役割を担うことになり、2003年の着陸船など今後のミッションにおける「高速データ中継基地」として用いられる予定です。

 ということで、人類の火星探査の歴史と今後の計画をまとめてみましたので、ご紹介しましょう。

【人類の火星ミッションの推移】
打ち上げ
名       称
成           果
1962/11 マーズ1 ソ連 途中電波中断
1964/11 マリナー3 米国 途中故障
1964/11 マリナー4 米国 フライバイ・写真撮影
1964/11 ゾンド2
ソ連 途中電波中断
1969/2 マリナー6
米国 フライバイ・大気観測・写真撮影
1969/3 マリナー7 米国 フライバイ・大気観測・写真撮影
1971/5 マーズ2
ソ連 周回・着陸失敗
1971/5 マーズ3 ソ連 周回・着陸後通信途絶
1972/10 マリナー9 米国 周回・表面、衛星の写真撮影
1973/5 マーズ4
ソ連 周回・表面の写真撮影
1973/7 マーズ5 ソ連 周回・表面の写真撮影
1973/8 マーズ6 ソ連 着陸失敗、大気成分分析
1975/8 バイキング1 米国 着陸・周辺撮影・生命探査・大気成分分析
1975/9 バイキング2 米国 着陸・周辺撮影・生命探査・地震観測
1988/7 フォボス2
ソ連 周回・到達後通信途絶
1992/09 マーズ・オブザーバー
米国 周回軌道投入失敗
1996/12 マーズ・パスファインダー
米国 着陸・周辺探査
1996/11 マーズ96
失敗(南米に落下)
1996/11 マーズ・グローバルサーベイヤー 米国 極軌道周回・写真撮影
1998/7 のぞみ 日本 周回・大気土壌探査
1998/12 マーズ・クライメート・オービター 米国 周回軌道投入失敗
1999/1 マーズ・ポーラーランダー 米国 着陸後通信途絶
2001/4
2001マーズ・オデッセイ 米国 極軌道周回・水探査
2003 エクスプロレーション・ローバー 米国 着陸・ローバー探査
2003 マーズ・エクスプレス ESA 着陸・精細地表探査
2005 リコネッサンス・オービター 米国 極軌道周回・精細探査
2007 スカウト 米国 着陸・飛行機探査
2014? サンプルリターン 米国 着陸後地球へ帰還
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4 火星植民計画

 さて、間もなく明らかにされる火星の全貌・・・人口爆発が続く地球人類の殖民先として、火星を大改造するプロジェクトが動きだしました。

 2000年10月に、カリフォルニアで討議された『火星地球化計画』です。

 惑星に人を住めるようにする「惑星地球化」は、まず大気温度を上げることから始めなくてはなりません。

 会議に出席した科学者たちは、火星の大気を超温室効果ガスで満たすことで、100年以内に温暖化が達成できる可能性があると言います。

 NASAのエイムズ研究所の宇宙生物学者クリス・マッケイ氏によれば、火星の温度を2~3度上げることができれば、南極大陸に見いだせる地衣類や藻類を移植することが可能だと言います。

「火星大接近2003夏」

「火星大接近2003夏」

 さらに、火星を人類が住める環境にするためには、この赤い惑星に「森林」を育むことが必要となります。

葉羽二酸化炭素はいっぱいあります。それと、地球よりは弱いですが、生物の発育のため必要な太陽光も問題ないようです。

 そして、どうやら、火星に繁殖する最初の動物は、どうやらゴキブリになりそうです。

英国南極観測隊(BAS)の微生物学者であるチャールズ・コックル氏によれば、「ゴキブリは人間の植民者のあとかたづけをする理想的な「掃除人」にもなり、しかもたんぱく質の含有量が極めて高い、つまり、すぐれた食糧源にもなる」と言っています。

葉羽食うのかいっ!

 そして、最後のネックは、火星には窒素など火星上で生命が生息するうえで不可欠な栄養素の持続的な入手方法です。

 ニューメキシコ大学の微生物学者ペニー・ビショップ氏は、次のように述べています。

「各種のミネラルや栄養素を供給する手段として地震や火山噴火に期待をかけられないため、その代替策として岩を食べる特殊なバクテリアを地中に注入することが考えられる。

 岩を食べるバクテリアはきわめて貪欲なので、火星の土壌をやすやすとかき回してくれるだろう。」

 果たして人類は、火星を『第二の地球』に改造し、殖民する日が来るのでしょうか?

 それとも、既に火星の地下には、バロウズが考えたような火星人が今も高度な文明を持って暮らしているのでしょうか?

 火星の謎が解き明かされる日は、もうすぐ・・・なのか?

 

/// end of theEpisode1「火星植民計画」” ///

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《追伸》 2003.10.7

 この通信を配信した昨年暮れの時点では、まだまだNASAの宇宙探査計画にはバラ色の未来が開けていました。

 ところが、2003年春、米国がイラク攻撃に踏み切り、その戦後復興を含めた巨額の戦費が米国財政と米国経済を大きく圧迫する結果となり、米国の今後の宇宙戦略には大きな狂いが生じています。

 そうした中で、今週末頃と言われる中国の有人宇宙船の打ち上げが秒読み段階となり、国家の威信を賭けた中国の宇宙開発が開始されようとしています。

 やはり、米国の「独り勝ち路線」にまったをかけるのは、巨大国家中国なのでしょうか?

 

 では、また次回のanother world.で・・・See you again !

Happy Face Crater

Happy Face Crater

←偶然が織り成した奇跡の地形。

 

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To be continued⇒ “Episode2 coming soon!

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