そうですか、ドラゴンズの関係者でしたか?
実は、私も平成9年の暮れからドラゴンズの熱烈なファンになりました。特に星野監督さんの男気が好きなんです。
私は生まれた時からジャイアンツの洗礼を受けて育った者です。両親も弟も親戚もみんな、野球はジャイアンツでした。
私の弟は名古屋で葬儀社の運転手をしておりまして、偶然星野監督の奥さんの葬儀の霊柩車の運転をさせて頂きました。
出棺の際、監督は大勢の弔問客に涙をこらえながら・・・
『妻はナゴヤドームでお父さんの胴上げを見たいね。それまで生きていたい、と言い続けていました』
・・・と挨拶されたそうです。
いよいよ火葬場へ出発の段になって、星野さんは後続の運転手に何事か話し、霊柩車には自分一人にしてくれと言って出発しました。
星野さんは弟に『運転手さん、ナゴヤドームヘ行って下さい』と・・・
前例のないことに、弟は「ナゴヤドームですか?」と驚いて聞き返した。
霊柩車はそぼ降る小雨の中、ドームを一周し、雨よけのひさしのある所に止めた。監督は・・・
『運転手さん、家内の棺を出したいので、手伝って下さい。全部下ろさなくてもいいですから、下ろせる所まで下ろしたいのです。』
・・・弟は何事が起きるかと恐れながらも、それに従った。棺は頭の方を車にかけ、斜めに下ろされた。すると監督は・・・
『運転手さん、5分間だけ泣かせて下さい』
・・・と言って、棺にすがりついて号泣した。
『なぜ死んだんだ!
ドームでパパの胴上げを見たいね、それまで頑張ると約束したではないか。
かあさん、なぜ死んだんだ!』
弟は感動に打ち震えながら、監督に負けないくらい泣いたとのことである。
監督は、『必ず優勝して見せる。かあさん、見守っててくれ』と言って、火葬場へ向かった。
弟はその年の暮れ、正月前に休暇で帰った際、親戚が集まった席でこの出来事を涙ながらに語った。
弟はこの日のことは一生忘れないと言ったが、私たちだって星野ドラゴンズを決して忘れない・・・。
〔あるタクシー・ドライバーの話〕 |