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《Web版》岸波通信 another world. Episode46

天獄と地国/ダイソン球殻


(BGM:「DEEP BLUE」 by Luna Piena
【配信2015.12.24】
   (※背景画像はダイソン球殻の想像図)⇒

  Dyson sphere

 こんにちは。「ロマンサイエンスの夢先案内人」岸波です。

 貴方をまたも“the roman science of the cosmos”の世界へご案内します。

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「手持ちの船では『飛び地』までおっかけていくのにはパワーが足りない」カムロギはふて腐れたように言った。「なにしろ、やつら空の下にいるんだから永久に安泰さ」・・・小林泰三「天獄と地国」より

 日本推理作家協会会員であり、日本SF作家クラブ会員や宇宙作家クラブ会員でもあり、さらに電子情報通信学会会員でもある異能の作家小林泰三(やすみ)の代表作の一つに「天獄と地国」があります。

 「天国と地獄」ではなく「天獄と地国」…その世界では、天と地が逆転しており、人々は天にある地面にぶさらがって生活しています。

 誤って手を離せば、下方にある星空へ無限に落下し、死んでしまうという恐ろしい世界。 つまり、天と地だけでなく重力が逆向きに作用している世界なのです。

 荒唐無稽? …ところがっ!!

「天獄と地国」

(小林泰三:作)

 作者の小林泰三はSFを扱った場合、「ハードSF作家」に分類され、“何でもあり”のファンタジーではなく、緻密な物理理論に基づくストーリーを構築する人物。

 「天獄と地獄」の異世界も現実に存在しうる世界として…いえいえ、もしかすると、この太陽系の未来として描かれているのかもしれません。

 キーワードは「構造」。

 その答に近づく前に、二つの話をさせていただかなくてはなりません。

 

 

1 北極大空洞

 1968年11月23日のこと。アメリカの気象衛星「ESSA-7」が鮮明な北極の“大空洞”を撮影し、世界中が大騒ぎになりました。

 というのも、ハレー彗星の軌道計算をしたことなどで著名なイギリスの天文学者エドモンド・ハレーが17世紀末に極地方の変則的な磁気変動を説明するために『地球空洞説』を発表しており、今回発見された大空洞がその仮説を証明するものではないかと考えられたからです。

衛星が撮影した北極の大空洞

 ハレーの仮説によれば、地球の内側は空洞になっており、その中には水星と同じ直径の中心核と、金星および火星と同じ直径で厚さ500マイルの同心球状の二つの内核が存在し、それらの間には空気の層があるとされていました。

 この“多重球殻”の内部は居住可能で、天空に揺らめくオーロラは極地から逃げてくる発光性ガスによって生じると唱えたのです。

 ハレーの説を改良したのが「オイラーの多面体定理」などで有名なスイスの数学者レオンハルト・オイラー。

 1970年頃、オイラーはハレーの多重球殻説を否定し、直径1000kmほどの中心火球が地球内部世界を照らしており、そこには高度な文明が発達し、北極と南極に開口した大空洞からこの世界と行き来することが可能だと考えました。

 その後も幾つかの地球空洞説が発表されましたが、1968年に気象衛星によって撮影された北極の大空洞は、まさにこのオイラー型の地球空洞モデルそのものに見えたのでした。

オイラーの地球空洞モデル

(Wikipedia)

 事の真偽が不明なまま、さらにセンセーショナルな出来事が起こります。

 翌1969年、アメリカのレイモンド・バーナードが「空洞地球ー史上最大の地埋学的発見」という本を出版しました。

 その内容は、極地探検家として有名だったリチャード・バード少将が1947年に南極上空を飛行中、極地の大空洞の中に迷い込んで植物の生い茂る世界を見ていたというもの。

 いかにも…な便乗記事の体裁ですが、空洞内部世界は当時世間を騒がせていたUFOの発進基地があるに違いない~とまで書いたことで喧々諤々の論争が巻き起こります。

 この当時、僕自身も(書名は忘れましたが)この事件を取り上げた本を読んで驚愕した記憶があります。

 地球空洞説自体は、エドガー・ライス・バローズの「地底大陸ペルシダー」シリーズが日本でもベストセラーにもなっており、割とよく知られた話ではありましたが、まさか本当に地球に空洞があったなんて…。

 しかし!!! ……そんなはずは無いのです。

 1911年にはノルウェーのアムンセン隊が南極点に到達していますし、アメリカ人のラルフ・プレイステッドがスノーモービルを用いて北極点に到達したのは、まさに気象衛星が北極大空洞を撮影した1968年の同じ年の事でしたから。

 ならば、撮影された大空洞とはいったい何だったのか?

南極点到達のアムンセン

(Wikipedia)

 実は、公表された写真は気象衛星が北半球を撮影した何枚かの合成写真だったのですが、撮影時期の関係で北極は日が差さない「極夜」にあたっており、影となる極地方はまるで真っ黒に穴が開いたように見えてしまったのです。

 また、万有引力の法則により、球面の殻の内側では全ての地点で無重力となる(遠心力は重力に比べて無視できるほど小さい)ことが導かれ、そもそも空洞内の地表に人間が立つことは不可能なのです。

 こうして、世間を騒がせた騒動は(一部の好事家たちを除き)終息することとなりました。

 しかし…

 このロマンに溢れる地球空洞説は、上述の「地底大陸ペルシダー」シリーズをはじめ多くのSFに設定として用いられ続けるのです。

←(有名なものではジュール・ベルヌ「地底旅行」、石ノ森章太郎「サイボーグ009・地底帝国ヨミ編」、ストロガツキー兄弟「収容所惑星」など。)

 そしてさらに…その延長上の実現可能なアイディアとして、より壮大なストーリーが誕生するのです。

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2 リングワールド

 レイモンド・バーナードがトンデモ本「空洞地球ー史上最大の地埋学的発見」を出版した翌1970年、SF作家ラリー・ニーヴンの代表作「リングワールド」のシリーズ第一巻が刊行されました。

 物語は2850年に、ある恒星を取り囲む巨大な人工構造物「リングワールド」の探査隊が宇宙船ライイング・バスタード号で太陽系を飛び立つところから始まります。

 このリングワールドは、直径がほぼ地球の公転軌道(周囲が約6億マイル)に匹敵し、主星をリング状に取り巻く人工天体で幅が約100万マイル、リング内側の面積は地球表面の約300万倍の広さを持ち、リング自体を回転させることで地球とほぼ同じ人工重力(遠心力)を生み出しているのです。

 リングの両端には高さ100マイルの側壁が設けられ、内側に空気を満たして居住できるようになっており、約30兆人が居住。そこには人工の山や川、森、海も作られています。

リングワールド

 このとてつもない世界観で描かれた冒険譚は一世を風靡することとなり、SFの金字塔であるヒューゴー賞とネヴュラ賞を共に受賞、続編として3つの長編や同じ世界観で描かれたいくつものスピンアウト作品が上程されることになります。

 さて、恐るべきリングワールドの内側世界…その外側はどうなっているのか?

 もちろん側壁もありませんし、空気もありません。極めて密度の高いスクライス(架空の物質)で覆われ、隕石からの保護層として機能しています。

 もっとも重要なのは重力。

 遠心力で生み出す人工重力が外側に向かって機能しますから、壁にへばりついていなければ深宇宙へ放り出されてしまいます…。

 そう…感の良い読者なら既にお気づきの事と思いますが、タイトルの「天獄と地国」の舞台となっているのは、このような世界(構造物の外側)なのです。

 「天国と地獄」は、2002年の短編集「海を見る人」の中の一編として世界観を表す導入部が描かれ(もちろん短編小説として完結している)、2011年にSFマガジンに連載されていた長編化作品がまとめられて出版されました。

 僕自身が読んだのは「海を見る人」に収録された短編ですので、主人公たちが住む天地逆の世界(構造物の外側)がもっぱらの舞台で、地面の下にあるという「地国」の世界は伝説として登場するのみ。(※最後に手がかりを発見する。)

リングワールド

 しかし、作品で述べられたデータから、実際の「世界の構造」を詳細に検討した人物がいることに気づいて驚きました。

 彼の試算によれば、(おそらく)恒星を取り巻いて構築された構造物の直径は2AU(地球ー太陽の距離の2倍)…何とリングワールドより遥かにデカイ!?

 しかも遠心力で生み出される人工重力はほぼ1G。

 「太陽からの距離が2AUでは遠すぎないか」という疑問に対しても、計算の結果「(内側世界は常に太陽が直上の正午であるため)2AUという数字は、年間平均の入射エネルギーが地球の赤道上と同等になるように設定したのではないか」との考えが述べられています。

 むむっ…「不純粋科学研究所(ホームページ)の管理人、恐るべし。そして小林泰三、恐るべしっ!!

 「天獄と地国」の世界観は、実に緻密に組み上げられた物理理論によって構築されていたのです。

「海を見る人」

(小林泰三:作)

 …この「不純粋科学研究所」の管理人日記にこのような記述がありました。

『中心質量が太陽のそれとほぼ同じであると出てくる。やはり中心は太陽らしい。そうか地面はダイソン球殻だったのか。』

 え! リングワールドじゃない!?

 ならばと…「ダイソン球殻」について調べてみると、さらにビックリ。

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3 ダイソン球殻

 ダイソン球殻(「ダイソン環天体」など様々な訳語がある。)は、1960年にアメリカの物理学者フリーマン・ダイソンが提唱した仮説。

 自然の状態であれば、恒星の放つエネルギーのほとんどは宇宙空間に消え、惑星が受け止めたほんの一部分のエネルギーしか利用されません。

 このため、高度に発達した宇宙文明では、恒星を覆う巨大な球殻を構築し、恒星エネルギーのほぼ100パーセントを活用している可能性があるのではないかと考察したのです。

ダイソン球殻(※外側にリングワールドを併設した想像図)

 数年後の1964年、ロシアの天文学者ニコライ・カルダシェフは「宇宙に存在しうる宇宙文明の進歩の三段階」という論を発表します。

◆第一段階……一つの惑星上で得られる全エネルギーを利用する文明

◆第二段階……一つの恒星系で得られる全エネルギーを利用する文明

◆第三段階……一つの銀河系で得られる全エネルギーを利用する文明

 何と壮大な文明論。我々の地球文明はまだ第一段階にも達していない…その可能性に気づいたばかりの段階なのです。

 しかし、このような巨大構築物が果たして実現可能なのか?

 …実は技術的には、現在の基礎技術の組み合わせで不可能ではないのです。

←(資源やエネルギー、そして経費を考えなければ~という事。)

 建設の初期段階では、球殻を形成する恒星の公転軌道上に人工物を一つずつ打ち上げて並べ、それらをリング状に繋いでいく作業から始めます。

 ある意味「リングワールド」のような形状となります。これを「ダイソン・リング」と呼びます。

ダイソン・リング

(第一段階)

 これを繰り返して網状にし、次第に太陽全体を覆うように組み合わせていけばいいのです。

 この網状になった第二段階を「ダイソン・スウォーム」と呼びます。

ダイソン・スウォーム

(第二段階)

 これが最終的に組みあがると右背景(⇒)のようなダイソン球殻となり、さらにその外側にリングワールドを構築する場合は、先に掲げた画像のような姿になるのです。

 ただ、建築過程で二つの課題が提起されます。

 一つは、ダイソン球殻をきっちりと組み合わせようとする場合、周辺の天体(惑星など)の摂動で「歪み」が生じてしまうこと。

 もう一つは、そもそも地球上にこれだけの物を構築できる資源など存在しない事です。

 これに対しても、二つの対応方法が想定されています。

 一つは、「きっちり」と組み上げるのではなく、分離したパーツを固定せずにモザイク状に帯を作って行くやり方。

 もう一つ…資源の問題はより根本的な問題になりますが~周辺天体そのものをダイソン球殻の原料として「除去」してしまうことです。

帯状にまでなったダイソン球殻

 ある意味、ラリー・二―ヴンの「リングワールド」も「ダイソン球殻」の一部を切り出した変種の一つと言えるかもしれません。

←(恒星のエネルギーを100%使うという目的からは外れますが。)

 ただ、ダイソン球殻を閉じた状態にしておくと、時にエネルギーの供給過剰状態となり熱が発生するなど様々な問題が想定されます。

 このため、余分なエネルギーを赤外線等の形で外部に放射できるようにしておくことが合理的と考えられます。

 このような前提から、仮にダイソン球殻を既に完成させている宇宙文明が存在するとすれば、「不自然な赤外線放射の探査により高度な宇宙文明を発見することができるだろう」とダイソンは主張しています。

 そして、既にそのためのプロジェクトが始動しているのです。

 それは「SETIプロジェクト」と名付けられた“宇宙電磁波から人工的な通信等を発見する地球外知的生命体探査計画”で、日本では1991年から宇宙科学研究所の赤外線望遠鏡を用いて探査が行われています。

モザイク状に組み上げられたダイソン球殻

 そうした中、今年(2015年)10月にダイソン球殻である可能性を秘めた天体が発見されたとのニュースがネットを駆け巡りました。

 その天体は、地球から1480光年先にある「KIC 8462852」。イェール大学の研究者タベサ・ボヤジャンがケプラー宇宙望遠鏡で4年以上観察を続けた結果、この天体の光の強さが、説明のつかない変動を繰り返していることが分かったのです。

 ボヤジャン自身はKIC 8462852の周囲を系外彗星の破片が通過しているのではないかという仮説を提示しましたが、ペンシルバニア州立大学の天文学者ジェイソン・ライトは、KIC 8462852自体がが「ダイソン球」である可能性を指摘しています。

 生命体探査では、他の恒星のハビタブル・ゾーンにある地球タイプの系外惑星の探査が進められて大きな成果を上げつつありますが、所詮それは「生命誕生の可能性がある天体探査」に過ぎません。

 しかし……ダイソン球殻を作り上げる宇宙文明となれば、我々よりはるかに進んだテクノロジーやカルチャーを持っているはず。 

 地球外知的生命体とのファースト・コンタクト…その相手は意外なところから発見されるのかもしれません。

 

/// end of theEpisode46「天獄と地国/ダイソン球殻」” ///

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《追伸》

 「天獄と地国」のデータを分析した「不純粋科学研究所」の管理人さんは、ストーリーの舞台を「ダイソン球殻」と判じたようですが、僕はやはり「リングワールド」ではないかと思うのです。

 というのも、海賊たちが住んでいる「飛び地」微小惑星が“眼下の天”に見えている描写があったからです。

 5万キロの彼方とはいえ、ダイソン球殻ならば太陽光を相当部分まで遮ってしまうでしょうから、海賊の「飛び地」は反射光が強くなければ見えないのではないかと思います。

 まあ、リングワールドもダイソン球殻の一種であるという考え方がありますので、そういう意味なのかもしれませんが…。

 それから、「地球空洞説」と「ダイソン球殻」の発想…似てると思いませんか。

 ん?似てないだろって!? コンセプトが違う? この部分いらない?

 ま…そんなオリンピック・エンブレムのような固い事言わないで。

 似てるでしょ、中心火球。ね…ね! 

 このダイソン球殻やリングワールド~太陽系では当分実現できないように思います。何といっても材料集めが大変ですからね…。

 でも、太陽を周回するような規模でなく、人間の居住圏に近い地球上空などに構築するならば、いっきに可能性は高くなります。

 「宇宙ステーション」という発想を根本からひっくり返せばいいのですから。

 実際、そういう構想に基づいてSF作品や映画も作られ始めています。

 ということで、最後に「地球近傍のリングワールド」の画像を♪

 

 では、また次回のanother world.で・・・See you again !

地球近傍のリングワールド

 

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To be continued⇒ “Episode47 coming soon!

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