Galaxy Collisions
こんにちは。「ロマンサイエンスの夢先案内人」、岸波です。
貴方をまたも“the roman science of the cosmos”の世界へご案内します。
2004年2月16日のハッブル・ニュースセンターのプレスリリースによれば、我々の銀河から130億光年離れた深宇宙から、最遠の銀河が発見されたそうです。
文字通り天文学的な距離にあるこの銀河群は、この宇宙の最外延部に存在すると考えられ、もうこれ以上は有り得ないという“最果ての銀河”。
しかも、我々が見ているその画像は、光が130億年かかって運んできたもの・・・つまり、130億年前、ビッグバンから間もない頃の姿だということになります。
タイムマシンも使わずに130億年前の宇宙を見ることができる・・・まさに究極の画像、凄いことですね。
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最果ての銀河
(ハッブル望遠鏡)
←重力レンズ効果により、
20億光年離れた銀河団の
画像の左側(線で囲まれた部分)に
130億光年彼方の最果ての銀河の光が
増幅されて現れている。
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でも、これだけの遠距離になりますと、ハッブル望遠鏡でさえ直接に捉えることは不可能です。
では何故、見ることができたのでしょう?
・・・その秘密は“重力レンズ効果”と呼ばれる宇宙の不思議にあります。
実はこの最果ての銀河は、地球からさほど遠くない20億光年の距離にある“Abell 2218”という銀河団を調査していて、偶然に発見されたものでした。
“Abell 2218”の巨大な質量が周囲の宇宙空間に“重力レンズ”という効果を発生させ、普通では見ることができない遠方の銀河を観測することができたのです。
そして・・・この発見によって、原始宇宙の驚くべき姿が明らかになりました。
ということで、今回の another world. は、宇宙成長の謎に迫る“銀河衝突”の話です。
1 黒い目の銀河
さて、銀河形成の謎に迫る前に、同じく先週明らかになった“もう一つの不思議な銀河”の姿についてご紹介します。
それは、2月14日・・・つまり“バレンタイン・デー”のこと。
日本の若い女性たちが、手作りチョコレートや“ゴディバ”などの高級ブランド・チョコレートを仕込んでいたちょうどその頃、ハッブル宇宙望遠鏡は、不思議な銀河の詳細映像を撮影することに初めて成功しました。
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黒い目の銀河
(Black Eye garaxy [M64])
←2004/2/14
ハッブル望遠鏡が撮影した
詳細画像が初めて公開された。
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ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したのは、地球から約1700万光年の至近距離にある“かみのけ座M64”という銀河で、その存在自体はよく知られていたものです。
しかしこの銀河は、何故か非常に暗く、詳細画像を得ることは困難でした。
その理由は、銀河のコア付近を光を吸収してしまう黒い輪が取り巻いているためで、小型の望遠鏡では「黒い瞳」のように見えることから、“黒い目の銀河(Black Eye galaxy)”と呼ばれていました。
でも、この銀河を“不思議な銀河”と呼ぶのは、黒い円環のためだけではありません。もう一つ、驚くべき特徴を持っているのです。
それは・・・?
光るコアを取り巻く円環のさらに外延部に、もう一つの青白い帯が取り巻いていますが、この外延部の帯は、何と、内側のコアや黒い帯とは逆方向に回転していたのです。
どうしてこのようなことが起きたのか?
この原因については、今から10億年以上も前に二つの銀河が衝突し、その破壊された銀河の名残が外延部の帯だと考えられています。
銀河同士の衝突・・・想像を絶するカタストロフィー(大破局)です。
おそらく多くの生命も運命を共にしたに違いありません。
その中に、もし、人類のような高度な知性を持つ生物がいたとすれば、果たして彼らは脱出できたのでしょうか?
それとも未だ“黒い目”のどこかに生存しているのでしょうか?
仮にそこに生存しているとすれば・・・今頃、1700万光年離れた地球を眺め、人類誕生前の“新生代第三期”の哺乳類の姿をリアルタイムで見ているかも知れません・・・。
2 融合する銀河
それでは、“黒い目の銀河”を襲った未曾有のカタストロフィーは、この宇宙の中では特異な出来事だったのでしょうか?
・・・どうやら、そうではないらしいのです。
この“銀河衝突(Galaxy Collisions)”が、もっと典型的に観測できる場所があります。
それは、地球から1億光年の彼方にある“おおいぬ座”の二つの銀河で、これらは正に今、衝突の渦中にあるのです。
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おおいぬ座の衝突銀河
(NGC2207・IC2163)
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右側の小さな銀河IC2163は直径が約10万光年で、我々の銀河と同じくらいの渦巻き銀河でした。
しかし、大銀河の巨大な潮汐力によって形がゆがめられ、その腕を画像の右側に残したまま、中心部が呑み込まれようとしています。
実際は、二つの銀河が約4千万年前に最至近距離まで接近し、現在はリバウンドしている状態にあるのですが、右の小銀河は大銀河の重力圏に完全に捉えられていますので、いずれ再接近し、10億年ほど後にはすっかり吸収されてしまうでしょう。
さて、こうした銀河衝突は、どのくらいの頻度で起きているのでしょうか?
こうした疑問についても、既に調査が行われてきました。
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おとめ座の衝突銀河
(NGC5426・NGC5427)
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ハッブル宇宙望遠鏡が、過去三年間かけて、地球から30億光年以内の距離にある銀河のうち、ULIRG(ultraluminous infrared galaxy)と呼ばれる123個の発光銀河を観測してきたのです。
これらの銀河は、いずれも我々の銀河系の100倍以上の赤外線を放つ明るい銀河です。
その結果、少なくともそれらの三分の一以上(!)が“銀河衝突”によって発光しているものであることが明らかにされたのです。
銀河衝突は、この宇宙において決して“稀な現象”ではなかった。
とすれば・・・“銀河衝突”という現象は、むしろ宇宙初期から当たり前のように存在していた現象ではなかったのか?
この疑問に答えてくれるのが、冒頭に紹介した「重力レンズを通して130億光年の彼方から運ばれてきた“原始宇宙のリアルタイム映像”」 に他ならないのです。
130億年光年の“最果ての銀河群”は、いずれも直径が2千光年ほどと小さく、互いに活発な衝突を繰り返しながら大きな銀河に成長しようとしているさなかにありました。
つまり・・・銀河衝突こそが、宇宙成長のダイナミズムに関わる“根幹の力”であったという決定的な証拠が、遥か130億年という時を超えて地球にもたらされたのです。
3 天の川銀河の終末
宇宙創生時から繰り返されてきた“銀河衝突”、さて、我々の銀河系にも起きる可能性があるのでしょうか?
我々の天の川銀河は、大小30余りの銀河が密集したアンドロメダ局部銀河群の中に存在しています。
この銀河群の半径は約300万光年。
中心となっているのは、アンドロメダ銀河(半径13万光年)と我々の天の川銀河(半径10万光年)の二つの大銀河です。
そして、我々の銀河系も、宇宙法則の例外ではありませんでした・・・。
衝突しているのは、1994年に発見された「いて座」の矮小銀河で、銀河系の1000分の1ほどの小さな伴銀河。
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いて座矮小楕円銀河(SagDEG)の位置 |
この銀河は、銀河系の周りを回っていましたが、銀河系外延部に接近するたびに恒星が剥ぎ取られ、あと10億年ほどですっかり吸収されてしまいます。
位置関係は我々太陽系から銀河の中心を挟んだ反対側にあり、円盤に垂直に交差しています。
さらに、他の伴銀河、大、小マゼラン雲も天の川銀河に引き寄せられつつあり、これらとの衝突が起こった時には、星間ガスの圧縮で恒星がたくさん誕生することになります。
衝突の後、数億年の間、銀河系は現在の25パーセント以上明るく輝くことになると予測されています。
また、我々の局部銀河群の中心であるアンドロメダ銀河では、さらに不思議な銀河衝突の痕跡が観察できます。
何と、アンドロメダ銀河の中心付近には二つのコアが存在しているのです。
その一方は、かつての銀河衝突によって吸収された小銀河のコアであると考えられています。
そう考えられるのは、一方のコアから一本だけ破壊を免れた“腕”が伸びており、アンドロメダ銀河本体のディスク面に対して垂直方向に回転しているからです。
我々のごく身近でも起こっている銀河衝突。
でも驚くのはまだ早いのです。
実は、我々の天の川銀河自体も、時速50万キロメートルという猛スピードでアンドロメダ銀河に向けて突進しているのです。
二つの大銀河は、接近するにつれて速度を増し、約30億年後には巨大な銀河どうしの衝突が避けられない運命にあります。
拮抗する大銀河同士の衝突は、双方の“渦巻き銀河”の形を吹き飛ばし、銀河の中をそれぞれの恒星が好き勝手な軌道で飛び交う歪んだ楕円状銀河になるでしょう。
何という奇妙な銀河!
・・・それこそが、我々の銀河系の終末の姿なのです。
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アンドロメダ銀河との衝突を間近に迎えた地球(想像図) |
その時、我々の太陽系の運命はどうなるのでしょうか?
巨大銀河衝突による破壊的なエネルギーの放出は、銀河系に生きとし生けるもの全てに壊滅的な打撃を与えずにはおかないでしょう。
つまり、我々人類に残された時間は、あと30億年。
それが一体、長いのか短いのか・・・?
滅亡から逃れる術は、もはや銀河脱出しかありません。
仮に、30億年の間に銀河を脱出できる超技術までたどり着いたとして、その時、我々人類は銀河系を捨ててどこに向かえばいいのでしょう?
“クオ・バディス(主よ、何処へ)”・・・その答えは神のみぞ知る。
/// end of the “Episode13「クォ・バディス宇宙(主よ何処へ)」”
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《追伸》
「宇宙(そら)に近い場所」に続くanother world. の新作です。
アンドロメダ銀河と衝突する時期に、まだ人類が生きていたとすれば、目も眩むばかりの天体ショーが見られることでしょう。
まずは、天の川が二つになります。
満天を彩って次々に誕生する若い恒星たち、渦巻く宇宙塵・・・好き勝手な方に動く星たちは、天空の星座をどんどん変化させるでしょう。
もしかすると、地球はアンドロメダの恒星に捉えられて、太陽系から引き離されてしまうかもしれません。
しかし・・・巨大銀河の衝突を逃れて旅立つとすれば、それは別の銀河団しかありません。
銀河団を超える旅・・・そんなことが本当に可能になるのでしょうか?
仮に可能になったとしても、その先に、青い空、緑の森が茂る楽園は存在するのか・・・?
では、また次回のanother
world.で・・・See
you again !
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天空に二つの天の川 |
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