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《Web版》岸波通信 another world. Episode17

永遠の命


(BGM:「DEEP BLUE」 by Luna Piena
【配信2004.12.5】
   (※背景画像は火の鳥・・・のような花火の残像)⇒

  Eternal Life

 こんにちは。「ロマンサイエンスの夢先案内人」、岸波です。

 貴方をまたも“the roman science of the cosmos”の世界へご案内します。

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“強烈に生きることは常に死を前提としている。死という最もきびしい運命と直面してはじめていのちが奮い立つのだ。” ・・・岡本太郎『自分の中に毒を持て』

 人は誰も、一度は“永遠の命”に想いを馳せた経験がおありでしょう。

 幾多の宝石の中で、不老不死をもたらすと考えられてきた石があります。

 13世紀のセイロン王(現スリランカ)が手に入れたピジョンブラッド(鳩血色)の大粒ルビーがそれで、大きさが握りこぶしほどもあり、“ルビーの女王”と呼ばれました。

ピジョンブラッド・ルビー

ピジョンブラッド・ルビー

←セイロン王の所持品ではない、
一般のピジョン・ブラッド・ルビーです。

 セイロン王は生命力が凝縮したようなそのルビーを肌身離さず持ち歩き、時折、顔や首をこすっては若返りのお守りとしていました。

 その甲斐あってか、彼が90歳で天寿を全うした時、彼の顔は皺一つ無く薔薇色に輝いていたと言われています。

 以後、鳩血色の最高級ルビーは、その鮮やかな血の色のせいもあるでしょう、“不老不死の石”として尊ばれているのです。

 ということで、今回の another world.は“永遠の命”について・・・それを“進化”によって手に入れた生物の話です。

 

 

1 不死鳥伝説

 不死の生物と言えば、不死鳥(フェニックス)が思い浮かびますが、もちろん想像上の動物です。

 フェニックスについて最初に記述した人物は、紀元前5世紀のギリシャのヘロドトスで、彼は「めったに姿を現さない鳥で、500年ごとにエジプトに現れる」と書いています。

ヘロドトス

ヘロドトス

 また、「私はその姿を絵でしか見たことはないが、その絵のとおりだとすると、その羽毛は金色の部分と赤の部分とがあり、その輪郭と大きさは鷲に最もよく似ている」としています。

 あれ?  肝心な“不死鳥”という記述が見当たりません。

 そう・・・ヘロドトスの段階ではまだ、フェニックスは“不死鳥”ではなかったのです。

 フェニックスが、“自らを火で燃やしてその灰の中からまたよみがえる”とされたのは、後世になってから付け加えられた伝説で、1世紀のローマの地理学者ポムボニウスの「地誌」で記述されたのが最初。

 古代においても、フェニックスが実在のものだと信じていた人は少なかったようで、ヘロドトスさえ半信半疑の記述をしていますし、生息地とされたエジプトやアラビア半島にもそうした伝承は残されていません。

 きっと、実在するかどうかよりも“再生のシンボル”としての役割が重要視されて、記憶されるようになったのでしょう。

 ところで、この不死鳥をテーマにした作品「火の鳥」をライフワークとしたのが巨匠手塚治虫でした。

火の鳥「黎明編」

火の鳥「黎明編」

(単行本第一巻:表紙)

 このシリーズは、今から50年以上も前から書き始められた作品であるにもかかわらず、今なお、人々に愛され続けています。

 「火の鳥」が、時代を超えて読み継がれている理由は何なのでしょうか?

 この作品は、二つの大きな要素から組み立てられていると思います。

 その一つは、環境や遺伝子操作やクローンやロボットなど人間の生んだテクノロジー、そしてもう一つは、歴史や宗教や愛や戦争など「人間の生き様」といったもの。

 題材は違えども、そこには我々が深く考えなければならない「生命倫理」が問われています。

火の鳥

火の鳥~紅の翼~

(C)Tateさん:PHOTOHITO TOPICSより(2010年・小名浜港花火)

 また、「火の鳥」の舞台は人類創生の過去から超未来、そして宇宙の果ての惑星までと様々ですが、そこには必ず、永遠の命のシンボルとしての火の鳥が登場します。

 それにも関わらず、火の鳥はただの一話として主人公ではありません。

 主人公は常に人間。

 ある者は自分の欲望のために、また、ある者は愛する者のために、その生き血を飲めば“永遠の命”が手に入るという火の鳥を追い求める人間たちです。

 つまり「火の鳥」は、様々な舞台設定の中で「人間とは何か」、「生命倫理とは何か」という普遍的な問題を我々に問い続けている物語だと言えるでしょう。

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2 永遠を求めし者

 さて、“火の鳥の生き血”がもたらす不老不死はあくまでもフィクションに過ぎませんが、不老不死の妙薬が実在すると信じ、本気で追い求めた歴史上の人物がいます・・・秦の始皇帝です。

秦の始皇帝

秦の始皇帝

 始皇帝は13歳で即位し、中原を統一すると初めて「皇帝」の名乗りました。

 皇帝とは「煌々たる上帝」、すなわち宇宙の絶対神である「天帝」を意味する称号です。

 その名の通り、彼は絶対的な権力者として中国に君臨しますが、絶対君主というものはいつの時代も孤独なもの・・・やがて自らの老いや死に対する異常なまでの恐怖にさいなまれるようになります。

 始皇帝は、生前より地下の大墳墓を構築したことでも有名ですが、そこには生前と同様、多くの兵馬俑や文官俑を配置し、巨大な死後の帝国を作り上げ、死してなお絶対権力者であろうとしました。

 司馬遷の著わした「史記」の記述によれば、「ずっと灯りが消えない人魚の膏(あぶら)が灯された」とか、「水銀で作られた川」を配し、墳墓が丸ごと一つの地下都市を形成するようなスケールであったということです。

兵馬俑と地下墳墓

兵馬俑と地下墳墓

 やがて、このような死に対する狂気と呼べるほどの畏れに付け込む人間が現れます・・・徐福です。

 徐福は、始皇帝に、不老不死の薬草があると言われる東海の蓬莱山へ調査団を派遣することを進言します。

 徐福自らが団長となり、15歳未満の男女6千人を従えて蓬莱山があるという東海の島(日本)に向けて大船団を繰り出しました。

 しかし・・・ 徐福は、それっきり帰っては来ませんでした。

 日本の正史には徐福に関する記述が見られませんので、その行方は杳として知れません。最初から出まかせだったのでしょうか。

 やがて、始皇帝は50歳でこの世を去りますが、その死因は、不老不死の妙薬と言われた水銀を服用しての中毒死だったそうです。

 絶対権力者といえど、結局、不老不死を手に入れることは叶わなかったのです。

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3 不死生物ベニクラゲ

  ところが地球上には、現実に不死の生物が存在していたのです。

 そしてそれは、徐福が向かった東海の島(日本)の沿海に生息していました。

 その名は『ベニクラゲ』・・・体長が1センチにも満たない花クラゲ目クラバ科の小さな生物です。

ベニクラゲ

ベニクラゲ

 1994年、イタリアのレッチェ大学のボエロ博士は、サレント半島の海岸付近の海底洞窟に生息しているベニクラゲを研究している時に、ベニクラゲが有性生殖の後でポリプと呼ばれる幼体に若返ることを偶然に発見しました。

 通常のクラゲは、有性生殖の後で身体が溶けて消滅するのですが、このベニクラゲは一旦団子状の塊になった後で自分自身が幼体へと回帰するのです。

 2003年の秋、京都大学院理学研究科瀬戸臨海実験所の久保田信助教授は、日本産のベニクラゲで、回帰ポリプから幼クラゲが分離し、再び有性生殖の後にポリプへ輪廻するというサイクルを世界で始めて確認しました。

 このベニクラゲは、オセアニアや太平洋、大西洋など、世界の温熱帯海域の沿岸や浅海に生息していて、日本でも、久保田助教授の研究で、北海道から琉球列島にかけて広く分布していることが分かってきました。

   【ベニクラゲの若返り現象】

◆成体(雌雄異体の成熟クラゲ)が有性生殖し、受精卵から育ったプラヌラ幼生が、岩などに付着して植物の根のような走根を伸ばし、若い世代のポリプ個虫が多数伸び上がり、無性生殖で増えていく。

◆普通、有性生殖後の成体は死を迎え溶け去るが、ベニクラゲは溶けず肉団子状になり、根を延ばし再びポリプへと若返る。この現象はわずか1~2日で起こる。

◆このあと、ポリプがクラゲ芽を形成し、やがて若いクラゲとして分離して泳ぎ出す。

◆個体として自然死しない不老不死である。

 なぜベニクラゲが不死性を持つことになったのかというのは分かっていないのですが、理由の一つとして、そのあまりの「弱さ」が挙げられます。

 ベニクラゲは、体長も小さく移動も遅いために魚類の格好のエサになります。

 しかも毒ももっていませんし、擬態などの能力もありません。地球上の多細胞生物として、最も弱い生物の一つと言えるかもしれません。

 その彼らが、激烈な生存競争を生き抜くために、進化を遂げ、獲得した能力が“不老不死”なのです。

 もちろん、自然死以外の死が訪れることはあります。魚に捕食されて消化されてしまえば、その個体の運命はそこで尽きることになるからです。

 このベニクラゲの不老不死については、1998年にNHKスペシャルで放映されましたので、ご記憶の方もいらっしゃるかも知れません。

 そのメカニズムを解明すれば、不老長寿の薬の源泉となるかもしれないと各国で盛んに研究されています。

 でも・・・  もしも人間が“不老不死”を手に入れたらどうなるのでしょう?

 人口爆発に拍車がかかり、食料が枯渇することは目に見えています。

 ならば人間個体の不老不死は永遠の幸福をもたらすのでしょうか?

 手塚治虫の「火の鳥・異形編」で、男として育てられた左近介は、非道の父を助けようとする八百比丘尼を斬りに出かけます。

左近介

左近介「火の鳥・異形編」

 比丘尼を切った後、火の鳥の生き血を手に入れた左近介は、それを飲んで永遠の命を手に入れます。

 しかし、その後、寺から去ろうとすると、どうしても寺の外に出ることができないのです。

 彼女は“時間の檻”に閉じ込められたことに気が付きますが、もはやどうすることもできません。

 やがて、観念して自ら尼になり、寺を訪れる人々に分け隔てなく功徳を施しながら長い年月が過ぎ去り、ある日、彼女を逆恨みした若い武者が寺を訪れました。

 そう・・・八百比丘尼とは、永遠の輪廻を繰り返す時間の檻に閉じ込められた左近介自身だったのです。

火の鳥のような夕焼雲

火の鳥のような夕焼雲

 自然が“不死”を許したのは、他に何も持たないベニクラゲだったからこそかもしれません。

 地球上で最弱の生物にだけ与えられた“永遠の命”・・・。

 それもまた、見えざる神の意思なのでしょうか?

 

/// end of theEpisode17「永遠の命」” ///

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《追伸》

 約10日間、「岸波通信」の更新がストップしました。

 実は、家内のケイコが入院し、一時は意識不明の重態に陥ったのです。

 毎日、職場に通勤しながら病院通いをしていましたが、ここ数日間で、なんとか落ち着いた状態にまで回復してきました。

 当然、「通信」と向き合う時間など無く、投稿者の皆さんや読者の皆さんにもご迷惑をおかけしたことと思います。

 ところが、意識を取り戻した後のケイコが意外なことを言うのです。

 “お父さんの「通信」が読みたい”と・・・。

 ・・・そんなワケで、またここに戻ってくることにしました。

 ケイコとの時間を紡いでいく中で執筆・更新をしますので、今までより頻度は落ちるかも知れませんが、暖かく見守ってくださるようお願いいたします。

 また、アップは少し先になるかもしれませんが、皆様からのメールをお待ちしています。

 

 では、また次回のanother world.で・・・See you again !

火の鳥
火の鳥

 

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To be continued⇒ “Episode18 coming soon!

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