こんにちは。気付けば人生の傍らには必ず映画があった岸波です。
お父さん、世界は終わってしまうの――
10年ほど前だったでしょうか‥かつて観たスティーブン・キング原作のSFホラー『ミスト』をAmazonプライムで再び視聴しました。
というか、途中まで”二度目の鑑賞”に気づかず、気づいた頃にはあまりの緊迫感に中断できず、最後まで観てしまったのですが。
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ミスト
(C)2007 The Weinstein Company.All rights reserved.
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”読んだあと厭な気持になるミステリ小説”を「イヤミス」と言いますが、僕に言わせれば、スティーブン・キングは「イヤSF」の代表作家。
特にこの『ミスト』(原作:1980年の中編「霧」)は究極のバッド・エンディングと呼んでも遜色ない作品。
なので、僕のように「映画には感動とカタルシスが必要だ」と考えている向きには絶対におススメできない作品。
じゃ、何で見たんだよ(笑)
しかし「ホラー好き」なら、絶対に抑えておかなけらばならない作品でもありましょう。さて、その内容やいかに?
霧(ミスト)がすべてを覆い尽くし、
やがて最後の審判がくだされる
映画の冒頭、湖のほとりに居を構えるデヴィッド(トーマス・ジェーン)の町一帯を強烈な嵐が襲う。
翌日、倒木で家の一部と小屋を壊されたデヴィッドは、妻ステファニー(ケリー・コリンズ・リンツ)を家に残し、8歳の息子ビリー( ネイサン・ギャンブル)と隣家の黒人弁護士ノートン(アンドレ・ブラウアー)を同乗させ町に買い出しに。
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ミスト
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ところが、山手の軍事基地がある辺りから濃い霧が降りてきて街全体をすっぽりと覆ってしまう。
彼らが入店したホームセンターも周囲が全く見通せなくなり、パトカーや緊急車両のサイレンが鳴り響く。さらに電話も通じなくなり客らは不安にかられる。いったい何が起こったんだ?
そんな時、血を流しながら男が駆けこんで来て「絶対、表に出てはだめだ。霧の中に何かがいる!」と。
霧の中から・・
パニックになる客たち。一人の女性が「家に小さな子供たちを残して来た。誰か私を家まで送って!」と訴えるが、誰も危険を冒そうとする者はいない。
女性は捨て台詞を残して、一人店の外へ・・。
さて、いったいこの町に何が起こっているのか? 霧の中に居る「何か」の正体は? はたまた単身脱出した女性の、そして店に閉じ籠ったデヴィッドらの運命や如何に?
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ミスト
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本作の演出・脚本を務めたのはフランク・ダラボン。
彼は同じスティーブン・キングの原作による『ショーシャンクの空に』(1994年)、『グリーンマイル』(1996年)も世に送り出しています。
共通して言えるのは、観た人全員が鬱になる作品であること。
『ショーシャンク‥』は、脱獄成功で一瞬のカタルシスはあるものの、決してハッピーエンドとは言えない。
『ショーシャンク‥』の名シーン
この”徹底して人間の醜さを暴き出す”というのがスティーブン・キングが彼たる所以であるので、今回の『ミスト』ではどうなのか?
ネタバレで言えば、霧の中に居るのは大小様々な異世界のクリーチャー。これは山の上にある軍事研究所が「異世界の門」を開いてしまったため、そこから流れ込んで来たもの。
蠅型クリーチャー
すでに町中には異世界の怪異が溢れており、緊急車両が行き交っているのもそのためなのだ。
ただ、この映画(あるいはスティーブン・キング)が描きたかったのは、ソコではなく、閉ざされたホームセンターの中で次第に募る人間同士の不信と対立だと思う。
原作者のスティーブン・キング
店の中には三つのグループが生まれる。正気を保ち何とかクリーチャーの脅威に対抗しようとする主人公デヴィッドらのグループ。
そして、怪異の証拠を目の当たりにしながらそれを否定し、外部に救援を求めようとする弁護士ノートンのグループと、これらはすべて”神の思し召し”だとする狂信者のグループ。
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ミスト
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彼らは互いに対立するが、結局静止を聞かず外へ出ていったノートンらのグループはともかく、自らが預言者であるように振舞うミセス・カーモディ(マーシャ・ゲイ・ハーデン)のその追従者のグループは非常に怖い。
狂信者ミセス・カーモディ
聖書を片手に「神が遣わした最後の審判の者たちを鎮めるためには、イケニエが必要だ」とまで言い出し、彼女が指し示した者にみんなでナイフを突き立て、無理やりクリーチャーに差し出すのですから。
いやぁコレは、宗教の怖さを改めて思い知らされます。殉教のため自爆テロも辞さないイスラム過激派もそうですし、一方では、赤軍派リンチ殺人事件も浮かぶ。
元最高幹部・重信房子
しかも、このミセス・カーモディのグループは瞬く間に勢力を増やして、正気を保つデヴィッドらのグループは圧倒的少数派となってしまう。
怖いのはむしろ、クリーチャーより狂信者集団となった人間。恐ろしい世界です。
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ミスト
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ただ、若い頃は色んな事に興味を持ち、ホラーもアクションもロマンスも様々な作品を観て来ましたが、歳をとるとさすがにキツイ。
それでも、バッドエンド作品はギリシャ悲劇、シェイクスピア悲劇、それがお好みらしいフランス映画と、歴史上綿々と作られ続けているのは、それが現実の一側面だからなのか。
イケニエにされる兵士
そう・・この『ミスト』は極めつけのバッドエンドで幕を閉じるのです。
狂信者の群からの脱出を図り生き残ったのはデヴィッド父子と女性教師、校長夫妻の5人。
逃げ出した5人
彼らは車に乗り込み、デヴィッドが自宅に残した妻の安否を確認に。しかし、壊れた窓から侵入したクリーチャーによって既に絶命。号泣するデヴィッド。
さらに、町の外まで逃げようとするが途中でガス欠となり。立ち往生したした所に超巨大クリーチャーがやってくる。もはや絶体絶命。
超巨大クリーチャー
もはやこれまでと持ち出した銃を確認すると残弾は4発。大人三人に自決の同意をとって寝入っている息子と三人を射殺。デヴィッドは車の外へ出て「さあ、オレを殺しに来い!」と絶叫するのです。
しかし・・
その時に霧の向こうからやって来たのは、武装した軍の大隊。救出された人々を乗せた車列もあり、その中には、最初に逃げ出した女性が二人の子供と共にいる姿も。
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ミスト
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自決をもう少しだけ思いとどまれば、救われていたのに・・何と言う運命の皮肉。呆然自失とはまさにこのこと。
この紙一重の地獄に突き落とすところがスティーブン・キング節。不条理、無常感。この衝撃のラストによって、作品は非常に高い評価を得ているのです。現代のギリシャ悲劇か。
けれど、心底ホラーが好きだと言う以外の一般の人には、大きなトラウマを与えかねないラストとも言えるでしょう。実際、僕は絶句しました。
スティーブン・キングとフランク・ダラボンのコンビによる不条理世界。貴方はこの作品を評価しますか? それとも・・?
/// end of the “cinemaアラカルト410「ミスト」”///
(追伸)
岸波
たった一つの判断の過ちから、ハッピーエンドから底知れぬ地獄に突き落とされる。実に恐ろしい世界。
この流れから言えば、ホームセンターに取り残された狂信者集団も救われてしまうということなのでしょう。
なお、このラストシーンはフランク・ダボランにより改変されたもので、原作では4人を射殺した後、デヴィッドが銃を口にくわえ何発も空砲を撃つところで終わっています。より絶望感を強調したエンディングとなっているワケです。
ということで、決しておススメできない映画ですが、同時に忘れられない映画でもあります。
では、次回の“cinemaアラカルト2”で・・・See you again !
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ミスト
(C)2007 The Weinstein Company.All rights reserved.
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