岸波通信その175「小さなもの集まれ!」

<Prev | Next>
Present by 葉羽
「November Girl」 by Blue Piano Man
 

岸波通信その175
「小さなもの集まれ!」

1 川内コレクション

2 夢想庵/古民家模型

3 まだまだある小さなものたち

NAVIGATIONへ

 

  Making of the plan exhibition 【2017.9.2改稿】(当初配信:2012.2.25)

「千点を越える極小雛道具、川内コレクション初公開
 熱中人夢想庵の脅威の古民家模型66点一挙公開!」
  ・・・福島県立博物館企画展「小さなもの集まれ!」開催チラシより

 2012年2月28日(土)から5月13日(日)までの会期で、福島県立博物館の企画展「小さなもの集まれ!-雛道具から古民家模型まで-」がスタートしました。

 正直言って、会津の厳しい冬のこの時期、お客様が着ていただけるかどうか、不安がいっぱいでした。

 だってホラ、こんなですもの↓

福島県立博物館

(雪に埋もれています。)

 それに何となく地味ではありませんか。だって“小さなもの”ですよ、“巨大なもの”とかでなく…。

 ところがっ!

 担当学芸員たちが準備を始めた1月の中旬頃、作業中の部屋を覗きに行って見ましたら…ええー!

 ナンですかこの雛道具の美しさは、そして古民家の精巧さは! え?このほかに裁縫雛形や柳津町の微細彫刻も来る? それに小さな縄文遺物やスイーツ・デコレーションまで!?

「これは見せたいねェ、できるだけ多くの人に」

 ~と、最初とはうって変わって大ファンとなり、作業の進行状況を見に日参する次第とあいなりました。

 

1 川内コレクション

 『極小雛道具』は、会津にゆかりがあり根っからのミニチュア好きコレクターの川内由美子さんが収集したお宝で、なんと本邦初公開。

 どうして“小さな”雛道具なのか?

 川内さんにお話を伺ったところ、江戸文化が爛熟する中で雛人形や雛道具はどんどん大きく華美になって行ったのだそうです。それは、本物の着物を着た等身大の雛人形が現れるほどに。

 しかし、財政が逼迫する幕府は町人の贅沢を戒めるために質素倹約のお触れを出し、大きな雛人形や雛道具も禁止されてしまったのです。

極小雛道具確認中

(梱包を解いて内容確認)

 ところが、これに反発した職人たちは、“大きなものがダメなら小さければいいだろう”ということで、匠の技の限りを尽くし、極小の雛人形・雛道具を制作したのです。

 大きなものと寸分たがわぬ技巧を極小のものに再現するのですから、むしろその価値は上がります。それはまさに“職人の意地”が為せる技でした。

 その中心となったのが江戸の『七澤屋』というお店で、川内コレクションには、そこからの出物も含まれています。

 結局は、これら小さな雛人形・雛道具も幕府によって飾ることを禁止されてしまうのですが、既に出廻ったもののいくつかは、皇室や大奥、豪商の蔵に秘匿されることとなりました。

極小雛道具

(展示作業中)

 川内由美子さんが雛道具に目覚めたのは、高松宮妃喜久子様のお雛様コレクションを雑誌で目にした時でした。

 箪笥の中には四季の着物、長持ちには布団、引き出しには櫛や簪が、そして全てのお道具の中には信じられないほど小さく精巧なものがぎっしり詰まっていたのです。

 東京の平和島では、年に5回、古民具骨董市が開かれています。中には雛道具もありました。

 川内さんは、そうした会場に足しげく通い、膨大な時間と手間をかけながら、コレクションを育てて来たのです。

 

2 夢想庵/古民家模型

 今回の企画展で展示されている古民家模型は、いわき市在住の熱中人夢想庵こと菅野清八さんが一人で制作したものです。

 この古民家模型の凄いところは、なんと言っても、その精巧さ。

 特に茅葺屋根の質感、そこに生した苔の風合い、よく見ると風に乗って種が飛んできた草花まで本物そっくりに再現してあるのです。

 “本物そっくり”…そう、この古民家たちは想像上のものではなく、実際に全国各地にあった古民家を一軒一軒調査し、小さな模型に再現したものなのです。

古民家模型

(展示作業中)

 最初に博物館に運び込まれてきた時はフロアに展示台の島を作り、そこに仮置きしてあったのですが、ちょっと覗いてその情景を見た僕は驚きました。

 そこに本物そっくりのミニチュアの集落が出現していたからです。

 目線を下げて古民家の一階の高さから眺めてみると、家の中には畳や囲炉裏もあり、軒先には洗濯物が干してあって、今そこで人々が営んでいる生活感まで、見事に再現されているのでした。

 日本も訪れたことがあるというガリバーは、きっとこんな光景を目にしたのでしょう。

目線を下げて見て見ると・・

(展示作業中)

 この“本物そっくり”に見える茅葺屋根は、実は萱ではありません。本物の萱を用いると、この大きさの屋根材としては逆に違和感がでてしまうのです。

 試行錯誤のうえ夢想庵さんが見つけた屋根材はススキでした。種が飛んだあとのススキの穂先を会津地方まで採りに行き、伸びの良い穂先の真ん中10~15センチの部分だけを用いるのです。

 大型の模型の場合、一軒の屋根を葺くのに軽トラック一台分のススキの穂先が必要というのですから、ただ事ではありません。

 それだけの手間と暇をかけて丹念に細工した屋根は、黄金色、満足のいく最高の仕上がりとなりました。

ケースに収納中

(展示作業中)

 今回の展示では、北海道から沖縄まで全国の都道府県順に並べることにしました。

 夢想庵さんは言います。

『模型を作る時に必ず心がけて居る事は、出来るだけ古材を使い、新しい木は現地の砂や泥で染め、どんなに遠くても必ずその地に行き、土の匂い、風の音やその家に住む方達との語らい、そこにしかない雰囲気を五感に感じて、模型制作に取り組みたいと実践してきました。』

 

3 まだまだある小さなものたち

 今回の企画展には、まだまだ多くの小さなものたちが集まっています。

 まずは、下の写真~裁縫雛形から。

裁縫雛形

(展示作業中)

 「裁縫雛形」とは、かつて裁縫学校などで裁縫を習う時にミニチュアを縫い上げることで技術が習得できるし材料も節約できるということで作られたものです。

 それらを縫い上げたのは、名も無き女性たち。袴や長着はもちろん、女児簡単服、シャツやワンピースなど様々なものが残されています。

 そして、特別な着物雛形もあります。八王子市在住の安藤やす江さんが集めたのは、実際に使われた着物を5分の1に縮小して縫い直した着物たちです。

 いつ、どんな人から頂いたものだったかもメモが付けられ、大正時代の柄、昭和初期の材質など、民俗資料としても貴重なコレクションとなっています。

微細彫刻の展示作業中

(よく見えませんorz…。)

 今回の企画展で最も小さなものが、奥会津柳津町に伝わる微細彫刻です。

 柳津の虚空蔵さんに関係する、ルーペが無くては判別できないほどの、それはそれは小さな仏様や神様の彫刻。

 中でも特筆しなければならないのが、黒胡麻ひと粒の中身をくり抜いて厨子とし、その中に収めた1ミリにも満たない大きさの大黒様です。

 オーマイガッ!

 …残念ながら、乱視で近視で老眼の僕には、胡麻ひと粒さえも見るのがやっと。とてもその中身の大黒様まで見ることは出来ませんでした。(※図録を買えば、顕微鏡を使って撮影した大黒様が分かります。)

 伝承によれば、天正年間に富山西道和尚が織田信長に謁見した帰り道に拾って持ち帰ったものから発祥し、現在は、柳津町の金坂富山さんがこの技を伝えています。

スイーツ・デコレーション

(美味しそう。食べられないけど…)

 今回、最も“美味しそう”なのはこちら…超ミニチュアのスイーツ・デコレーションです。

 ショート・ケーキやフルーツ、熊ちゃんの形をしたお菓子など、楽しさも満載です。

 作者の湯田さんは、現役の中学校美術の先生。彼女の教え子の中に、なかなか学校になじめず登校できない女生徒がいました。

 ある日、その女生徒が一冊の雑誌を持って湯田さんのもとを訪れたのです。その雑誌に載っていたのは、小さなスイーツ・デコでした。

 湯田さんは、早速、その制作に着手。登校できなかった女生徒は、湯田さんと一緒にスイーツ・デコを作るために学校へ来れるようになったのです。

 きっとこの中にも、二人で一緒に作ったものがあることでしょう。

小さな縄文土器

 遺跡の中には、小さな不思議なものが残されていることがあります。

 小さな女神像や、土面、とても実用にはならないような小さな斧や土器などです。

 福島県内では、縄文中期以降、こうしたミニチュアの土器がよく出土するようになり、後期・晩期にかけて種類や量が増えていきます。

 用途は明らかではありませんが、土偶や石棒などと同様、祭事に用いられたのではないかと考えられています。

 まだまだこのほかにも、寛保元年(1741年)に川俣町春日神社に奉納された県内最古の『神船』、農具の雛形、リカちゃんハウスのように屋内の造作にこだわった民家模型ほか、様々な“小さなもの”が集合しています。

 夢想庵菅野清八さんの講演会が3月18日(日)午後1時30分から、また、川内由美子さんのギャラリー・トークが4月8日(日)午後1時30分から、それぞれ予定されています。

 楽しいひとときが過ごせる事はウケアイ。是非、お子様連れでいかがでしょうか?

 

/// end of the “その175 「小さなもの集まれ!」” ///

 

《追伸》

 東日本大震災から、まもなく一年が経過しようとしています。

 実施自体が危ぶまれ、厳しい風評被害の中で昨秋開催した「会津・漆の芸術祭~東北へのエール~」も、ふたを開けてみれば初年度を上回る9万3千人(関連事業を含めればその数倍)のお客様が、会津を訪れていただきました。

 僕も、いつまでこの博物館にいるか分かりませんが、通信をご覧の皆様には、是非、この機会においでいただいて、いらした際には“お茶目な副館長”を呼び出していただけるとうれしいです。

 さっそくエントランスに駆けつけまして、ご一緒に展示を廻らせていただきます。

 それに…

 ココに来れば、天衣夢縫・外伝「イセキな一言」のイセキちゃんや、「詩鳳のフェイバリット・シネマ」の書家詩鳳ちゃん、毒舌のサナエちゃん、突っ込みのアイちゃん、そして、浴び酒天使のドロシーら本人とも会えますもの。あはははは!

 なお、エントランスでは、昨年の「会津・漆の芸術祭~東北へのエール~」のパネル展も開催中です。きっと、浴び酒天使ドローシー本人が解説をしてくれますとも。(多分ですが)

 

 では、また次の通信で・・・See you again !

福島県立博物館エントランス

(「東北へのエール」パネル展開催中。)

管理人「葉羽」宛のメールは habane8@ybb.ne.jp まで! 
Give the author your feedback, your comments + thoughts are always greatly appreciated.

To be continued⇒“176”coming soon!

HOMENAVIGATION岸波通信(TOP)INDEX

【岸波通信その175「小さなもの集まれ!」】2017.9.2改稿

 

PAGE TOP


岸波通信バナー  Copyright(C) Habane. All Rights Reserved.