「忘却の罪」の主人公マライアは、女性のCIA情報分析官ですが、作家のテイラー・スミスもまた女性です。
“愛していない男との情事”を描いたこの「忘却の罪」の表現は、まさに女性ならではの視点ではないでしょうか。
「夜明けのコーヒーを一緒に飲もうよ」という殺し文句があるそうですが、たしかに好きな男性でなければ「かたわらで目覚める」ことは、とてもできないと思います。
男性はどうなのでしょう? それは分かりませんが。
007シリーズを描いたイアン・フレミングは、作家になる前、実際にイギリスの諜報機関MI6に所属していたスパイだったそうですが、この作者のテイラー・スミスも、もと、カナダの情報局員をしていたことがあるそうで、事件の背後にあるKGBの工作についての描き方などはとてもリアルです。
ただ、登場人物が多彩で、その一人一人の背景が丁寧に説明されているために、ストーリー的には少しテンポが遅くなっていると感じました。
シドニー・シェルダンの本が(初期の作品しか読んでいませんが)、たいてい上下2巻に分かれていて、上巻はほとんど登場人物の紹介だけで終わってしまう、あんなまどろっこしさがありますね。
それにもかかわらず、この作品に惹かれるのは、きっと冒頭のような「女性ならではの感性」がちりばめられているからだと思います。