<<INDEX | <Back Next>
《Web版》岸波通信 another world. Episode16

DNAの箱舟


(BGM:「DEEP BLUE」 by Luna Piena
【配信2014.11.23】
   (※背景画像はDNA模型)⇒

  Arch of DNA

 こんにちは。「ロマンサイエンスの夢先案内人」、岸波です。

 貴方をまたも“the roman science of the cosmos”の世界へご案内します。

line

“1時間を無駄に過ごすような人間は、まだ人生の貴重さを発見していない。” ・・・チャールズ・ロバート・ダーウィン

 今から46億年ほど前、惑星エウリディケとオルフェウスの衝突によって原始地球が誕生し、さらに35億年前、その惑星(ほし)の海に最初の単細胞微生物が誕生したと言われています。

 そしてその“アダム”は、悠久の時間の中で分化と進化を繰り返し、現在、地球上に存在する何百万種の生物の祖となったのだとも・・・。

 進化という名の奇跡、その秘密の扉を開いたのはダーウィンでした。

Charles Robert Darwin

Charles Robert Darwin

(1809.2.12 - 1882.4.19)

 しかし・・・  彼の著した「種の起源」は、世界に大きな衝撃を与えたあまり、幾多の誤解を受けることになったのです。

 ということで、今回の another world.は“誤解の多い進化論”、そして、ダーウィンを継ぐ者と呼ばれているナイロビ生まれの科学者ドーキンス博士の最新理論についての話です。

 

 

1 “弱肉強食”という誤謬

 “私は、変化を受け入れ、新しい時代に挑戦する勇気こそ、日本の発展の原動力であると確信しています。

 進化論を唱えたダーウィンは、「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものか。そうではない。最も頭のいいものか。そうでもない。

 それは、変化に対応できる生き物だ」という考えを示したと言われています。”

 これは、2001年9月の所信表明演説で小泉首相が言った言葉です。

 “変化に対応できる生物が生き残る”・・・うまいこと言うなぁ、と思ったものでした。

小泉首相の所信表明演説

小泉首相の所信表明演説

 1859年にダーウィンが「種の起源」を発表して以来、「進化論」は、強いものや賢いものが生き残る“弱肉強食”の論理であると、よく誤解されて来ました。

 でも、違うんですね本当は。

 ダーウィンが主張したのは自然選択(淘汰)による“適者生存”ということで、決して強いものが生き残るわけではありません。

 だって、大草原でライオンの餌になるシマウマが、捕食する側のライオンと一緒に生き残っているのですからね。

 こうした誤解は、進化論が19世紀後半の初期資本主義と結び付けられ、生存競争・自然淘汰の経済原理と混同されたことから生まれたのです。

 ところが・・・  このような誤った考えを広める端緒となったのは、他ならぬダーウィンの従兄弟のゴールトンだったのです。

フランシス・ゴールトン

フランシス・ゴールトン

(「優生学」の提唱者)

 ゴールトンは、知る人ぞ知る「優生学」という思想を提唱した人物で、国が人為的に優生遺伝子を持つ者を選別・淘汰することで、民族の前進・進化を実現できると主張しました。

 ヒトラーがゲルマン民族の優位性を信じて国内のユダヤ人を迫害したのは、この「優生学」が根拠だったというのは有名な話です。

 進化論に関する誤解が、重大な結果を招いてしまったのです。

ヒトラーとエヴァ・ブラウン

ヒトラーとエヴァ・ブラウン


line

 

 

2 反ダーウィン主義者

 ところが・・・進化論に異を唱える人々が現れました。彼らは“反ダーウィン主義者”と呼ばれますが、その中でもっとも猛烈な反論をしたのは熱心なキリスト教の信者でした。

 キリスト教やユダヤ教などの一神教では、造物主が世界を創造したということになっています。

 当然のことながら、進化論を認めてしまえば、聖書の記述は正しくないと認めてしまうことになります。

「アダムの創造」

「アダムの創造」(ミケランジェロ)

 彼ら“創造論者”は、自分たちの教義を守る使命感から、進化論の欠陥を探すのにやっきになりました。

 そして、その攻撃の矛先は、次のような部分に向けられたのです。

 進化論からは「高い枝にある木の実を食べるためにキリンの首が伸びた」というふうに、必要に迫られて進化が起こったと解釈できるが、そんなに都合よく突然変異が起きる可能性はゼロに等しいと・・・。

 うむぅ・・・確かに、痛いところを突いている・・・。

 正直言えば、僕が学校で最初に進化論を学んだ時にも同じことが引っかかりました。

 僕らが子供の頃、日本の小学校・中学校では、この“キリンの首”の例え話が当然のように進化論の説明に登場したものです。

 「そうか、要するに“成せば成る”

 ・・・願って精進すれば、能力が身に付くということか!」

(←おいっ!)

キリンの首はなぜ長い

キリンの首はなぜ長い

 そうなのです。  この疑問に対して、正面から論破しようとする人物はごく最近まで存在せず、「そもそも宗教は科学的なものではない」という理由で反論自体、取り上げられなかったのです。

 そして、世界の多くの国で、こうした強引な「キリンの首」の例え話がまかり通ってきました。

 20世紀末、ようやく創造論者に対して、科学的な立場から反論できるダーウィニスト(進化論者)が現れました。

 その人は、ナイロビ生まれのリチャード・ドーキンス博士です。

line

 

 

3 盲目の時計職人

 ドーキンスは、その著書「盲目の時計職人」の中で、次のように述べました。

『確かに、突然変異というものが目的に向かって現れる可能性は極めて低い。

 実際には、多くのランダムな変異種が現れ、その中で「高い枝の実も食べることができた首の長いキリン種」が生き残ったに過ぎない。』

 それこそが「自然選択」の意味なのだと・・・。

 リチャード・ドーキンス(Richard Dawkins)

 1941年、ナイロビ(ケニア)生まれ。オックスフォード大学にてノーベル賞学者ニコ・ティンバーゲンのもとで学ぶ。

 その後、カリフォルニア大学バークレー校を経てオックスフォード大学講師。動物行動研究グループのリーダーの一人として活躍。

 1995年にはオックスフォード大学に設置された“科学的精神普及のための寄付講座”の初代教授に就任した。

 現在、スティーヴン・ジェイ・グールドと並び、欧米では最も人気の高い生物学者の一人。

 なお「盲目の時計職人」という書名は、“万物の造物主でなければ、生物という極めて精緻なシステムを時計職人のように組み立てられるはずが無い”と主張する創造論者たちへの痛烈な皮肉にもなっている。

 言われてみれば当たり前。

 しかし、ドーキンス以前に教育を受けた人々・・・僕らの世代を含めた多くの日本人は、進化論といえば“弱肉強食”、“高い木の実を食べるためにキリンの首が伸びた”と考えている大人は少なくないはずです。

 2001年、福島県が開催した「うつくしま未来博覧」のテーマ館で上映された「ジ・アース」でも、魚が両生類になり、哺乳類になり、やがて猿から人間へと変化する映像が流されていましたが、その映像から「一本道の進化」という誤解がさらに広められるのではないかと、心配になりました。

 人類が進化してくる過程では、実に様々なタイプの原人類が存在した筈だし、そこから自然に選択され、稀有な可能性で生き残ったのが我々であることを、今一度、認識し直す必要があると思うのです。

「盲目の時計職人」

「盲目の時計職人」

(リチャード・ドーキンス)

 そのドーキンス博士は、近著「利己的な遺伝子」の中で、大変ユニークな考え方を披露しています。

 いわく、“全ての生命個体は、単なる“DNAの乗り物でしかない”と・・・。

 確かに、我々が子供の成長に一喜一憂する気持ちというものも、もしかするとDNAに組み込まれた情報が発現しているだけなのかもしれません。

 そうだとすれば、我々の肉体・・・いや、我々という世代さえもDNAという真実の命を運ぶための単なる箱舟に過ぎないのでしょう。

 この惑星(ほし)に生まれたDNAという名の奇跡・・・うたかたの箱舟に運ばれて親から子へ、子から孫へ、そして遥かなる未来へと・・・。

 その果てしない航海は、いったいどこに辿り着くのでしょうか?

 

/// end of theEpisode16 「DNAの箱舟」” ///

line

 

《追伸》

 お断りを一つ・・・。

 冒頭の小泉首相の演説に登場した「変化に対応できるものが生き残る」という記述は、実際にはダーウィンの「種の起源」には見当たりません。

 どうやらこれは、かつてIBMのガースナー氏が進化論を意訳した演説の内容をそのまま引用したようです。

 今回のanother world.から、我が「岸波通信」も心機一転。

 投稿作者たちの力作に負けないクオリティを実現するために、ニューバージョンで再スタートしました。

 今後とも、読者の皆様の温かいご支援をお願いいたします。

 

 では、また次回のanother world.で・・・See you again !

「盲目の時計職人」

DNAウイルス

←このようなDNAを改変するウイルス群が
突然変異や進化を促すという説もある。

 

eメールはこちらへ   または habane8@ybb.ne.jp まで!image:Dragon  
Give the author your feedback, your comments + thoughts are always greatly appreciated.

 

To be continued⇒ “Episode17 coming soon!

PAGE TOP


  another world. banner Copyright(C) Kishinami Yasuhiko. All Rights Reserved.