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《Web版》岸波通信 another world. Episode48

三苫の1ミリ/大気圏


(BGM:「DEEP BLUE」 by Luna Piena
【配信2022.12.6】
   (※背景画像は大気圏)⇒

  Atmosphere

 こんにちは。「ロマンサイエンスの夢先案内人」岸波です。

 貴方をまたも“the roman science of the cosmos”の世界へご案内します。

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「もしこれがノーゴールなら、陸上に生命はいません」・・・お茶の水女子大神山翼助教

 本日未明、2022カタールW杯の日本vsクロアチア戦は激戦の末、PK戦敗退で幕を閉じました。

 いやもう完全に脱力状態で、しばらく立ち直れそうにもありません。

 それはさておき、"死の組"予選リーグで対スペイン戦の勝利を決めた『三苫の1ミリ』が世界を騒がせました。

三苫の1ミリ (2022カタールW杯/日本vsスペイン戦)

 結果はご承知の通り、もちろん科学技術による判定が覆るはずもなく、日本の決勝リーグ進出が確定した訳ですが、この判定に関して冒頭のコメントを寄せたお茶の水女子大神山翼助教の発言が大きな話題となっています。

 この記事、本来は今、勢いが出ている『葉羽のコーヒーブレイク』で書いてもいいのですが、『大気圏』の話になって行くので、こちらに掲載することにします。

 

 

1 ファンタスティックな写真

 まずは冒頭に掲げたファンタスティックな写真についてです。

 スペイン戦、2点目を生んだ三笘のクロスですが、これはVAR判定に持ち込まれ、結果、ボールの端がライン上にギリギリ残っていたというFIFAの公式判定が。

VAR

(カタール)

 しかしFIFA側から直ちに”証拠の映像”が公表されなかったため、物議を醸すことになりました。

 そもそも写真判定ではなく、サッカーボールに埋め込まれたセンサーによって空間位置情報を確認するシステムなのですが。

 そんな中、その日のうちにインスタグラムで公開されたのが上掲の写真。タイトルは「ヒューマンVAR再び」(笑)

 撮影したのはニューヨークAssociated Press通信社のカメラマン、ペテル・ヨセク氏。

 三苫がボールに触れた瞬間をキャットウォークから撮影したもので、かすかにライン上にかかっていることに納得。

 この奇跡の画像に世界から賞賛が寄せられました。うん、これこそが”ブラボー!”なんじゃないかと思う(笑)

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2 地球の大気圏

 しかし、見た目の角度によっては、ボールがラインを割っているかに見えるのもまた事実。

 特に、世界放送されていたTV画面では、三苫の背中の方向から撮影されているために、実際この僕もスロー再生ではアウトだったように見えていました。

TV画像

(対スペイン戦)

 デジタル判定に納得いかないファン、特にスペインに肩入れして見ていた人たちからはVAR自体に大きなブーイングが。

 その騒動が収まらない中、お茶の水女子大の神山助教がツイートしたのが冒頭の言葉という訳です。いわく・・

「もしこれがノーゴールなら、陸上に生命はいません」

神山翼助教

 これはどういう事かと言うと、三苫が蹴ったボールの半径は11センチメートルで、その後のFIFAの発表によれば、ライン上に残っていた部分は1.88ミリメートル。すなわち半径の1.7%。

 我々の住む地球の平均半径は6,371キロメートルで、その表面にある地球の大気(対流圏)の厚さは約16キロメートル、すなわち0.3%しか無い。

 つまり、 それよりずっと大きな三苫の1.7%をライン外(大気圏外)と言うなら、地上に生物は存在出来ないと(笑)

 うん、なるほど! ・・と言うか、大気圏の厚さがそれしか無かったという事の方に"目から鱗"!

 だって、通常我々が目にする(宇宙ステーションから見た)地球の画像って、こんなんじゃありません?

宇宙から見た地球

(NASA)

 これが、台風の目などを捉えた写真であれば、こんなふう。

 これらが地球の表面0.3%しか無い薄膜の中で起こっている事象だったことが、感覚的に納得が行かないでしょう?

 ちなみに、地球の大気圏の構造を調べてみると、実はこうなっている。

 この図で一番内側にある白表示のTroposphere(対流圏)は0-12キロメートルとなっていて、神山助教の言う「16キロメートル」より小さいですが、そもそも地球は遠心力が加わる赤道方向に楕円に歪んでいるので、大気圏の厚さも均等ではない。

 この模式図は理解しやすいように大気圏が強調されていますが、実際は半径の「0.3%」しか無い訳です。

 ちなみにその外側の構造をWikiで見てみますと、地上50キロメートルまでがオゾン層が存在する「成層圏」、そこから80キロメートルまでが流星が見える「中間圏」、その外側の「熱圏」が約800キロメートルまであるそうです。

 いずれにしても、生物が呼吸ができて生存できるのは薄皮の対流圏の中。我々はこんなに薄い大気の恩恵で生きているのですね。(遠い目)

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3 木星の大気圏

 では、ガス惑星と呼ばれ、太陽系最大の惑星である木星の大気圏はどのくらいあるのか・・気になって調べてみました。

  太陽系第五惑星の木星の質量は1.900e27 kg。地球の質量の318倍で、太陽系の惑星全てを集めた質量の2倍もあります。

 この木星の大気圏を無人探査機ジュノーが捉えた画像が2018年3月に『ネイチャー』誌上で公開されました。

 木星の南極付近の合成画像だそうですが、それをAFPが伝えたのが以下。

 うわうわうわ、太陽みたいだ!!?

 赤外線画像なのでしょうが、この色は付けて欲しくなかったなぁ。

 で、そのデータを元にした研究で、木星の大気圏は表面から3,000キロメートルまでの深さがあることが推計されました。

 そこで言う「大気圏」が地球で言う「対流圏」までなのか「熱圏」まで含むのか判然としませんが、「対流圏」だとすれば、16キロ対3,000キロ・・とてつもない大きさです。

ウエッブ望遠鏡が捉えた木星画像

 ここで気になる事が。地球は0.3%だけれども木星は何%になるのか?

 木星の半径は赤道方向で71,492キロメートルですから、計算すると約42%ということになります。

 え!!! じゃ、その内側はどうなっているのか?

 この長年の謎についても、同研究チームが解明しています。

 それによれば、大気圏の内側には『水素とヘリウムから成る液体のコアがあり、赤道方向に一様に回転していて固体のような振る舞いをしている』と。

 やっぱりコアがあったのですね。そうではないかと思っていました。木星の巨大質量を受けて中心部が「気体」である筈がないですから。これは素晴らしい大発見だと言えましょう。

 それにしても「液体コア」ですか・・。

 昔、松本零士の銀河鉄道だったかエスメラルダだったか忘れましたが、全部「水」で出来ている惑星の話が書かれていて、ロマンを感じていました。

 まさかこんな近くに「水の惑星」(液体の意味)があったなんて!

 

/// end of theEpisode48「三苫の1ミリ/大気圏」” ///

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《追伸》

 この another world.の目次を追記していて思いましたが、前回更新が2016年5月ですか・・6年半も前なんですね。長いこと放置してました。

 岸波通信もどんどんバリエーションが増え、全体の更新頻度・更新数もうなぎ上りで来ましたから、そのまま放置するしかないかとも思っていました(笑)

 たまたま今回は、流れで宇宙の話になるのでこちらに持ってきましたが、番外編みたいなものでしょうか。

 今では最前線の宇宙理論も、マルチバースとか明らかに「検証不可能」なところまで行ってしまい、正直、興味を失っていました。SFのネタにはいいんでしょうけれどね。

 それから、この分野の相棒であった宇宙協会員のDreamさんが、(おそらく)お亡くなりになって音信不通になったのも大きいかな・・。

 また気が向けば、続きを更新したいと思います。

 

 では、またいつか次回のanother world.で・・・See you again !

三苫の1ミリ (※再掲)

 

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To be continued⇒ “Episode49 coming soon!

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