岸波通信その82「死にゆく者への祈り」

<Prev | Next>
Present by 葉羽
たそがれのルパン」 by Fra's Forum
 

岸波通信その82
「死にゆく者への祈り」

1 忘却の罪

2 死にゆく者への祈り

3 さらば甘き口づけ

4 砂の絵

5 ミステリ名会話コレクション

NAVIGATIONへ

 

  The Eagle Has Landed 【2016.8.9改稿】(当初配信:2003.8.30)

「アンタがアイルランドで死ねるように…アイルランドじゃ、そんなふうに言うんだろ?」
  ・・・ジャック・ヒギンズ「死にゆく者への祈り」

こんにちは。ミステリ好きの変な文学少女だった美齢(メイリン)です。

 デイジーさんの「ギムレットには早すぎる」をリレーして、“ミステリに登場する素敵な言葉”の後編はわたしからスタートさせていただきます。

(ハードボイルド・ダディ) やあ美齢。名前は「通信」に何度も出ているのに登場は初めてだね。よろしく頼む。

美齢(メイリン)嬢

ご本人の写真を出せないので、
似たイメージを使わせていただきました。

(「通信」のどこかには本人画像が名前入りで出てますが…)

わたしについてですが、メーテルさんやデイジーさんとは、お仕事を通してのおともだちで、好きなアーティストは、love psychedelicoと鬼束ちひろ、得意なことはお菓子づくり、チャームポイントは長い髪と揺れるまなざしです。

 ダディさんの写真とわたしが似ていているかどうかは…ご想像におまかせします。

では、お願いします。

line

 

1 忘却の罪

わたしがまず紹介する海外ミステリのジャンルは、デイジーさんのハードボイルドとは少し違ってハーレクイーンのミステリです。

 だから、ハードボイルドでは「お約束」の“タフでロマンチストで独身の私立探偵”はここでは出てきません。

 主人公は女性。そして、最も心に残っているのは次の表現です。

「忘却の罪」テイラー・スミス

愛してもいない男と寝るのはそれほど難しくない。

夜の寂しさは数々の疑いを覆い隠し、
必要は解決を抑えこむものだ。

だが、愛してもいない男のかたわらで
目覚めるとなると話が違う。

朝の冷たい光には、いささかの容赦もない。

 「忘却の罪」の主人公マライアは、女性のCIA情報分析官ですが、作家のテイラー・スミスもまた女性です。

 “愛していない男との情事”を描いたこの「忘却の罪」の表現は、まさに女性ならではの視点ではないでしょうか。

 「夜明けのコーヒーを一緒に飲もうよ」という殺し文句があるそうですが、たしかに好きな男性でなければ「かたわらで目覚める」ことは、とてもできないと思います。

 男性はどうなのでしょう? それは分かりませんが。

 007シリーズを描いたイアン・フレミングは、作家になる前、実際にイギリスの諜報機関MI6に所属していたスパイだったそうですが、この作者のテイラー・スミスも、もと、カナダの情報局員をしていたことがあるそうで、事件の背後にあるKGBの工作についての描き方などはとてもリアルです。

 ただ、登場人物が多彩で、その一人一人の背景が丁寧に説明されているために、ストーリー的には少しテンポが遅くなっていると感じました。

 シドニー・シェルダンの本が(初期の作品しか読んでいませんが)、たいてい上下2巻に分かれていて、上巻はほとんど登場人物の紹介だけで終わってしまう、あんなまどろっこしさがありますね。

 それにもかかわらず、この作品に惹かれるのは、きっと冒頭のような「女性ならではの感性」がちりばめられているからだと思います。

テイラー・スミス

◆ダディによる補足解説

 作者のテイラー・スミスはカナダ生まれ。カナダとフランスで国際情勢を学び修士号を取得。

 カナダの情報局員を務めた後、外交官として3年間東アフリカに駐在し、本部に戻ってからは東欧担当となり、当時のソビエト連邦や関連諸国の監視役として活躍。

 その後、枢密院の情報分析官となってアメリカCIA、FBI、イギリスMI6との連絡役を務めたバリバリの女スパイ。

 1991年に二人の娘の子育てのために休職したのを契機に創作活動を開始し、1995年に処女作「沈黙の罪」を発表すると、そのリアルなスパイ活動の描写が評判になりました。

 …って、そりゃあ当たり前か!


line

 

2 死にゆく者への祈り

 もう一つ印象にのこっている言葉。

 皆さんは、お酒を飲むときに祈りを捧げたりされますか? 健康に? お金がたまるように? それとも遠く離れた家族の無事を祈って?

 たぶん、恋人同士ならば「君の瞳に乾杯!」とでもいうのでしょうか。やはり少しキザですね。でも、アイルランドでは…

「死にゆく者への祈り」ジャック・ヒギンズ

アンタがアイルランドで死ねるように…

アイルランドじゃ、そんなふうに言うんだろ?

 イギリスの作家ジャック・ヒギンズの代表作の一つ「死にゆく者への祈り」にこんな会話がでてきます。どうやら、アイルランドでは、祖国の地で死ねることを祈って乾杯をする習慣があるようです。

15年ほど前、ミッキー・ロークの主演で映画化もされたね。あまり芳しい出来ではなかったようだが…待てよ15年前といったら、美齢はまだ幼稚園?

心ひそかに何かに祈りを捧げてお酒を飲む男性ってちょっと素敵ですね。それが、アイルランド人の場合には「故郷で死ねる」ことを祈るんですね。

それは、長いイングランド支配との抗争の歴史があったことも関係してるんだろうな。

でも、そればかりではないのです。

 アイルランドにキリスト教を伝えたとされる聖パトリックという人は、キリスト教と一緒にお酒の蒸留技術をもたらした人物であるともいわれています。

 ですから、アイルランド人にとっては、アイリッシュ・ウイスキーと宗教と祖国は同じくらい大切なものなのでしょう。

ふーん。つまり、祖国愛が強いアイルランド人にとっちゃ、アイリッシュ・ウイスキーを飲むのは神聖な行為なんだ。


アイリッシュ・ウイスキー


「死にゆく者への祈り」の主人公ファロンにとっては、この「アイルランドで死ねるように」という祈りは、アイルランド人にとっての決まり文句という以上の意味をもっています。

 ファロンは元IRAのテロリストで、自分の造った爆弾が誤爆して子供達を殺してしまったショックで組織から逃げ出し、イギリス政府からもIRAからも追われている逃亡者です。

 つまり彼は故郷喪失者。追っ手の目が光る故郷に再び帰るためには、死を決意しなければなりません。

 でももう、逃げ回ることにも生きることにもくたびれてしまっている…そんな彼を癒してくれるのは、一杯のアイリッシュ・ウイスキーだけ…。

 圧巻なのは、そんな世捨て人のファロンが、一人の盲目の少女を守るために巨悪との対決を決意する場面です。

 彼は、アイリッシュ・ウイスキーをあおりながら、故郷アイルランドの地に帰って死ねるようにと神に祈り、逃亡で消耗した気力や能力を再び奮い立たせようとします…そのエンディングは、きっと「男泣かせ」だとおもいますよ。

ふーん。これはまた、マーロウとは違った形の男の美学だなあ…ということで、お次は再びデイジー節が炸裂!

青い珊瑚礁(カクテル名)


line

 

3 さらば甘き口づけ

こんにちは。ハードボイルドな男達に憧れるデイジーよ。

 皆さん、レイモンド・チャンドラーもまたアイルランド人だったってこと、ご存知かしら?

 妥協を嫌うアイルランドの熱血を受け、イギリスで古典の教養を身につけ、アメリカに渡って一度は実業家として成功を収めながら、45歳で一文無しになって、“三文暴力小説”の作家として再スタートした男…。

 彼自身は、決してスーパーヒーローでも何でもなく、弱音ばかり吐く女々しい人間だったと告白しているわ。ダディ、そう言えばこの辺りにも一人、そんな男がいたような…

(…見抜かれてるのか?)

小泉喜美子「やさしく殺して」Kill me Softly
“「レイモンド・チャンドラーの生涯」を読む”より

私にとって、マーロウはアメリカの心である。
荒々しいリアリズム、からりと乾いた卑俗性、
思いきった機知、純粋なセンチメンタリズム、
スラングの海。
そして、まったく予期しない感受性のゆたかさ。

そして、チャンドラーは
マーロウの暮らすカリフォルニアの
わびしい荒廃した都会のイメージを
あますこところなく伝えたあとでこう書いている。

「…だが、私はこの汚れた街が好きだ」

 寡黙な男も、アウトローも、女房に逃げられた男も、アナーキストも、みんなそれなりの人生を背負って生きている。

 多分、スーパーヒーローだって、心のどこかで、女々しいセンチメンタルな部分と折り合いを付けながら生きているんだわ。

 だけど私は、そういう弱い男も好きだわ。チャンドラーもマーロウも、きっとそういう男。

喜んでいいのかなぁ?

 少しタイプは違うかも知れないけど、ネオ・ハードボイルドの旗手クライムリィの「さらば甘き口づけ」の主人公、アル中探偵のスルーも内心の弱さと女性に対する妙なストイックさは同じね。

 このスルー、インディアンの血が入ってると錯覚されかねない変ちくりんな生い立ちをし、ベトナム戦争の心の痛手を背負いながらモンタナ州のしょぼくれた田舎町に事務所を構え、珍車エル・カミノをめったくたに運転しまくる間もウイスキーを飲みまくる立派なアル中。

 たいていいつも酔っぱらっていて、酒を飲んでいない時は二日酔い、と言うんだから筋金入りね。

「さらば甘き口づけ」ジェイムズ・クライムリー

「あたし、また生き返ったらしいわ」

「どうして?」

「シャンペンに酔っ払い、
見も知らない年上の男と寝て、
このきれいな鼻の頭には
まだ生々しい硝煙の匂いをつけ、
そして、じつにじつにいい気分なんだもの。
あんたはどう?」

「おれのほうはだな、背中に散弾の傷あと、
腫れ上がった足首、胃でもたれている中国料理、
そしてシャンペンの二日酔いと、
ウチまで帰る長い長い道中しかないと
分かっている明日…」

「すてきじゃない?」

 なんて素敵な会話!

 この男の生き方には、世の常の幸福や安息、秩序や名誉にきっぱりと背を向けた人間だけが持てるさわやかな自由を感じるわ。

 しかもこのスルーは、酒に溺れながらも仕事を立派にやってのけ、男の意地を立て通し、独りになったときはカナダ国境に近い川のほとりに“老後を過ごす”ための小さな家を自分の手でコツコツ建てている…ね、泣かせる男でしょう?

 そんな彼がどんな女と寝るのかと思えば、このセリフを言っている不良娘のステイシー。こういう娘とならば平気で痴態を繰り広げるのに、心を捧げたメリンダには指一本触れない。

 ホラね。これぞマーロウ以来、連綿と受け継がれてきた、タフで、優しくて、照れ屋で、はにかみ屋で、古風で、頑なな男。ちょいとばかりつまらない男…でも素敵な男。

 思う女性は清楚で純情だといつも勝手な誤解をしている…それでいて手を出せない。

 だから、不良娘ステイシーからも「男ってまったく仕方のないロマンティストだねえ」と同情されるのよ。

 いいわねぇ、こういうオトコ! 

←デイジー、ちょっとオバサン入ってるよ。

「さらば甘き口づけ」(※ハヤカワ・ミステリ文庫書籍情報より引用)

 酔いどれの私立探偵スルーはカリフォルニア州の酒場で、捜索を依頼されたアル中作家トラハーンを見つけた。が、トラハーンは怪我のため入院することになった。

 足止めをくったスルーは、そこで、酒場のマダムから十年前に行方を断った娘を捜してほしいという別の依頼を受けた。

 トラハーンとともにわずかの手がかりを追い始めたスルーが見た悲劇とは? さまざまな傷を負った心を詩情豊かに描く、現代ハードボイルドの傑作。

◆ネットの書評から◆(※参考)

 作者クラムリーの顔写真を見ると、まさに、主人公の探偵スルーそのものである。腕っぷしが強い、酔いどれ、根が純情そう、ロンリーハートといった風情が本人にも濃厚にある。

 失踪した娘を捜すという端緒とセックスが通奏低音のように響く展開はマクドナルド的だが、ヒッピー文化以降の70年代アメリカはさらにセックスが全面に押し出される。

 娘ベティ・スーが出演したポルノ映画をめぐる展開は強烈な印象を残す。これを読まずしてハードボイルドを語る無かれ、というくらいの名作。

さあ、どうかしら? 読みたくなったでしょ?

それより、キミの性格、ちょっとコワイんだけど…。

バキューン!

 さて、次はもう一度美齢さん。美齢さんは、美学は男だけのものではないとおっしゃる。それが、次のレビュー「砂の絵」です。

line

 

4 砂の絵

 私立探偵という職業が、ある日突然嫌になって、

 もう少し楽に稼げる仕事を見つけたが…

 雇われた相手がどうにも嫌な女で往生してるんだ。

そんな書き出しで始まる弘兼憲史の名作「人間交差点」のエピソードの一つ「砂の絵」。

 これは、ミステリでもなければ海外作家の作品でもない。しかも、小説でさえない(コミックの名作ですから)。だから、このコーナーとは「趣旨が違う」と言われるかもしれませんが、わたしの好きな作品なので。

娼婦の館

(映画「歓楽通り」から)

 この元私立探偵、白鳥(しらとり)が雇われたのは「過去消し屋」。ボスは月岡さゆりという女性。

 「過去消し屋」というのは、消してしまいたい自分の過去を、ある方法で戸籍や住民票、職歴から全て置き換えてくれるという不思議な商売…幸福な結婚を願う元フーゾク勤めの女性達が主な顧客です。

 ところがある日、過去を消して幸福な結婚をしたはずの女性が、大金を携えて再び訪れ、「消した過去を取り戻して欲しい」と懇願する。

 そう、その女性の結婚相手は「大企業の社長の御曹司」を語った結婚詐欺!

 しかも、だまされた彼女は、過去を取り戻すために、再びフーゾクではたらいて資金を手にしたのでした。

 白鳥は、理解不可能な女性の行動にショックを受け、ボスのさゆりにしみじみと自分の過去を語り始めます…。

 彼は私立探偵を始める前は、実はれっきとした「刑事」。恨みを買った暴力団に自宅を襲われ、自分の目の前で妻が乱暴されてしまったのです。

 まだ若かった彼は、それが理不尽な怒りと知りながらも自分の妻を許すことができず、妻を離婚し、警察も辞め…つまり自分の人生をすてて一匹狼の私立探偵になったのです。

 でもな、俺、今日、あの娘に教えてもらった気がするよ。

 過去を捨てようとしたこの十年こそが、俺たちの本当のキズだったんだ。

 白鳥は、一年に一度、別れた妻と一緒に食事を共にすることを十年間続けていました。

 そして、明日、十回目の食事の日に「もう一度やり直さないか?」と、二回目のプロポーズをする決心をさゆりに打ち明けます。

 しかし、翌日、レストランでプロポーズをした彼への元・妻の返事は、動揺しつつも「ごめんなさい。私今度、結婚することになったのです」というショッキングなものでした。

 ところが…

 元・妻が店を出て行くと、一人取り残された白鳥に向けて、別のテーブルから突然「あっはっは」という笑い声…さゆりが、二人の様子を別の席からうかがっていたのでした。

「ごめんなさい。隠れて見ていたのは謝るわよ。
 そんな、いつまでも怒ることないじゃない。
 なんなら、私が、プロポーズ受けてあげるわよ。」

「あんたは冗談しか言えないのか!
 どんな人間だって少しは真面目に生きているところがあるんだ。
 放っといてくれ!」

 しかしさゆりは突然真顔になり、意外なことを言います。

「私だって真面目よ。私は前から貴方のことが好きだった…
 だからプロポーズしろって言ってどこがわるいの!」

 (驚いて、しばし絶句する白鳥…)

「…悪かった。そういう気持ちがあったとは知らなかった。
 でも今の俺は、とてもそういう気にはなれない」


謝罪

(映画「運命の女」から)

 失意の白鳥は歩み去ろうとする。でもさゆりは白鳥の行く手をさえぎって、再び不思議なことを言います。

「私たちが消せるような過去は、しょせん、砂に書いた絵のように
 ウソッパチの人生しか送ってない人間の過去ばかりよ。
 でも、あなたたち夫婦が二人で描いてきた十年の絵は本物じゃないの!」

「…いったい、キミは何を言ってるんだ?」

「まだ分からないの?
 あの奥さんに、貴方以外の人と結婚する気持ちなんかある訳ないでしょ!
 奥さんの過去を消せるのは貴方しかいない。
 奥さん、貴方を試しているのよ!」

 唖然とする白鳥…女性の本当の気持ちなんて、やはり女性にしか見抜けないのです。さゆりの女の直観が正しかったかどうかまでは描かれません。でも多分、正しかったのだと思います。

 そして、白鳥を愛しているというさゆりの言葉にも嘘はなかったと思います。しかし彼女は、白鳥に真実を教え、自らが貧乏くじを引く役目をあえて引き受けるのです。

 わかりますか? やせがまんの中で自分の意地を張り通すのは、なにもハードボイルド小説の男性ばかりじゃないのですよ。

 ときには、女性だって、それ以上につらい選択をみずからすることだってあるのです…。

多分、男はハッピーエンド

(映画「Mr.ディーズ」から)

 最後のシーンがまた泣かせます。

 白鳥は、さゆりの言葉に励まされて、再び妻を追いかけて行こうとします。彼は、そこでちょっと立ち止まって振り向き…。

「ところでアンタ、あんたの過去を一度も聞いたことがないな。
 あんた、以前は何やってたんだ?」

「…特殊浴場」

(たちどまったまま、じっと見つめ合うふたり…。)

「その過去はもう消したのか?」

「あんたに今、しゃべったじゃない。消してないわ。」

「…じゃあな。これでお別れだ。」

「うん」

女性だって人生とプライドをかけて生きてるのです。本当ににぶいのは、いつも男性の方…。

すまんなぁ、男はにぶくて…って、別にオレじゃないか。

 美齢、素敵なレビューをどうもありがとう!


女は一人で生きてゆく(映画「アレックス」より)



line

 

5 ミステリ名会話コレクション

さて、それでは、ミステリ名文句編のしめくくりに、ダディ’sセレクトで、ミステリに登場する名会話コレクションを紹介しましょう。

「ヘルズ・キッチン」

(ジェフリー・ディーヴァー

「あたし、また生き返ったらしいわ」

シャンペンのグラスを鼻先に当て、
香りを吸い込んで彼女は言った。

「わたしのこと、魅力的だと思う?」

「ああ」…それはほんとうだった。
氷河期の八カ月がそう言わせたのではなかった。

「わたしと寝たい?」

「別の時、別の場所でだったら、
イエスと答えていただろうな」

 うむ。何事か事情でもあったのか? …しかもちゃんとチャンスを「留保」しているし。

「覇者」

(ポール・リンゼイ

「お父様は?」

「アイリッシュ式自殺をした」

「アイリッシュ式自殺?」

「飲みすぎで死んだんだよ」

 見事な会話。やはり、「アイルランドで死ねるように」って祈っていたのだろうか?

「餌食」

(ジョン・サンドフォード

「偶然の一致かもしれない」
ルーカスは言ったものの、
自分からすぐに認めた。
「驚くべき偶然の一致ってことになるが」

「偶然の一致の定義は知ってるはずでしょ」

「ああ。”他の可能性が考えなれない場合”は、
偶然の一致の可能性がある」

 そうだったのか!


「ダーウィンの剃刀」

(ダン・シモンズ

「あそこにあるのはマッカランのボトル?」

「そのとおり。ピュア・シングルモルト」

「ほとんど減ってないみたいね」

「一人でやるのは好きじゃない」

「わたし、ウィスキーが大好きなの」

氷は?」

「上質のシングルモルトに?
一歩でも氷に近付いたら、
引きずり倒すわよ」

 凄い思い入れだ…もしかして、この登場人物、デイジーじゃないのか?


「唇を閉ざせ」

(ハーラン・コーベン

「このいまいましい機械が、どうしても右に曲がっちまうんだ。
真っすぐに進ませようとするたびに、こん畜生は右にずれていっちまう。
どこが悪いのか見当がつくかい?」

「共和党員なのよ」

 アッハッハ。


「輝ける日々へ」

(テレンス・ファハティ

「誰にも変化は止められない。悪い方への変化はな。
イェーツが言ったように“ものすべて崩れ去る”だよ」

こう言ってから彼は急いでつけ足した。

「イェーツってのは詩人だったよな、確か。
それともバーテンダーかな?」

 ここで話をしている「彼」も…もちろんバーテンダーです。

 ということで、“ミステリに登場する素敵な言葉”前・後編をお送りしました。

 美齢(メイリン)さん、デイジーさんご協力ありがとうございました。

 

/// end of the“その82「死にゆく者への祈り」” ///

 

《追伸》2016.8.9

 通信81と82は、メーテル編の42「やさしく殺して」(※公開終了)に続く前・後編ですが、もともとは『ミステリに登場する素敵な言葉』というシリーズ名がついていたのを今回、省略しました。

 改めて読み返してみると、81の冒頭でデイジーは“メーテルの代打”ということになっています。

 そう…メーテルとデイジーとメイリンの三人は同じ職場にいたミステリ好きの女性たちでした。(結局、メーテルは「出産準備」で登場することはありませんでしたが。)

 三人ともまだ福島市にいるはずですが、「職場」自体が亡くなったので、その後はリアルでは全くの没交渉。お変りなければデイジーさんはネイルサロン、メイリンさんは介護の仕事をやっているはず(多分)。メーテルさんの子供はずいぶん大きくなっていることでしょう。

 (※リアル・メイリンは「通信」のどこかに本人登場していますが…)

 それぞれに魅力的な三人が居た「べ●ツリー」に行ってる頃は楽しかったなぁ。(遠い目)

 

 では、次の通信で・・・See you again !

映画「三つ数えろ」

(原題:大いなる眠り)

管理人「葉羽」宛のメールは habane8@ybb.ne.jp まで! 
Give the author your feedback, your comments + thoughts are always greatly appreciated.

To be continued⇒“83”coming soon!

HOMENAVIGATION岸波通信(TOP)INDEX

【岸波通信その82「死にゆく者への祈り」】2016.8.9改稿

 

PAGE TOP


岸波通信バナー

 Copyright(C) Habane. All Rights Reserved.