存在と記憶 (詩:葉羽)
吉田重信さんの「存在と記憶」を見て
涙があふれ出した
封印していた哀しみがよみがえる
これは逃げ惑う子供たち
泣き叫びながら
助けを求める声が聞こえる
でも自分の思い出は
その向こう側に見える
自分の母親の記憶
決して自分の意見を曲げない頑固者
だからまさか 震災の中で
そんなに心が弱っているとは思わなかった
寝たきりとなった父が病院から帰され
水も電気もなく食糧も買えない中
一人で看病していた
「父ちゃんを残しては行がんに」
自分のいる会津へ避難させようとしたが
きっぱりと否定した
父は動かせる状態ではなかったのだ
「来月になればお前も帰って来れるんだろ」
人事のことは分からない
分からないからそう言った
刹那、あの気丈な母が絶望の表情を見せた
軽々しい自分の言葉を深く悔いた
震災の特例で人事異動は凍結となった
助けに行かせようとした妻もまた
過労から病を得て動けなかったのだ
母が亡くなったのはそれから半月後
震災後の心労が原因なのは明らかだった
あの時 自分に何ができたろう?
3.11 そして第一原発の爆発から一か月
フクシマの人間は 毎夜
この「存在と記憶」の悪夢にうなされて来た
恐怖と破滅が恐ろしい勢いで迫ってくる
それでもそれぞれの事情で
逃げることができなかったのだ
家族を失い 家を失い
それでも災害の最前線で
頑張る部下たちもいたのだ
あの時 自分に何ができたろう?
母ちゃんゴメン
俺は頼りにならないダメな息子だったよ
母ちゃん ほんとにゴメン |