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《Web版》岸波通信 another world. Episode45

太陽のアナレンマ


(BGM:「DEEP BLUE」 by Luna Piena
【配信2015.4.12】
   (※背景画像は野村仁:「北緯35度の太陽」)⇒

  Analemma

 こんにちは。「ロマンサイエンスの夢先案内人」岸波です。

 貴方をまたも“the roman science of the cosmos”の世界へご案内します。

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“いつも太陽の光に顔を向けていれば、影を見ることはありません。” ・・・ベンジャミン・フランクリン

 人は誰も自分のいる位置や方角を無意識のうちに認識しています。自分の居る場所が町のどの辺にあるのか、南の方角はどちらなのか。

 ところが、見知らぬ街で地下鉄から地上に出た時や、山の登山道から外れて森へ迷い込んだりした時、言い知れぬ不安に襲われるはず・・・それは自分の『座標』を見失うからです。

 でも、こういう時、とっておきの方法があるのです。

森の中の太陽

 貴方の腕時計の12時を太陽に合わせれば、時計の短針と12時とのちょうど中間が真南の方向なのです。

 何て便利な知恵なのでしょう。でも、デジタル時計の場合は使えませんけどね。

 このように、太陽は我々の道しるべとなります。

 しかし、この“道しるべ”・・・結構、気まぐれなところもあるようで。

 

 

1 地球は一年に366回自転する

 太陽が真南に来ることを“南中”と言います。太陽の南中から次の南中までを「一日」と定義することも可能でしょう。

 閏年でなければ一年に365回、太陽が南中することになります。

 では、地球は一年に何回自転するでしょうか?

 正解は366回・・・何故、一回多いのか?

太陽の南中

 地球は太陽の周りを公転しています。したがって、地球が一回自転して元の位置に戻っても、その間に地球は少しだけ公転して先に進んでいるので、太陽方向に南中するためには、その分だけ余計に自転しなくてはならないからです。

 とすると、疑問がわくはず。『地球の自転は24時間に一回ではなかったのか?』

 Wikipediaを見てみましょう。

 『自転周期は国際地球回転・基準系事業 (IERS)によって定められている。恒星に対する地球の自転周期は、86 164.098 903 691秒(23時間56分4.098 903 691秒)である。』

 太陽に対する自転周期(太陽日)は約86400秒で24時間ですが、全天に対する自転周期(恒星日)は上記の通り4分ほど短くなるのです。

南中するために
地球は少し余計に
自転しなければならない

(Wikipedia)

 この『少しだけ余計に自転している分』が一年間を通すとちょうど一回転分になるため、地球は一年間に366回自転することになります。

←(「恒星時では」ということですけれど。)

 それでは、太陽が南中する時刻は毎日決まって12時なのでしょうか?

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2 揺れ動く太陽

 日本標準時は東経135度の子午線を通る位置での時刻として定められています。兵庫県の明石市や淡路島などを通る東経線ですね。

 この子午線上、北緯35度東経135度における南中時刻の年間変化を示したグラフが以下の通り。

南中時刻の変化(北緯35度東経135度):国立天文台

 早い時には11時44分頃、遅い時には12時14分くらいまで、年間を通して複雑に変化していることが分かります。

 何故こういうことが起きるのか? ・・・実は二つの要因があります。

 その一つは、地球が太陽のまわりを回る軌道が完全な円ではなく楕円のため、太陽に近いときには速く動き、太陽から遠いときには動きが遅くなるからです。

地球の楕円軌道

 このように、冬至過ぎの近日点(地球が太陽に最も近くなる地点)では公転速度が速くなるため、『余計に自転しなくてはならない分』が大きくなり、南中から南中までの時間間隔は長くなります。

 夏至過ぎの遠日点(地球が太陽から最も遠くなる地点)では、これが逆になります。

 そしてもう一つの要因は、地球の回転軸が公転面に対し23.4度傾いている事。

 ・・・と簡単に言いますけど、これが中々理解できませんでした。ネットの中にも僕と同じ人たちが多いようで、質問サイトに投稿されているのですが、その「模範解答」を見てもさっぱり理解できない。

 ということで、自分で絵を描いてみました。それが次の「春分の日の地球」。

春分の日の地球

 どうでしょうか?

 地軸が傾いているため、春分の日におおいては、北緯の高い地域ほど早く南中し、南半球では逆に、南中するまで余計に自転しなくてはならないことがお分かりいただけると思います。

←(北極に近い地域では南中すること自体無くなります。)

 ならば、夏至や冬至の場合、これがどうなるか?

 経度が同一ならば同時に南中することになるのは、ご想像の通りです。

 つまり地軸が傾いているため、同じ北緯地点でも地球の公転位置によって南中時刻が変化するのです。

←(赤道上では地軸の傾きによる南中時刻の変化は起こらない。)

 これら二つの効果を合わせたものが、先に示した「北緯35度東経135度の南中時刻の変化」のような複雑な動きとなります。

 さて、ここからが本題。

 では、毎日同じ時刻に、南の空に浮かぶ太陽を撮影すると、どのように見えるのでしょうか?

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3 太陽のアナレンマ

 上で説明した南中時刻のゆらぎによって、同じ時刻に見える太陽は東西方向にシフトします。

 また、地球の地軸が傾いているため、季節変化によって見かけの太陽は南北方向にもシフトします。

 この二つの効果により、一年間、同じ時刻に撮影された太陽の軌跡を合成すると次の写真のようになります。

「正午のアナレンマ ’90」

(野村仁:1990年)

和歌山県立近代美術館蔵

 美しい8の字の軌跡です。8の字の最も高い位置にあるのが夏至の日の太陽。低い位置が冬至の太陽になります。

 現代アーティストである撮影者の野村仁氏は1945年生まれ。様々な媒体を用いて表現するマルチメディア・アーティストの先駆けと言われており、「重力」や「時間」を目に見える形で具象化する作品で有名です。

 現在は、京都市立芸術大学大学院の教授として活躍されており、代表作には上の『正午のアナレンマ'90』のほか右背景写真の『北緯35度の太陽』、『道路上の日時』、『'birds'score』など数多い作品群が。

 こうしたアナレンマは、世界中で撮影されています。

デルポイ神殿のアナレンマ

(ギリシャ)






アナレンマ(撮影:東山正宜)

 これら様々な場所で撮影されたアナレンマは、「正午のアナレンマ」とは違い、8の字が傾いています。

 それは、撮影定時が「正午」とは限らないことが一つ。もう一つは撮影された場所の緯度にもよるそうです。

 理論上、赤道で撮影されるアナレンマは8の字が『真横』になるということですが、実際に撮影された画像はありません。

 それは雨や靄など地域の気象条件に撮影成功の可否が大きく左右されるためで、スコールなどの多い熱帯地方は条件のいい場所ではないからです。

 また、南半球では8の字が『上下逆』になるということですが、こちらも実際に撮影された画像は見当たりません。

 それから、もう一つ。

 右背景に示した野村仁氏の「北緯35度の太陽」は、定時撮影のアナレンマではなく、『同じ場所から魚眼レンズ付きカメラのシャッターを開放して毎日の動きを撮り1年間続けたもの』だそうです。

 単なる8の字ではなく、渦を巻くようになっているところが面白いと思います。

 ただし『シャッターを1年間解放』という説明なのですが、よく見ると太陽の形が並んでいるように見えますし、当然、日没後のこともあるはずなので、この説明通りに撮影された写真とは思えませんが。

 

 また、アナレンマは太陽ばかりではありません。

月のアナレンマ

アナレンマ:惑星(撮影:野村仁)

 さらに、複数時刻のアナレンマが合成された写真が以下。

複数時刻のアナレンマ(撮影:東山正宜)

 いずれも素晴らしい画像です。

 でもよく考えてみると「8の字」は「8の字」なのですが、横に倒せば無限『∞』のようにも見えます。

 一番最初にアナレンマの可能性に気づいて撮影を行ったのが誰なのか分かりませんが、一年を費やした撮影の成果を初めて目にした時、そこに現れた無限(∞)の文字。

 まさにそれは“宇宙からのメッセージ”・・・ある種の畏怖を感じたのではないでしょうか?

 

/// end of theEpisode45「太陽のアナレンマ」” ///

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《追伸》

 上の記事を自分で見返してみて気づいたことがあります。地球の「近日点」は、冬至から春分の日の間にあるのですね。

 ここで最も公転速度が速くなるという事は、北半球では冬と春の間隔は短いという事。逆に、夏から秋の間は長いという事。

 うん、確かに生活感覚としては、そういう感じがします。そっか、自分の感覚には科学的根拠があったんだ。

 地球の自転速度は月との重力相互作用(潮汐力)によって、徐々に遅くなっています。

 サンゴの化石の調査によれば、刻まれた日輪(年輪の日版)により、4億年程前には1日は約22時間で、1年は400日程あったとされます。

 でも、一貫して遅くなっている訳ではなく、短期的に見ると早くなることもあるのです。

 1970年代の一日の長さは「86 400.003秒程度」でしたが、近年(2012年から2013年)では「86 400.001秒程度」と短くなっています。

←(1970年代から80年代には毎年のように挿入されていた閏秒が1999年以降は平均して4年に1度程度しか挿入されていないのはこのため。)

 なぜ、こういうことが起きるのか?

 その理由の一つが大地震です。

 2004年のスマトラ島沖地震では、自転速度が速くなり、1日の長さが6.8マイクロ秒短くなりました。また、2011年の東日本大震災でも1.8マイクロ秒短くなったと観測されています。

 このことは、報道もされたので記憶にある方も多いはず。

 さて、遠い未来、地球の自転が止まる日が来るのでしょうか?

 その時、月はまだ地球の周りをまわり続けているのでしょうか?

 

 では、また次回のanother world.で・・・See you again !

徐々に地球から遠ざかっている月

 

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To be continued⇒ “Episode46 coming soon!

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