Er Wang Dong
こんにちは。「ロマンサイエンスの夢先案内人」岸波です。
貴方をまたも“the roman science of the cosmos”の世界へご案内します。
「スネッフェルス山の頂にある火口の中を降りていけば、地球の中心にたどり着くことができる」・・・ジュール・ベルヌ「地底旅行」より
「地底旅行」はフランスのジュール・ヴェルヌが1864年にエッツェル社から刊行したSF冒険小説の古典です。
翌1865年に発表した「月世界旅行」と共に商業的成功を収め、SF作家ヴェルヌの名声を不動のものとしました。
現代の視点から見れば、両作品とも荒唐無稽なファンタジーに見えるかもしれませんが、彼の創作に挑む姿勢は「科学的原理」を基盤とすること。
地質学や古生物学など啓蒙的な要素を作品に取り入れているのが特徴で、少なくとも彼が生きた同時代における科学的知見をないがしろにすることは好まなかったのです。
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「地底旅行」
(ジュール・ヴェルヌ)
(1874年版) |
そんなヴェルヌが「地底旅行」において、既に知られていた「地下の高気圧」やマグマの存在による「高熱」の問題を棚上げして、人間を地下に送り込みました。
しかしこれも、主人公の「わたし(アクセル)」が作中において『高温で遭遇しなかったのはあくまで特殊な事象だったろう』と述べさせることで非化学性に陥ることを回避させたと言われています。
さてその「地底旅行」の世界…
時は21世紀、英国マンチェスターの写真家ケイバー・ロビー・ショーンによって中国に実在していたことが明らかにされたのです。
1 「地底旅行」の世界と二王洞
もちろん、ヴェルヌの「地底旅行」が実話だったとか、荒唐無稽な話をするつもりはありません。彼が物語で想定していた地底の風景そのままの大洞窟が発見されたということです。
では、「地底旅行」の世界とはどんなものなのか?
主人公「わたし(アクセル)」の叔父である鉱物学者のリーデンブロックは骨董屋で入手したルーン文字の暗号文を解読し、アイスランドの死火山スネッフェル山の火口の下に地球中心へたどり着ける洞窟があることを知ります。
道行きは甥のアクセルと現地に詳しい案内人のハンス。
旅支度を済ませた三人が火口を降りて行くと、途中様々なトラブルに遭遇しながらも、ついに地底の大洞窟に到達します。
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「地底旅行」 |
その大洞窟はオーロラのような発光現象で明るく照らされており、地下の大海があり、キノコの森が繁茂して恐竜や原始的な生活を営む人類も存在していました。
三人は結局、「地球の中心」まで到達することはできず、大海を航海した筏ごと火山の火道に引き込まれ、ストロンボリ島の火山噴火に乗じて地上へと生還するのです。
僕は子供の頃、「地底大陸ペルシダー」とこの「地底旅行」をほぼ同時期に読んだ記憶があり、二つの世界の相似性を感じるとともに、まだ見ぬ地底世界にあこがれを抱いたものです。
そして、先般発見されたのが、中国のほぼ中央部重慶市にある「二王洞」という超・大洞窟。
重慶市と言えば、上海、北京、天津と並ぶ4つの直轄「国家中心都市」の一つ。人口は2,884万人(2010年統計)で、市域は北海道よりも広い8.24万平方キロメートルの広大な市です。
物流の大動脈である長江沿岸に栄えた重慶は水運都市として栄えてきましたが、ガス田など豊富なエネルギー資源を有すること、中国中央部の交通の要害にあることから、近年は工業都市として発展を続けています。なお、有名な三峡ダムも上流にあります。
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重慶市 |
こんな大都市なのに、何故今まで「二王洞」が発見されなかったのか?
実は、重慶市は広大な面積の割りに都市域が狭く、人口密度は350人/km2とかなり低いのです。つまり、中国内陸によくあるように中心部こそ大都会ですが、周囲は農山村地域が広がり、前人未到の未開発地域も数多く存在しているのです。
二王洞があるのは、重慶市から真東に150キロ前後の山中で、千女山国家森林公園から東北東に約30キロの地点。
さて、どのような洞窟なのか?
2 二王洞
英国の写真家ケイバー・ロビー・ショーンは15名のパーティを組んで、約1か月間にわたって二王洞を調査し、世界で初めてその内部写真を公開しました。
まず、その驚くべき写真を以下に。
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二王洞 (C)Caver Robbie Shone |
一瞬、大きさの観念が掴めないかもしれませんが、写真中央部の下、地底湖のほとりに佇んでいるのが調査隊員の一人です。
天井は遥か上方。でもまだまだ序の口です。この二王洞に降りるためには、とんでもない断崖を下って行かねばならないのです。
下が、二王洞へと続く崖。
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二王洞への道 (C)Caver Robbie Shone |
この時点で、誰も行きそうにない場所であることがお分かりの事と思います。
下から見上げるとこんな感じ。
洞窟の入り口にロープで降りて来る隊員が左上に見えます。
でも、この洞窟の一口付近は「前人未踏」なワケではなく、かつて硝石の採掘場だったことが知られています。
ただ、ごらんの通りの場所ですから、運搬の時間的・費用的コストまで考えると到底ペイするとは思えません。
かなり早い時期に放棄されたと考えられ、さらに洞窟の奥まで進入した形跡は見つかっていません。
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二王洞の入り口付近 (C)Caver Robbie Shone |
二王洞の入り口付近は深い森に覆われ、中空には雲がたなびいています。
周辺は巨大な窪地になっており、雨水が流れ込むことから常に一定の湿度があり、それが中空の雲を形作っているものと考えられます。
入り口付近からさらに奥へ進むためには、下のような縦穴を降りなくてはなりません。
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二王洞 (C)Caver Robbie Shone |
縦穴の壁を伝って水が滝のように降り注いでいるのが見えます。
この豊富な水が枯れない地下湖の水源となっているのです。
降下中の写真。
豊富な水分が霧となって洞窟内を覆っています。下が見えない中を降る……どんな気分なのでしょうか。
ここを降りた先が、最初にご紹介した写真の場所です。
でも、まだまだ先があります。最奥部に向けては何階層も降下しなくてはなりません。
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二王洞 (C)Caver Robbie Shone |
さらに降りて、比較的平坦な場所…。
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二王洞 (C)Caver Robbie Shone |
またもや降下します…。
内部かなり狭く、尖っている危険な岸壁です。
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二王洞 (C)Caver Robbie Shone |
大鍾乳石が目前に。下からヘッドライドで照らしているのが隊員。
この巨大さ…世界最大級ではないでしょうか。
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二王洞 (C)Caver Robbie Shone |
凄まじい激流を越え…。
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二王洞 (C)Caver Robbie Shone |
滝の上の降下ポイントを探り…。
地底河川をボートで進みます…。
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二王洞 (C)Caver Robbie Shone |
上の写真では黄色に見える水が、下ではエメラルド・グリーンになっています。
裏磐梯の五色沼同様、水底から酸性の鉱泉が湧きだし、硫酸イオンや塩素イオンの影響でこのような色になっているのかもしれません。
それにしても美しい…。
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二王洞 (C)Caver Robbie Shone |
驚くべきことに、この地底湖には魚類が棲んでいます。
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二王洞 (C)Caver Robbie Shone |
太陽の光が届かないため体色が白化しており、退化によって目が無くなっています。
貧栄養の深地下湖に棲む生物は、動きが緩慢な代わりに非常に長寿な例が多いと言われます。
彼らはどれだけ長い間、ここに棲息して来たのか? それよりも、最初のツガイがどうやってここまで降りて来たのか? …興味は尽きません。
それよりも、真に驚くべきは次の写真。
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二王洞 (C)Caver Robbie Shone |
そうです。ケイバー・ロビー・ショーンのパーティは、こんなところにキャンプを張って、一か月間の調査を行って来たのです。
ファンタスティック!
ここをベースに、更に深奥に踏み込めば…
またもや巨大な鍾乳石。
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二王洞 (C)Caver Robbie Shone |
大空洞…。
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二王洞 (C)Caver Robbie Shone |
超・大空洞…。
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二王洞 (C)Caver Robbie Shone |
もはや、下中央に居る人間が点のようにしか見えません。
どれだけ大きい洞窟なのか…。
でも…… まだまだです。
最後の写真たちを見て行きましょう。
最初はこれ。
何やら隊員が上を見上げています。
いったい何を見ているのでしょうか?
少し画面を引いてみましょう。
おっと! 見上げた先にはトンデモナイ大空洞が。
…でも、彼が見ているのは大空洞ではありません。
最後の写真です。
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二王洞 (C)Caver Robbie Shone |
もう気の遠くなるような高さ。そして距離。
中空に雲がたなびいていますが、これが底面から250メートルの位置。
既に洞窟の天井はどこにあるのかさえ定かではありません。
そして… 彼のヘッドライトが照らしている先に何やら…?
拡大してみると…
お分かりでしょうか。向こう側にも隊員が立っています。
このトンデモないスケールの超・大空洞。
まさに、地球が生んだ奇跡と言えましょう。
「地底旅行」でリーデンブロックらが眼にした驚愕の地底世界。それはまさに、このような風景だったのかもしれません。
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end of the “Episode47「地底旅行/二王洞」”
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《追伸》
二王洞の総面積は、既知の分だけでも5,100平方メートル以上あることが分かっています。
それにしてもあれだけの大空洞… 地震の少ない中国だからこそ今まで崩れずに残されてきたのかもしれません。
なお二王洞は、「世界の絶景調査委員会」が著わした『地球とは思えない世界の絶景』の秘境・奇景64か所の一つとして取り上げられています。
amazonから1,404円でお求めいただけるようです。
ラストショットは、そんな『地球とは思えない世界の絶景』から、サハラ砂漠のチャドにある貴重な水源にナイルワニとラクダが集う風景です。
では、また次回のanother
world.で・・・See
you again !
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サハラ砂漠の水源に集うワニとラクダ |
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