岸波通信その128「時の地平線」

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Present by 葉羽
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岸波通信その128
「時の地平線」

1 太田総理の反論

2 時の地平線/タイム・ホライゾン

3 実在した“収益分配国家”

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  Over the Time-horizon 【2018.1.28改稿】(当初配信:2006.1.9)

税によって国家を支えているのが現在の社会システムだとすれば、今度はその次の段階・・・“無税国家”というものを構想しなければならない。」
   ・・・松下幸之助

 2006年が明けた1月3日、テレビ特番で太田光の「私が総理大臣になったら」というバラエティ番組をやっていました。

 番組の構成は、太田光が総理大臣としてのマニフェストを披露して、参加者の政治家やタレントなどが賛成・反対に分かれてディベートを行うものです。

 太田光と言えば、お馴染み“爆笑問題”の田中の相方…まあ、マニフェストの方も「小泉チルドレンのテレビ出演を禁止する」など相当ひねったものが用意されていて、真面目な議論というよりは、ハチャメチャな議論を楽しむ趣向だな、と軽い気持ちで眺めていたのです。

 ところが!

爆笑問題

 何番目かのテーマが「国内の自衛隊基地を全て田んぼにする」というマニフェスト。

 いくらなんでも、これでは議論にはなるまいと思っていると、案の定、自衛隊廃止の賛成派は太田総理ほか3名の超少数派…政治家は与党議員も野党議員もこぞって反対の席に。

「一国平和主義は単なる理想論。」

「外交努力で守れる平和には限界がある。」

「自衛権の行使は国際法でも認められている当然の権利。」

 ~といった、もはや言い尽くされた国民的常識とも言える論陣を前にして、太田総理は一歩も引かない。

 この番組を見ていなかった貴方、そう、今、炬燵でミカンを食べながらこれを見ているそこのアナタ。貴方ならどのように反論できますか?

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 1 太田総理の反論

 太田総理は言う。

「かつて、日本国内でも戦争が繰り返されてきた。しかし、刀狩りや廃刀令など武器を放棄することから努力を積み重ねて戦争の無い日本を作ったじゃないか。

 今の国際社会の中で日本が武器を捨てても本当にだいじょうぶかという議論でなく、どうしたら戦争の無い世界がつくれるのかという究極の理想(ビジョン)を語って、そこに一歩でも半歩でも引っ張っていくのが政治家の責務だ。」

 おっと…久しく耳にしなかった“世界思想家”の発言です。

 今の日本の…否、世界の政治家たちの中で、「究極の世界平和」についてビジョンを語れる人物がどれだけいるでしょう?

 太田総理が語ったことは「現在の世界でどうするのが最適か」ではなく、「その先の人類の未来をどう構想するか」というように聞こえました。

 例えば、世界の警察、米国はどうなのか。その指導者が目指しているのは“世界の平和”なのか“国益のための平和”なのか?

 例えば、目覚めた獅子、中国はどうなのか。その指導者が求めているのは“13億の幸福”なのか“体制の維持”なのか?

 そして、この日本はどうなのか。常任理事国入りで得ようとした発言力のその先に、語るべき“世界平和のビジョン”は本当にあったのか?

松下幸之助翁

 かつて、松下幸之助は言いました。

「現在の社会システムが最良のものとは限らない。

 例えば、税によって国家を支えているのが現在の社会システムだとすれば、今度はその次の段階・・・“無税国家”というものを構想しなければならない。」

 この言葉に最初に出会った学生の頃の感動をまざまざと思い出します。

 人類が苦難の末に築き上げた現在の社会システム。それすら、人類の長い営みの中では、一つの“踊り場”に過ぎないと言うのです。

 しかし…その後に続く言葉を読んで、さらに大きな衝撃を受けました。

「たとえ“無税国家”が実現できたとして、それで満足してはいけない。

 次は、国家が富を自ら生み出して国民に分配する“収益分配国家”を構想しなければならない。」

 どうでしょう?

 これでもまだ、松下幸之助翁の思想は貴方の魂を揺さぶるには不十分ですか?

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2 時の地平線/タイム・ホライゾン

 人間は、自分が今、置かれている状況の中で最良のアイディアを考えることはできます。

 しかし、“その先の未来”を語る人間も必要なのです。

 どうして、それを語れる人間がいなくなってしまったのか?

 その原因は、現代人が捉われている“時の地平線(タイム・ホライゾン”にあると思います。

 人は皆、自分の生きている時代の範囲でしかモノを考える事ができない。その先が見えなくなっているのではないか?

地平線

 かつて日本には、「国家百年の大計」という言葉がありました。

 しかし、2080年に、直径約1キロメートルの小惑星1950DAが、0.3%の確率で地球に衝突する…NASAが発表したこのニュースを聞いて慌てた人は、おそらくこの日本にほとんど居なかったでしょう。

 普通の人間は、無限に長い時間を想定して行動しているのではなく、一定期間内の最適な目標を想定して行動するのだそうです。

 その想定できる時間の地平線をタイム・ホライゾンといい、80年後に衝突する小惑星は、この想定を超えた時点の危機なのです。

小惑星の衝突軌道

 そして、この問題が顕在化するのは、むしろ経済政策の分野などです。

 国が巨額の借金を重ねて公共投資や所得税減税による景気浮揚を図った時代も「こんな事をしていたら100年後の日本は大変なことになる」と考えた国民は希のはずです。

 自分自身は、そこまで生きていないからです。

 政府の政策担当者に至っては、せいぜい自分の任期である数年間がタイム・ホライゾンで、それまでを何とか乗り切ろうと政策を立案するのが普通でしょう。

 しかし、全ての人間がそうであっていいのでしょうか?

 「現実を見ろ」…これは、小利口な政治家が好んで口にする言葉です。

 当面のしのぎ方でなく、ましてや自国だけの利益でなく、“人類の種の未来”を語れる思想家が必要だと思います。

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3 実在した“収益分配国家”

 松下幸之助翁の語った理想…それを単なる絵空事ではなく、既に実現している国があることを知って驚きました。

 その国は、赤道近くの太平洋上に浮かぶ人口一万人ほどの島国、ナウル共和国。

 この島は、珊瑚礁にアホウドリの糞が堆積して出来た島です。

 アホウドリの糞は長い間にリン鉱石に変化し、それを国家が採掘して輸出することで国家財政は潤い、教育・医療は無料、そして、税金も無いという夢のような国。

ナウル共和国の位置

←アホウドリの糞でできた島。

 もちろん、こうしたやり方…天然資源の切り売りでは、いつか限界が来るでしょう。

 そこに考えが及ばないこともまた“タイム・ホライゾンの闇”だと言えます。

 ナウルのリン鉱石は、21世紀中には枯渇すると言われています。

 おそらくその頃には、中東の産油国も同じような運命を辿るでしょう。

 ならば、松下翁の語った“収益分配国家”は、絶対に不可能なのか?

 その結論を出すのは、まだ早すぎると思います。

 天然資源の切り売りではなく、テクノロジーではどうなのか?

 世界の人口のたった6%が全人類の6割の富を所有している現実を変えることで実現できないのか?

 税の多くが、お互いを殺しあう軍事費に用いられている現実を変えることで実現できないのか…?

爆笑問題

ナウル共和国

 “タイム・ホライゾンの闇”に捉われず、人類の種の未来のために、我々が考えなければならないことは沢山あるはずです。

「宝くじは、買わなければ絶対に当たらない。」

 そう…

 まずヴィジョンを持たなければ、決してその理想には近づけないのですから。

 

///end of the “その128「時の地平線」” ///

 

《追伸》

 お気づきの方もいらっしゃると思いますが、「世界の人口のたった6%が全人類の6割の富を所有している」というのは、1990年にD. Meadows氏がThe Global Citizenに掲載した「ある村のレポート」という論文をもとにして作られた、あの有名な「もしも世界が100人の村だったら」からの引用です。

 世界に感動を与えた文章ですが、そのPart2をご紹介してみようと思います。

(Part3とPart4もあり、これらは作者不詳。)

【もしも世界が100人の村だったら】Part2

 もし、あなたが今朝、目が覚めた時、病気でなく健康だなと感じることができたなら・・あなたは今いきのこることのできないであろう100万人の人たちより恵まれています。

 もしあなたが戦いの危険や、投獄される孤独や苦悩、あるいは飢えの悲痛を一度も体験したことがないのなら・・・あなたは世界の5億人の人たちより恵まれています。

 もしあなたがしつこく苦しめられることや、逮捕、拷問または死の恐怖を感じることなしに教会のミサに行くことができるなら・・・あなたは世界の30億人のひとたちより恵まれています。

 もし冷蔵庫に食料があり、着る服があり、頭の上に屋根があり、寝る場所があるのなら・・・あなたは世界の75%の人たちより裕福で恵まれています。

 もし銀行に預金があり、お財布にお金があり、家のどこかに小銭が入った入れ物があるなら・・・あなたはこの世界の中でもっとも裕福な上位8%のうちのひとりです。

 もしあなたの両親がともに健在で、そして二人がまだ一緒なら・・・それはとても稀なことです。

 もしこのメッセージを読むことができるなら、あなたはこの瞬間二倍の祝福をうけるでしょう。

 なぜならあなたの事を思ってこれを伝えている誰かがいて、その上あなたはまったく文字の読めない世界中の20億の人々よりずっと恵まれているからです。

 我々は、自分一人だけの幸福や欲望に捉われていないでしょうか?

 

 では、また次の通信で・・・See you again !

ナウル共和国

←実在した収益分配国家。

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To be continued⇒“129”coming soon!

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