岸波通信その147「目指せ、低炭素社会」

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岸波通信その147
「目指せ、低炭素社会」

1 バリ・ロードマップ

2 アンフェアな目標設定

3 計画の見直しに向けた基本方針

4 その先の“低炭素社会”

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  Low Carbon Society 【2017.12.1改稿】(当初配信:2007.12.16)

「この地球は先祖から受け継いだものではない。 未来の子供たちから拝借したものだ。」
  ・・・橋本先輩の人生ノート

 2007年12月15日、紆余曲折がありながらも、バリ島で開催されていた「地球温暖化防止対策のための国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP13)」がとりあえずの合意に至りました。

 その結論は「温室効果ガス削減の数値目標を設定せず」。

祝・京都議定書10周年

(バリ島)

←環境保護団体グリーンピースの式典。

 …そのことが、良かったのか悪かったのか?

 いいえ、それにとどまらず、地球温暖化対策のその先にある社会の姿をどのように描けばいいのか?

 ということで、今回の通信は、“その先の未来”について考察いたします。

 

1 バリ・ロードマップ

 インドネシアのバリ島で開催されていた地球温暖化防止対策のための国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP13)が、今日15日、温室効果ガスの削減目標を削除することで合意されました。

 COP13は、2012年に期限が切れる京都議定書以降の地球温暖化対策の枠組みが主な議題。

 しかし、会議の冒頭から、先進国の温室効果ガス排出量を「2020年までに1990年比25~40%削減」を主張するEUと目標設定に難色を示す米国が対立していました。

バリ島

 結局は、会議を何とかまとめようとする議長国インドネシアの妥協案に沿って、目標設定が見送られたわけです。

 この結果に安堵の胸をなで下ろしたのは、我が日本ではないでしょうか?

 というのも、日本は京都議定書で国際公約とした基準年の1990年度比マイナス6%という目標に対し、2006年の温室効果ガス排出量はマイナスどころかプラス6.4%の増加となっているからです。

 政府は、「マイナス6%」の削減目標達成のために2005年に策定した「京都議定書目標達成計画」に基づいて産業、業務・家庭、エネルギー転換など9カテゴリー54項目からなる対策を推進して来ました。

 ところが、わずか二年後に、この対策がさほど功を奏していないことが明らかになったわけです。

温室効果ガスGHG
排出量の推移年

←目標達成は困難?

 今年9月、政府の中央環境審議会地球環境部会などが取りまとめた「京都議定書目標達成計画の評価・見直しに関する中間報告」でも、今後何らかの追加対策をとらない限り目標達成は困難との見方が示されました。

 こうした話を聞くと、ついつい思い出されるのが安部前首相が提唱した「美しい星50“クールアース50”」・・・。

 これは、2007年6月にドイツのハイリゲンダムで開かれたG8サミットに向けて安倍晋三首相(当時)が提案したものです。

 安部前首相は、この“美しい星50”の中で「世界全体の温室効果ガス(GHG)排出量を現状から2050年までに半減という長期目標を世界共通目標とする」と主唱していたのです。

 言わせた官僚が悪いのか、7月の(大負けした)参院選に向けてリップサービスせざるを得なかったのか・・・いずれにしても日本の国際的立場を大きく損なうニュースとなりました。

 さて、何とも不思議なのが、どうして日本だけがこのようなことになってしまったのかという事です。

 

2 アンフェアな目標設定

 11月28日の毎日新聞大阪朝刊に、京都議定書の目標達成見通しに対するEU委員会の報告書が紹介されています。

 記事によると、温室効果ガスの削減義務を負うEU15カ国全体で、2010年の目標8%削減に対し、これを大きく上回る11.4%の削減が可能とのこと。

 日本がこれほど苦闘している温暖化ガスの削減が、どうしてEUには可能なのでしょう。

温室効果ガス
排出量の数値目標

(基準年排出量比)

 この謎を解く一つのキーワードが“エネルギー効率”です。

 これは、「1ドルのGDPを生み出すのに使われるエネルギー消費量」という概念で、平たく言えば、財やサービスを生み出すためにいかに効率的にエネルギーが使われているかということ。

 1990年当時の日本のGDPは、(ドル換算で)3兆397億ドルあったのに対し、エネルギー消費量は4億4592万トン。

 エネルギー効率は0.15kg/ドルとなります。

シボー原子力発電所

(フランス)

 これに対し、同様に計算したEUの主要国、英国のエネルギー効率は0.2kg/ドル、ドイツが0.21 kg/ドルで、フランスが0.19 kg/ドルとなります。

 つまり、1990年当時、日本はEU主要国とくらべて20~30%もエネルギー効率が高かったのです。

 別の言い方をすれば、それだけ日本の生産システムの省エネ化が進んでいたということになります。

 これでは、例え英国やドイツが10%や20%程度、温室効果ガスの削減を実現したところで、まだまだ日本の省エネ生産システムのレベルには追いつきません。

 “発射台”の高さが違うのです。

 加えて、英国の1990年頃というのは、北海油田の開発に伴う石炭から石油へのエネルギー転換が進められていた時期で、二酸化炭素の排出量は、それだけで減少できる環境にありました。

北海油田

(イギリス)

 一方のドイツの1990年と言えば東西ドイツが併合された直後で、エネルギー効率の低い旧東ドイツの生産システムが基準年の数字に含まれています。

 さらに、フランスの場合は、もともと原子力利用の比重が高いことが勘案され、削減目標自体が1990年と同程度(削減ゼロ)と設定されているのです。

 これでは、先行して省エネ生産システムを達成している日本が不利なのは自明の理。

 京都議定書における温室効果ガスの削減目標が設定される際、わが国の産業界が抵抗した理由は、まさにこのアンフェアさにあります。

 とはいえ、約束は約束…。

 さて、わが国政府は削減目標の達成に向けた道筋をどのように描こうとしているのでしょう?

 

3 計画の見直しに向けた基本方針

 「京都議定書目標達成計画」の達成状況がはかばかしくないことを受け、政府はこの10月はじめに「計画の見直しに向けた基本方針」を発表しました。

 この方針では、「業務部門の業界団体を中心に計画策定や数値目標の設定を拡げていく」ことと「一部業種の目標を引き上げる」などの追加対策が講じられています。

 この追加対策は、本当に効果が期待できるのでしょうか?

 10月16日付けの「日系ecolomy」には、これら産業部門の中で温室効果ガスの排出量が大きい鉄鋼・化学・石油・紙パルプ・セメントの主要5業種の2012年度排出量予測が掲げられています。

 ◆1990年度からの排出量・生産量の伸び率(2006年度実績及び2008~2012年度予測値)

主要5業種の排出量予測

←日経ecolomyより引用。

 これを見ると、化学・石油・紙パルプについては、生産量の伸びに比して排出量が低く抑えられ、省エネ化が進展しているものの、生産量自体の増加が見込まれるために、結局、排出量は増加することになります。

 実質的な削減は、鉄やセメントなど生産量が減少する部分に依存しており、総体として排出量を押さえ込むのは困難であると言わざるを得ません。

 ならば、政府自体では、どのような取り組みを進めようとしているのでしょうか?

 「目標達成計画」に関する政府の2008年度概算要求額を見ますと、温室効果ガス対策予算は、全体で15%の増とテコ入れされています。

 うち、「削減約束に直接の効果があるもの」5956億円に着目すると、経済産業省の約3000億円と農林水産省の約2400億円が大部分を占め、それぞれ今年度予算よりも要求額が40~50%も増えています。

 その具体的な内容は以下のとおりです。

2020年度政府概算要求

(温室効果ガス関係予算)

←うち「直接の効果が
あるもの」の内訳。

 これを見ると、最も大きなのが農水省の「森林吸収源対策」で、もともとこれは、京都議定書で約束した6%の削減量のうち3.8%と最も大きなウエイトを占めるものです。

 ところが、日本の林業は、価格競争で外来材に歯が立たず、経営的に成り立たないことは周知の事実。

 こうした森林になぜ追加投資をしなければならないのか?

 これは、温室効果ガス吸収源として認められる森林が「新規植林」「再生林」「森林経営」に限定されており、“あり余る”森林を持つ日本としては、既にある森林に間伐予算を投入するしか道がないのです。

 一方、経産省が要求する「エネルギー供給部門の対策」のほぼ半分を占めるのが、原子力発電立地地域への交付金です。

 これは別名「迷惑料」と呼ばれることもあるくらいで、原子力発電所が存続し続けるための効果は期待できますが、それ自体で、現にある温室効果ガスを削減することはできません。

柏崎刈羽原子力発電所

(新潟県)

 このように見てくると、2012年の6%削減目標の達成が危ぶまれるだけではなく、計画のあり方そのものに対しても「本当にこれでいいのだろうか」という疑問がわいてきます。

 

4 その先の“低炭素社会”

 ともあれ、温室効果ガスの削減はわが国の国際公約であり、達成に向けた努力を怠るわけにはいきますまい。

 私自身は、通信another world.の“地球温暖化シリーズ・四部作”で述べたように、温暖化ガスの僅か2%を占めるに過ぎない二酸化炭素のさらに一部分である「人為的排出二酸化炭素」を抑制するだけで地球温暖化が解決するという楽観的な立場には立っていません。

 それにも関わらず、温暖化対策は、わが国にとって重要な意味を持つと考えています。

 それは、温暖化対策が、とりもなおさず“化石燃料依存体質からの脱却”という側面を持っているからです。

また、ガソリンが値上げ…

 近年の原油価格の高騰により、主要なエネルギーを中東などの石油に依存しているリスクがクローズ・アップされて来ましたが、エネルギー安全保障の面からも、脱・化石燃料~すなわち『低炭素社会』の実現が急務なのです。

 さらに、もう一つ重要な観点は、脱・化石燃料と持続的な経済成長の両立を図ることです。

 これまでの温暖化対策は、どちらかと言うと、資源やエネルギーを節約するという側面が強調され過ぎていなかったでしょうか。

 つまり、エコすなわち省エネ・省資源という図式です。

 少なくとも、国民意識のレベルでは、地球に優しく環境に優しいライフスタイルへの転換がエコ(=温暖化対策)ではないかと思います。

家庭用一次エネルギー消費

←確かにエコ自体は大切なのだが…。

 しかし、米国や中国の例を挙げるまでもなく、世界における温暖化対策とは自国の経済成長という“国益”を考慮した上で主張すべきことを主張しています。

 経済成長や国民生活の向上という観点を抜きにしたエネルギーの節約は国家発展の足枷にしかなりません。

 アンフェアな京都議定書に自らサインしたわが国政府は、削減目標の達成努力と同時に、持続的な経済成長を可能にする「低炭素社会」の実現にきちんと責任を持つべきです。

 要は“バランス”なのです。

 ならば、両立を実現するための具体策とは何か?

 私は“技術開発”だと考えます。

 それは、燃料電池の実用化であり、再生可能エネルギーの低コスト化であり、究極の削減対策と言われる大気中二酸化炭素の固定化・埋め込み技術の開発等々・・・それが何よりも重要なことではないでしょうか。

 (原子力の安全技術やメタン・ハイドレードや核融合発電利用技術は含めていいのでしょうか・・悩みます。)

 京都議定書から10年。

 間もなく地球温暖化対策は第二フェイズに入ろうとしています。

 さて、我々は、未来の子供たちから拝借したこの地球を、健全な形で引き渡すことができるのでしょうか?

 

/// end of the “その147 「目指せ、低炭素社会」” ///

 

《追伸》

 再生可能エネルギーの議論によく登場するのがバイオマス(生物由来エネルギー)です。

 平たく言えば、木材などを燃焼させてタービンを回して電気エネルギーに変換する、あるいは、そのまま熱エネルギーとして利用するということでしょうか。

 そして、バイオマスが再生可能エネルギーであるという根拠に用いられるのが“カーボン・ニュートラル”という考え方。

 要するに、木材は、もともと大気中の二酸化炭素を取り込んで固定化しているので、それを燃やしても大気中の二酸化炭素濃度には負荷を与えないという考え方です。

 でも、この理論には大いに疑問を感じます。

 これは、前提として、木材を燃焼する量と森林が再生産される量が平衡を保っていることが必要です。

 現実には、森林面積の急速な減少や砂漠化が大きな問題となっている中で、敢えてカーボン・ニュートラルを声高に主張する理由は何なのでしょう。

 わが国にも利用されずに土に返る木材・間伐材が多く存在するのは事実ですが、これらの切り出しや運送には多大な労力、費用とエネルギーを消費します。

 これは“重厚長大”なエネルギー源の宿命です。

 それら総体的なエネルギー効率・経済効率の条件をクリアするバイオマス材というのは、そんなに存在するものなのでしょうか? うむぅ…。

 

 では、また次の通信で・・・See you again !

海に沈む国家ツバル

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To be continued⇒“148”coming soon!

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