The Floating Continent 2
こんにちは。「ロマンサイエンスの夢先案内人」岸波です。
貴方をまたも“the roman science of the cosmos”の世界へご案内します。
荒涼とした月の風景ですが、大気の無い月の表面には46億年も太陽風が吹き付けたため、ヘリウム3が100万トンもあると推定されています。
実はこのヘリウム3が、放射能を出さず発電効率のいい核融合発電の燃料になるのです。
1万トンあれば地球で必要な電力の100年分を賄えるということです。
さて前編は、ドイツの気象学者ヴェーゲナーの唱えた“大陸移動説”がアカデミズムから失笑を買い、忘れ去られていくところまででした。
その後、この話はどのように展開したのでしょう?
そして、「残像」の鏡子の写真に写されていた2億年前の地球の姿とは、いったいどのようなものだったのでしょうか?
1 さまようN極
ヴェーゲナーは、南大西洋を挟む南米大陸東岸とアフリカ大陸西岸の形がぴったり重なることと、両岸の地質や化石が似ていることに注目し、「かつて二つの大陸は繋がっていた」と考えたわけですが、「どうして大陸が移動したのか」を説明できませんでした。
しかしその後、これを裏付けるもう一つの研究成果が、意外な分野から発表されることになります。
それは“古地磁気学”。1950年代に入ると、地磁気に関する研究が一気に進展しました。
岩石に含まれる磁鉄鉱などの鉱物は生成される時に磁気を帯びるので、それを調査すれば、その鉱物ができた年代の地球のN極やS極の方向を調べることができます。
これを調査していくと、「年代を追って地球のN極が移動している」という不思議な事実が判明したのです。
この原因について、地球の自転軸が移動する~いわゆるポールシフトという天変地異が何度も起きたのだと主張する学者もいました。
そうすると、同じ年代にできた地層は、地球上どこの大陸にあっても同じN極を指していなければなりません。
ところが・・・同じ時期にできた地層のN極は、大陸ごとに「別々の方向」を指し示していたのです。
これはいったい何を意味するのか?
それならばということで、今度は「N極が不動のもの」と仮定して、年代ごとに大陸が存在した位置をトレースしてみると、それらが移動した軌跡が現れてきました。そうすると・・・
そうです。超大陸パンゲアの形が浮かび上がってきたのです。
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超大陸パンゲア
←北がローラシア大陸、 南がゴンドワナ大陸、
そして中央がテチス海。
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一方、20世紀半ばの地球物理学は、地球上の7割を占める海洋の底の状態をもっとよく知る必要があるということで、深海探査が精力的に行われました。
その結果、大西洋中央部を南北に走る巨大な海底山脈(海嶺)が発見され、海嶺の中央からマントルが上昇してきて、火山活動を活発にしていることが分かりました。
そして、その海嶺の形が、両側の大陸の海岸線と一致していることや、海嶺から大陸に近づくほど海底の岩石が古くなっていることが分かり、海嶺を境に両側の大陸が遠ざかりつつあることが確かめられたのです。
大陸を乗せた地球の地殻そのものが、この大海嶺の造山運動によって、地球表面をすべるように移動させていた。
・・・パンゲアを引き裂いた力は「プレートテクトニクス」だったのです。
地球上には、北米、ユーラシアなど主要な8つのプレートと20余りの小プレートが存在し、現在も移動しつつあることが確認されています。
冒頭で紹介したように、我々の暮らすこの日本列島も太平洋側のプレートに押され、毎年7~8センチメートルずつ朝鮮半島の方向へ近づいているのです。
2 スーパープルーム
プレートテクトニクス理論によって、地球物理学者、地質学者、生物学者など様々な分野の研究者が地球を共通に論じるベースができ上がりました。
しかし、プレートテクトニクスは、せいぜい地球の表層僅か数十キロメートルでの現象に過ぎません。その深層構造を明らかにしなくては、地球形成の謎に迫ることはできないのです。
・・・こうした推論の実証を飛躍的に進展させたのは、日本人研究グループによる“地震波トモグラフィー技術”を用いた深地底調査でした。
その結果、検証されたことは、地殻の下にある重い岩石の集合体であるマントルの中には、移動する巨大な溶岩の塊がいくつか存在し、長い時間をかけて地表付近まで上昇したり、あるいは中心核に向かって沈降する運動をしているということでした。
マントル対流と呼ばれていたものは、実は、固体のマントルそのものの運動ではなく、その中を移動する巨大溶岩塊(スーパープルーム)の対流運動だったのです。
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プルーム・テクトニクスの概念図
原図: 丸山茂徳
「縞々学リズムから地球史に迫る」
(東京大学出版会)
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地底調査の結果、作成された内部構造のマップによれば、南太平洋やアフリカの下部から、キノコ雲のような巨大上昇流(ホットプルーム)が噴き上がり、アジア大陸の下部には、逆に古いプレートが中心コアに向けて沈降していく下降流(コールドプルーム)が存在することが分りました。
地表面のプレートテクトニクスを生みだす地球内部のこのマントル運動は“プルームテクトニクス”と呼ばれ、この地球内部運動の解明こそが、プレートテクトニクス理論から30年の間の地球物理学最大の成果になりました。
このような経過を経て、ヴェーゲナーの大陸移動説は見事に復活を果たし、さらなる研究によって“超大陸パンゲア”は、約3億年前から1億8千万年前頃まで地上唯一の巨大大陸として存在していたことが明らかになりました。
そう・・・「残像」の鏡子が、月面の天然メカニズムから入手した地球の写像。
そこに写っていたのは、まさに2億年前の超大陸“パンゲア”の巨大な姿だったのです。
3 超大陸の分裂と漂流
さて、パンゲア大陸は1億8千万年前頃のジュラ紀中期、地表に到達したスーパープルームに押されて分裂を開始し、1億5千万年前頃には北の「ローラシア大陸」と南の「ゴンドワナ大陸」に別れ、中央にテチス海が誕生します。
これら二つに引き裂かれた超大陸は、その後も分裂と漂流を続け、ローラシア大陸は、北アメリカ、アジア、ヨーロッパ大陸に、またゴンドワナ大陸は、アフリカ、南アメリカ、オーストラリア、南極大陸、インド亜大陸に分裂します。
このうちインド亜大陸は、もともとマダガスカル島などと一緒に、南のゴンドワナ大陸の一部でしたが、分裂後、赤道遥か南から北上し、ついには、アジア大陸に衝突してしまいます。
両大陸が衝突した付近は、激しく隆起し、現在のヒマラヤ山脈を形成しました。
(←ユーラシア大陸のうち「インド亜大陸」だけはゴンドワナ起源です。)
大陸が完全に分裂しますと、その後の生態系は独自に進化を始めます。
パンゲア超大陸の時代から現在の六大陸が形成されるまでの間、地上の王者は恐竜でした。
2000年の5月にブラジル南部のドナ・フランシスカ市で発見された恐竜化石は2億4100万年から2億3500万年前のものと言われており、現在のところでは最古の恐竜化石です。
つまり恐竜は、約3億年前とされる超大陸パンゲアの時代に出現し、それから六大陸に分裂し、約6500万年前に突如として滅亡するまで、浮遊を続ける地上の王者として君臨していたのです。
恐竜という名前は、1822年にはじめて公式に名付けられたものですが、その多くはヨーロッパや北アメリカやアジア~つまりローラシア大陸の化石です。
ブラジルの最古の化石を含め、ゴンドワナ大陸の恐竜に関して、研究や発見が進んだのは1990年代以降、ごく最近のことなのです。
(←1998年に、国立科学博物館で日本初のゴンドワナ大恐竜展が開催されました。どなたかご覧になりましたか?)
そして、6500万年前に恐竜は突如として絶滅します・・・氷河期の到来です。
4 月だけが知っている
今から3億年も前に、一つの超大陸だったパンゲア。
悠久の年月の中で、いくつもの大地に引き裂かれ、古い大地は、誕生のふるさとである地球のコアに向かって、深い奈落を静かに崩れ落ちて行く。
その辿り着く先は、ダンテの灼熱の地獄篇の世界なのか・・・。
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Damned Cast into Hell
(罪されし者を地獄へ追いやる天使)
(ルカ・シニョレッリ)
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そして、今現在も新たな世代の大分裂が始まりつつあり、その源はアフリカ大陸東部の大地溝帯であるといいます。
そこには、南北数千キロメートルにわたって陥没地形が口を開け、マサイ族が“輝ける山”と呼ぶアフリカ最高峰キリマ・ンジャロを初め多数の大火山が連なっています。
(←「キリマ・ンジャロ」はこのように区切ります。ちょっとしたトリビアでしょう?)
これからアフリカ大陸は、本体と東部に分裂し、そのほかの大陸もまた泡沫(うたかた)のように姿を変えていくのでしょう。
ならば、パンゲア超大陸が出現する前の地球の大地は、どのような形をしていたのでしょうか?
残念ながら、それを解明していくのは容易ではないでしょう。
現在の地球内部のプルーム運動が明らかにできたとしても、数10億年前のプルーム運動を解き明かすのは簡単ではないはず。
でももし、手がかりがあるとすれば、その可能性は、天空の彼方からいつも同じ一面だけを向けて地球を見続けてきた伴侶、レゴリス(写真の造影物質)に覆われた月ではないでしょうか?
大気のない月が、隕石に打たれるたび地球の面影を写像に刻みつけているとするならば、その映像は風化されずに太古の地球をとどめているかも知れません。
不毛で荒涼たる月自身の世界から、天空に青く輝く生命に満ちた水の惑星を何十億年も恋焦がれて見つめ続け、記憶に刻み込みながら・・。
月は次第に地球から離れているのだそうです。
やがて、遥かな未来には、月は手の届かぬ宇宙の彼方へと去ってしまうのでしょう・・・いくつかの地球の思い出を胸に秘めたまま。
そして、『悔いや未練や名残りだけがいつまでも取り残されて』・・・。
/// end of the “Episode4「浮遊大陸/後編」”
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《追伸》 2003.10.4
この「浮遊大陸」の後編をリメイクするに当たって、再び古地磁気学の最新研究を調査してみました。
すると、驚くべきことが分かりました。
僕がこの後編で「パンゲア超大陸が出現する前の地球の大地は、どのような形をしていたのでしょうか?残念ながら、それを解明していくのは容易ではないでしょう。」と書いてしまったのに、古地磁気学では、何とパンゲア大陸以前の超大陸の存在とその位置まで解明していたのです。
もっとよく調べると、なんと高校の教科書に載っていました。あらららら・・。
ちょっとトリビア 「高等学校理科総合B」より抜粋 その1
パンゲア以前には、現代と同様、多くの大陸が存在していた。しかし、原生代後期[解説]までさかのぼると、また超大陸が存在した。
このことは、原生代後期からカンブリア紀にかけて大陸縁辺部に堆積した厚い堆積岩が世界各地に分布していることからわかる。
1990年代には、パンゲア以前に、現在の北アメリカ大陸を中心に世界中の大陸が集まっていたとする復元が生まれた。この超大陸は“ ロディニア”と名づけられた。
ロディニアの原形は約10億年前に生まれた。7億5000万年前には、現在の北アメリカ西岸に地溝帯ができ、ロディニアは分裂した。
6億年前には,北アメリカ大陸からバルト地塊が分かれた。このように大陸が分裂するごとに、気候が急激に寒冷化し、全球凍結が起こったという指摘がある。 |
そして更に、プレートテクトニクスの開始年代まで判明していました。
うんとトリビア 「高等学校理科総合B」より抜粋 その2
近年になって、先カンブリア時代の地質学的研究や大陸地殻の構造調査が盛んになり、地質学的証拠にもとづいて、プレート・テクトニクスの始まりが議論できるようになってきた。
特に、1990年代にカナダ楯状地で大規模な地震探査実験がなされ、地殻や上部マントルの構造が詳しく調べられた。
その結果、先カンブリア時代の造山帯に沿って、プレートの沈み込みによるスラブ状の構造が明らかになった。この発見により、当時すでに現在と同じプレート運動があったことがわかった。
このカナダの造山帯は27億年前のものである。従って少なくとも27億年前からプレート・テクトニクスは作用していた。
それ以前からプレート運動が作用していたという主張もあるが,根拠は乏しい。 |
そ、そうなんですかぁ、「超大陸ロディニア」、「27億年前」・・・やっぱり不断の勉強を続けないといけないなぁ。
では、また次回のanother
world.で・・・See
you again !
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フィレンツェのウフィツィ美術館前で
ダンテに扮する大道芸人
マルコ・マンガーニさん(33)は、
観光客の投げ銭で暮らしている大道芸人。
毎日、ドゥオーモのフレスコ画に描かれた
ダンテと同じ真っ赤な衣装を着て、
石の柱廊を背景に立っている。 |
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be continued⇒ “Episode5 coming soon!
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