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《Web版》岸波通信 another world. Episode12

宇宙(そら)に近い場所


(BGM:「DEEP BLUE」 by Luna Piena
【配信2004.1.8】
   (※背景画像は、「宇宙ロケットの打ち上げ」)⇒

  The Closest Place to Outer Space

 こんにちは。「ロマンサイエンスの夢先案内人」、岸波です。

 貴方をまたも“the roman science of the cosmos”の世界へご案内します。

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 日本時間の(2004年)1月7日に、NASAの火星探査機「スピリット」から送信された着陸地点付近の映像が地球に届きました。

 見渡す限りの赤い荒野にちりばめたように転がった岩石・・・。

火星の地表面

火星の地表面

←火星探査機スピリットからの画像。

 今回のミッションの目的である液体の水や生命の痕跡は一見した限りでは見当たりませんが、ともあれ、人類がはじめて手に入れたカラーの鮮明な画像によって、火星が“赤い惑星”であったことが改めて実感されました。

 スペースシャトル・コロンビア号の悲劇によって、人類の宇宙への進出は若干ペースダウンした感がありましたが、一方では、中国が初の有人宇宙飛行を成功させるなどの明るい話題もあり、今回の火星探査が、宇宙開発の新たな展望を拓く一歩となることを期待したいものです。

 さて、この21世紀、人類は宇宙へ向けた大航海時代に乗り出そうとしていますが、考えてみればほんの数十年前までは地球の引力に捉えられ、地上数10キロメートルの上空にさえ到達した人間は皆無だったのです。

 そのことを思えば、この間の人類の技術の進歩というものに、あらためて目を見張る想いがするではありませんか。

 ところで、「地上で宇宙に最も近い場所」というのはどこなのでしょう?地上最高峰のエベレストの頂上?それともアインシュタインの机の上?

 調べてみると、その場所はハワイにあるという情報が・・・そのスポットは、ハワイ島マウナケア山。

すばる望遠鏡

すばる望遠鏡

←ハワイにある日本の国立天文台。

 日本の精密技術を駆使して製作した口径8.2mの一枚鏡を用いた世界最大の天体望遠鏡「すばる」がそこにありました。

 なるほど・・・たしかに、いろいろな意味で「宇宙に一番近い場所」というものがあり得るのですね。

 そこで、久々の配信となる今回のEpisode12 では、惑星物理学の観点から「地上で宇宙に最も近い場所」について考察してみたいと思います。

 

 

1 特異点

 Episode8 「ミステリアス・ムーン」でも触れましたが、我々の“月”には、その上空を探査機が通過するとき異常な重力で引き寄せられる特別な場所があることが知られています。

 これを“マスコン”と呼び、地球に向いた側の“海”と呼ばれるだだっ広い平地の部分に何箇所か存在します。

 この重力異常を生む原因というのは、極めて重い質量を持った月の内部物質が“ある原因で”表面に噴出し、存在するためということも述べました。

 ところが・・・重力異常を起こす場所は、なにも月だけに存在するものではなく、あらゆる天体に存在する可能性があるのです。

 なぜかと言えば、天体の内部構造は、そもそも一様であることの方がまれだからです。

 この内部構造の歪みが極端に大きなものになると、表面の重力異常のみならず、天体運動にも影響を与えます。

 例えば、我々の月をはじめとする太陽系のほとんどの衛星は重心が偏在しているため、起き上がりこぼしの様に、主星に対して常に重いほうの片面を向けたまま公転しています。

(←結果的に、公転周期と自転周期が一致する。)

ルナ1号(旧ソ連)

ルナ1号(旧ソ連)

←月の岩石サンプルを初めて地球に持ち帰った。
なお、ルナ19号はマスコンの採取にも成功。

 これは、天体の運動そのものを規定してしまうほどの大きな質量の歪みが原因ですが、もっと細かく見れば、表面の部分部分でも質量は一様ではありません。

 ですから、厳密な意味では、天体表面の引力が場所によって違いがあるのは当たり前のことなのです。

 そして、周囲との質量の違いが際立った場所は、時として月の“マスコン”のように上空の探査機を引き寄せてしまうほどの重力異常を引き起こすことになります。

 さらに・・・  地球のように、地下にマグマを蓄え、内部構造の大きな対流運動(プルーム・テクトニクス)を行っている天体では、重心が細かく変動し、その重心のブレが僅かずつ自転運動にブレーキをかけることになります。

 地球が長い間に自転のスピードをゆるめている原因の一つが、このプルーム・テクトニクスなのです。

 さて、これで、天体表面の重力異常が“ごく当たり前のこと”と分かっていただけたと思います。

 それでは・・・

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2 海抜ゼロメートル?

  この地球上には、そういった特異点が存在するのでしょうか?

 結論から言えば、“僅かだがある”ということが調査されています。

 ただし、地球規模で捉えれば僅かの重力差(ブレ)であっても、我々の視点で見た実際の地表面での現象は、驚くべき姿をとって現れることがあります。

 その場所は・・・“海面”です。

 地理学では、陸の高さを海抜何メートルと呼び、海面からの距離を基準にして高さをあらわしています。

 ならば、世界中の海面の高さというのは全く同じなのでしょうか?

 もちろん、自転の遠心力が働く赤道付近であるかどうか、海水の温度や海流の動きによっても左右されそうだということは容易に想像が付くでしょう。

 異常気象をもたらす海流のエルニーニョなどにも大きく影響を受けることがあります。

エルニーニョによる海面変動

エルニーニョによる海面変動

(NASA)

 また、平常時においても、太平洋と大西洋を繋ぐ全長80キロメートルのパナマ運河は、太平洋と大西洋の50センチメートルの水位差を克服するために、途中、3ヶ所に設けられた<ロック>と呼ばれる閘門で水位の調整をしていることは、よく知られています。

(←そのため、航行におよそ9時間を要します。)

 このように、海面の高さというものは、様々な要因で一様ではないのです。

 そして・・・  その最も極端な特異点が、インド洋に存在しています。

 インド洋モルディブ諸島沖の海面は、何と100mも周囲の海面より歪んで低い海域があるのです。

モルディブ諸島

モルディブ諸島

 もっと身近な例では、我々の日本海にもあります。

 日本海は海面が30mも高くなっており、アメリカの宇宙基地ケープ・カナベラルに至っては50mも高いのです。

 つまり、モルディブ沖は地球の重力(引力)が強い場所であり、逆に、ケープ・カナベラル沖は引力が弱い場所という事が言えます。

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3 宇宙(そら)に近い場所

 さて、地球の引力が弱いということは、ある一つの事にとっては、決定的に重要な要素となります。

 それは・・・宇宙ロケットの打ち上げです。

 宇宙ロケットが飛び立つ時に最も厄介なのは、言うまでも無く“地球の引力”です。

 一般的に宇宙ロケット基地が緯度の低い地域に立地するのは、この厄介な地球の引力が自転の遠心力で相殺されることに着目したものです。

シャトルの打ち上げ

シャトルの打ち上げ

(NASA)

 そういう観点で、最も打ち上げに適した場所は、地球の遠心力が一番強く働く赤道付近ということになります。

 アメリカのケープ・カナベラルが、アメリカで最も低緯度に位置するフロリダ半島に立地したのも、まさにこの理由からです。

 ところが・・・

 ケープ・カナベラル沖には、同時に重力偏在の特異点が存在し、その効果からも引力が弱い場所であったのです。

 結果的に、この宇宙基地は、ロケットの打ち上げにとって二重の意味で理想的な場所に立地していることになります。

 この地上で最も宇宙に近い場所~宇宙に行きやすい場所というのは、地球の引力が一番弱い場所ケープ・カナベラル。

 ・・・まあ、当たり前すぎる結論に落ち着きましたが、これはあくまでも現在の宇宙ロケット打ち上げ技術を前提にした話です。

ケープ・カナベラル

ケープ・カナベラル

 ならば、引力の束縛の無い場所から打ち上げれば、もっと費用対効果に優れた宇宙開発が推進できるのではないかと考える人たちがいます。

 そしてその人々は、さらにもう一歩・・・打ち上げに新たなエネルギーを使わず、天体運動そのものを発射エネルギーとして用いればいいのではないかと考えています。

 まさに逆転の発想。

 いったい、どうすればそんな夢のようなことが実現できるのか?

 その話は、いずれまた別の機会に・・・。

 

/// end of theEpisode12「宇宙(そら)に近い場所」” ///

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《追伸》 2014.7.15

 今回、再編集をしていて気が付きましたが、この記事の最後で思わせぶりに書いてしまった「天体運動そのものを発射エネルギーとして用いる」方法については、以前の記事episode7「地球の長い午後」の中で触れていましたね。

 あらららら・・。

 つまり、宇宙エレベーターの先端側に宇宙船を係留しておけば、理論上、留金を外すだけで地球の遠心力によって発射できるのです。

 Episode7とこのEpisode12の間は9か月ほど空いているので、自分で書いたことを忘れておりました(笑)

 そういう事ですので、宇宙エレベーターが実用段階になるまでは、「別の機会」は来ませんのであしからず。

 

 では、また次回のanother world.で・・・See you again !

木星のガニメデ

太陽系最大の衛星
木星のガニメデ

←水星や冥王星よりも巨大な衛星。
地球の月と同様、常に片面を
木星に向けて自転している。

 

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To be continued⇒ “Episode13 coming soon!

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